4.
あれだけ寝たにもかかわらず、夜は夜で爆睡した私。
しかし爆速で聖女の力は溜まるから、それは大変にありがたい。
旅も中盤に差し掛かり、ジェルスさんともメアリーさんともなんとなくうまくやれている。
メアリーさんとは、馬車の中も一緒だったりと一番長く過ごしていることもあって、仲良くなってきている自覚はある。
私から喜んでもらえるような話題はないけど、メアリーさんは王都での話とか、伯爵家や貴族の話とか、王都や領地、美味しいスイーツのお店とか、色んなことを教えてくれる。
ただ。
湯浴みできる場所は宿でも限られているし、村でも毎日水浴びすらできなかったから体が洗えないのは別にいいんだけど。
「アリア様、体をお拭きいたします」
「……」
怪我を治してくれたお礼を兼ねて全力でお仕えいたします! と張り切っていて、私としてはめっちゃ恥ずかしい。他人に体を拭かれるとか慣れてないからね。
だけどメアリーさんは頑として譲らず、観念した私は彼女に身を委ねることにした。
自分に浄化を使えば汚れも落ちて綺麗にはなるんだけど、まだ完全に使いこなせているわけじゃないし、あんまり力は無駄遣いしない方がいいかななんて思ってるので、緊急性がないときには使わないようにしている。
あ、旅の初日の食べ過ぎによる腹痛は、緊急性が高いものだったのであれは無駄遣いではない。
ついでにお世話好きのメアリーさんは、私に色々と服飾品やらを買ってくる。馬車で移動しかしてない身だから、その辺の服でいいんじゃと言ってみたら、怒られた。
アリア様の可愛らしさを少しでも皆に周知しないと! と張り切っているので、私はもう何も言わずにされるがままだ。
実際綺麗な服を着たりするのは、テンションが上がるのは事実でもある。
ジェルスさんと絡むのは、主に食事の時だ。
「アリア様、野菜も食べてください」
「だってこれ、匂いがちょっと……」
「まったく……。好き嫌いしてると大きくなれませんよ」
「遺伝的にこれ以上大きくなれないからいいんです」
「背はともかく、頑張ればいろいろとまだ間に合うかもしれませんよ」
はっきりとは言わなかったが、こんにゃろう、身長以外の発育が劣ってると言いたいようだ。
とりあえず、ジェルスさんは口うるさい。そして結構失礼な男だった。
しかも、腹が立ったので無理やり野菜を口に押し込むと、
「よくできましたね」
まるで小さい子供を褒めるような言い方で頭を撫でてくる。
「私十八歳! 分かります? これでも立派なレディなんですけど!?」
「立派な淑女の方は、決して好き嫌いせず全てお召し上がりになります。メアリーのように」
「くっ……。そんなに嫌味だと女性にもてないですよ!」
「ご心配には及びません。放っておいてもあちらから寄ってこられるせいか、特に不自由は感じておりませんので」
「こらこらお二人とも」
そのうちにメアリーさんの仲裁が入って……という感じである。
私よりも五つも年上なのに大人げないぞとか思うことはあるけど、彼が私を聖女様って敬い奉るタイプじゃなくてよかったとは思ってる。
ちなみに他の騎士の人たちだけど、数日前、馬車が野獣に襲撃された際、ケガをした数人に治癒をしたのを目の前で見たからなのか、以降、キラキラした瞳で拝まれるようになった。
うん、なんか、期待が重い。そして微妙にストレスが溜まる。悪気がないって分かってるだけに余計に。
そんな感じだが、ともあれ旅は順調である。
私が聖女として現れた、という話は正式には発表されておらず、おかげで人に群がられるとか面倒な事態はあまり起きなかった。
そもそも王家の紋章入りの馬車での移動なので、目立つには目立つけど、周囲には私の姿をかき消すほどの護衛がいたし、正直馬車から出るとこを見られたところで、メアリーさんの方が目立つ。私は彼女のお付きの子供くらいにしか見られていないだろう。
王家からも、自分たちがその力を確認できるまでは力を使うな、と言われていて、私も特に自分から目立つようなことを率先してはしていない。
まあ、ひどい怪我や病気の人を見てしまった時には、私だとばれないように遠隔から光球を飛ばして聖女の力をこっそり使ったりはしたけど。太陽の光の下だと、意外とばれない。
だけど私は最近気になることがあった。
なぜかジェルスさんとメアリーさんの表情が、ふと私を見た時にどこか憐れむような、暗い表情になってることがある。もっとも二人とも、私が見てることに気付いたら、すぐにそのどんより曇り空みたいな表情は消えちゃうんだけど。
という訳で、さっそく私は次の二人とのごはんの時に聞いてみることにした。