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3.

 街の食堂の個室っぽいところに案内された私は、目の前のテーブルに並ぶごはんについ目がハートになる。

 ちなみに今ここにはジェルスさんとメアリーさんだけで、他の護衛の人たちは警備で外を守るチームと、同じ食堂の個室じゃないエリアで先にご飯を食べるチームに分かれている。


 一人で食べるのも味気ないし、二人にも一緒の席で食べてほしいと頼むと了承してくれたので、私は気になる料理を片っ端から頼んでみた。

 

 そうしてやってきたご飯はどれも美味しそうで、勿論味もめちゃ旨で、思わず食べ過ぎてしまったため、胃がびっくりして腹痛に見舞われる羽目になった。

 自分に治癒かけたらすぐに治まったけど。

 なので調子に乗って甘いものが食べたいなぁと口にしたら、


「駄目です」


 ジェルスさんに即座に却下されてしまった。


「でも、もしお腹痛くなっても治癒かけたら別に……」


「そういう問題ではありません。第一アリア様は食べ過ぎです。……あなたのそのお姿から察するに、これまで十分な栄養を摂れていなかったことは分かります。だからこそ、少しずつ食べ物に体を慣らしていかなければなりません」


 彼の言葉はもっともだ。

 私だけではなく、村人全員に言えることだけど。

 久しぶりの豪勢な食事についはしゃぎすぎてしまった。


「すみませんでした。もう十八なのに落ち着きがないと、村の人たちにもよく言われてたんです。今度から気を付けます」


 するとジェルスさんとメアリーさんが分かりやすく息を引きつらせたあと、同時に叫んだ。


「十八なのか!?」


「十八歳ですか!?」


「……分かってますよ、見えないって言いたいんですよね」


 確かに一般的な十八歳と比べると、顔立ちは幼いし背も小さいし胸もまあ、ささやかすぎるくらい。

 栄養環境がっていうのもなくはないだろうけど、同じ村の同い年の子に比べたらその差は歴然だったから、遺伝とかもあるんだろう。


「うちの一家は皆童顔で小柄だったらしいです。だから私もそれを受け継いでるんだと思います」


 ちなみにメアリーさんは二十歳で、ジェルスさんは二十三歳だそうだ。

 二人とも年相応である。そしてどちらも美形だ。


 ジェルスさんは侯爵家の三男だそう。金にオレンジが混ざった色合いの髪で、顔つきは険しいけど、赤みの強い瞳はどこかあたたかげで、なんだか安心させられる。

 精悍な顔つきと鍛えられた肉体をお持ちで、その上いいとこのボンボンの騎士様とか、ジェルスさんを見守る隊的なものの一つや二つくらいありそうな感じだ。


 光に透けるとキラキラする赤毛をお持ちのメアリーさんは、伯爵家の生まれ。真ん丸なエメラルド色の瞳とぷっくりした唇で、綺麗というより可愛らしい。男たちが放っておかないだろうなと感想を述べたら、火傷がありましたから……と消極的なお答え。

 だけどその痕もなくなったことだし、これからは存分に彼女の可愛らしさを自信をもって発揮させられるだろう。


 それに比べて私ときたらですよ。

 でもまあ、だからといって不満があるわけでもない。鏡を見るたびに家族との繋がりを感じられて幸せな気持ちになれるから。


「失礼ながら、アリア様のご家族は……」


 気にかけるような声音でジェルスさんに尋ねられた私だけど、あえて暗い空気を壊すように明るい口調で答えた。


「うちはお父さんとお母さん、それに兄が二人いたんですけど、みんな不慮の事故……のようなもので、いっぺんに死んじゃいました。で、身寄りを亡くして一人になった私を、あの村が引き取ってくれたんです。誰かが親代わりっていうより、皆が親代わりになってくれたって感じかな? んで、村の空き家を改装してくれて、今までそこに一人で住んでいました」


 寂しさを感じなかった、といえば噓になるけど、皆が私を気にかけてくれた。同い年の友達もたくさんいたし、ごはんもあちこちでお呼ばれした。

 自分ちに住みなよって言ってくれたところもあったけど、私がそれを望まなかった。

 

 一人になる時間は苦ではなかったし、家族でもない私がその輪の中に入るのは気を遣ってしまう。そうすると相手の方もさらに気遣ってくれて……となるのが分かっていた。

 貧乏だけどそれなりに幸せだった、と最後に締めくくると、なんかメアリーさんが号泣していた。


「わー、いや、本当に私、気にしてないですからね!? 自分のこと不幸だったとか思ってないし、むしろ拾ってもらってラッキーだったって感じですし」


「申し訳ありません、つい……」


 本日二度目の光景に、しまったなぁ、私はハンカチ持ってないし、かといって横にいるのはさっきでくの坊みたいに立ってた騎士様だけだしなぁって思いながら何気に彼を見たら、今度は空気を読んだのか、さっとハンカチを取り出すとメアリーさんに手渡していた。


 やればできるじゃないか。さすがイケメン。

 思わずぐっと親指を立てて彼に向けたけど、彼はそれには気付かず、何かを考え込むように宙に目をやっていた。


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