12.
マルクスさんたちが帰ったあと、食堂で豚の塊肉三段盛りを頼もうとして、今朝の約束を当然覚えていたジェルスさんに勝手に一段に変更され、そのことに文句を言いながら他のメニューも頼み、ついでにやっぱり葉っぱを口に押し込まれながら部屋に戻ると、私はそのままばたんとベッドに倒れ込む。
「はぁぁ、お腹いっぱい。幸せ」
「アリア様、起きてください。そのまま寝るつもりですか? 食べてすぐに横になると、太りますよ。メアリーがこの前教えてくれましたよ。アリア様の服のウエストが最近きつくなっていると」
「なっ!? もう、なんでそんなところまでジェルスさんと共有するかなメアリーさんは!」
しかしジェルスさんの言っていたことは事実なので、私は渋々起き上がる。
そして朝と同じように半ば無理やり洗面所に押し込まれ、服を脱ぐ直前、頭につけていた花の存在を思い出す。
時間は経っていたけどまだ香りは残っているし、捨てるには惜しいくらいに綺麗だ。
だから体を清め終わったあと、ジェルスさんが入れ替わりで体を綺麗にしている間に、押し花にすることにした。
部屋にあった紙と分厚い本を用意して花を挟んだ後、今度こそ私は寝転がり、思う存分毛布のふかふかに包まれる。
が、一つ試したいことがあったことを思い出すし、ベッドに座ると、体を巡る聖女の力に意識を集中させ、私の体の周りを薄い光の膜のようなもので覆う。
そのまま集中を切らさず、光が消えないようじっと耐える。
と、ここで体を綺麗にしたジェルスさんが戻ってきた。
「あ、ちょうどいいところに! ジェルスさん、お願いがあるんですけど。そこの剣で思いっきり私を斬りつけてくれませんか?」
「は? 正気ですか?」
「至ってまともですよ。あ、でもやっぱりまだ練習中なんで、軽く切りかかる、に変更してください」
そう言うと、渋々といった感じでジェルスさんが剣を取り、鞘は外さないまま私へとゆっくりと振り下ろす。
すると、私に届く間際、光の膜に触れた途端、
バチンッ—!!!
という衝撃音が鳴り響いた。
「なっ……これは一体」
ジェルスさんの剣は私に触れることはなく、はじき返された。
うん、どうやら成功したみたいだ。
未だにびっくりして私と剣を交互に見つめるジェルスさんに、今回の実験の説明を行う。
「これ、浄化の力を応用したものです。ほら、浄化って、汚いものを綺麗にする力じゃないですか。これが飲み水であれば飲むのに不適切な汚れやゴミ……つまり不要なもの、害を為すものを取り除くってことになりますよね。で、考えてみたんです。もし人の体の表面に浄化の力を張り巡らせてたらどうなるかって」
例えば私が攻撃されそうになった時、それってつまり私にとっての害をなすものが迫ってると考えられないだろうか。
そして自分への攻撃が光に触れると、それを取り除こうと力が働いて、結果として防壁みたいになるんじゃないかと考えた。
で、最近その可能性を思いついた私は、こっそりと練習をしていた。
さすがに自分で自分を攻撃できないから、膜を一定時間作れるようになった後は、彼に攻撃してもらおうと思っていた。
使う機会がないに越したことはないけど、万が一はある。
私はジェルスさんのように剣は使えないし、例えば大人数に襲われてジェルスさんの手も回らなくなった時とかに、奥の手の人間の浄化を使う他に何かないかなと模索していた。
その結果これを思い付いたのだ。
「アリア様は人の浄化然り、いつもとんでもないことを考え付きますね」
剣をいつでも手に取れるようにベッドの端に置いたジェルスさんは、そう言って私の隣に座ると、心配そうにこちらの顔を覗き込む。
「ですがあまり無茶はしないでください。今日はかなりお疲れのはずです。現に今、顔色が少し悪いですよ」
「あー、やっぱりまだ慣れてないからですかね。今ので大分力持っていかれた感覚はあります」
使用量でいえば、人間の浄化が最も力を使う。
けれどこっちもそれなりには力を使いそうだ。あとはどのくらいの時間使い続けるとか、どの程度の数の攻撃を防ぐのか、その辺によっても変わってきそうだ。
「アリア様、とりあえず今日はもう寝て、明日に備えましょう」
ジェルスさんの言葉はもっともだ。
明日も忙しそうだし、さっさと寝て朝までに回復しておかないと。夜更かしなんてもってのほかだ。
が。
いざベッドに横になった私は、強烈な違和感を感じる。
この状況、おかしくない?
けれど頭にはてなをたくさん飛ばしている私をよそに、見上げたジェルスさんの顔は平然としている。
「……あの、ジェルスさん?」
「なんですか」
「いや、なんですかじゃなくて。なんで私あなたの腕の中で寝る感じになっているんですか?」
「どうせあなたは夜中にこちらに引っ付いてくるでしょう」
……否定はできない。だって彼の隣はとてもあったかい。
今だって、そのぬくもりに負けて瞼が落ちてきそうなのを必死で我慢しているのだから。
けれど何とか口を動かす。
「でも……今朝は私がくっついてたら怒っていたじゃないですか。そのせいで一段になったのに」
「あれは怒ったのではなく、戸惑っていたんです。あと、純粋に腹の音がうるさかった」
「それは不可抗力、自然の摂理です」
あぁ、駄目だ、眠い。
「とにかく、いくらあなたが引っ付いても怒りませんから、諦めて眠ってください」
眠気に必死に耐えている私に気付いたのか、ジェルスさんがそう言うけど、あと一つ、最後に言っておかなければいけない。
「寝顔、見ないでください……」
「今更です」
「でも、恥ずかしいんですよ」
「あなたにもそのような感情があったんですね。……では、これならどうですか」
そう言ってジェルスさんは、私の顔を自分の胸にそっと押し付ける。
「これであなたの寝顔は私には見ることができません」
やっぱりあったかい。それにジェルスさんの心臓の音が聞こえて、とても落ち着く。
そうか、これなら寝顔の心配もないか……。
限界はとっくに過ぎていた。
安心した私は体を預け、すぐにそのまま眠りにつく。
「良い夢を」
落ちる直前、最後に聞こえたジェルスさんの声は、とても優しかった。




