↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【連載版】女神様に許可をもらったので、聖女の力で復讐します!  作者: 春樹凜
【ミスティの町】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

21/25

9.

 入り口にいたマーシャさんから、この宿の近くの診療所へまず行ってほしいと言われ、辿り着いたのは、大通りから少し外れた場所だった。


 受付で私の名前を出したらすぐに診察室に通される。


「話は伺っています。私はピルトン。この場所で代々医師をしております」


 優し気な微笑みを浮かべた丸眼鏡のピルトンさんと軽く挨拶を交わした後、すぐに本題に入る。


「私が伝えていた条件に当てはまる方はどのくらいいますか?」


「はい、こちらが私共で把握している患者のリストになります」


 すぐにピルトンさんは、机の上に置いてあった紙の束を渡してくれた。


「この診療所には三人、他の診療所にも数人ずついます。あとは自宅で療養している人たちが、一番後ろに記載している分になります」


 人数で言えばざっと五十人ほど。

 この町はうちの村よりも広いけど、それでも効率よく回れば一日でいけそうだ。

 あとは私の力と集中力がどのくらいもつか。


「早速治療をしたいのですが、まずはこの診療所にいる患者さんのもとへ案内していただけますか?」


 するとピルトンさんはすぐに一つ頷くと、立ち上がる。


「こちらです」


 三階建ての診療所の一番上まで上がり、端から三つ目の扉の前まで来ると、ピルトンさんはコンコンと二度ノックする。

 すぐに、「どうぞ」という今にも消え入りそうな女性の声が聞こえ、扉を開けたピルトンさんに続いて中に入ると、やつれた顔でベッドの脇に置いた椅子に腰かけるまだ若い女性と、ベッドには、体中を包帯で巻かれた性別不明の人が横たわっていた。


「リアさん、突然すみません。今日はご主人の容体を、ここにいるアリアという者に診せていただきたいのです」


 リアさんが戸惑いの表情を張り付かせ、私を凝視する。

 それはそうか。素性も分からぬ怪しげな人間に、急に旦那さんの様子を見せてほしいって言われたら、どういうことってなるよね。


 私は居住まいを正すと、できるだけ穏やかな笑みになるよう心がけ、リアさんの前へ進み出る。


「私の名前はアリア。最近女神ベリアルラーテ様により、治癒と浄化の力を与えられた聖女です」


 すると途端にリアさんの顔色が変わって勢い良く立ち上がり、座っていた椅子が倒れたのにも構わず私の前に跪くと、まるで神に祈るように手を組んだ。


「ほ、本当に、あなたは聖女様なのですか!? あなたがいらっしゃったということはもしかして私の主人を──愛するベリクを、治していただけるのですか!?」


 近くで見ると、目は充血して大きく窪み、頬はこけ、彼女のやつれ具合がよりはっきり分かる。


 私は彼女と目線を屈めると、いつぞやの私のように枯れ木のように細い手を握る。


「治せるかどうか確かめるために、まずはご主人の体を拝見してもいいですか?」


 彼女は勢いよくこくこくと頷くと、私がベリクさんを見やすいようにスペースを開けてくれた。


「ありがとうございます」


 お礼を述べ、わずかに上下するベリクさんをまずは目で見て観察する。


「このベリクという患者さんは、火事になった家に取り残されていた子どもを助けに入ったのです。幸い子供は助かりましたが、彼は全身に火傷を負いました」


「……一部だけで構いません。包帯の下を確認しても?」


 ピルトンさんは側に来ると、腕の包帯をゆっくりとほどいていく。 


 それは既に人間の皮膚と呼べる見た目ではなく、前に治したメアリーさんのものとは比べ物にならないほどにひどいものだった。

 けれど皮膚以外にも問題はあった。


「煙を大量に吸っていることもあって、呼吸も安定しません」


 ピルトンさんの言うように、わずかに唇から漏れ出る空気の量は一定ではなく、浅い呼吸は何かあればすぐに止まってしまいそうなほどに弱弱しい。


 だけど大丈夫。

 私はリアさんの方へ振り向くと、にこりと笑った。


「リアさん、安心してください。彼は私の治癒で治せます」


「本当ですか!?」


「ただし条件があります。私の治癒は対価をいただきます。それは」


「主人が元通りになるなら、お金などどれだけ払っても惜しくありません!! ですので聖女様、お願いです! 元気だった頃のベリクに戻してください!!」


 私が具体的な内容を伝えるより早く、リアさんは叫ぶようにそう言った。


「分かりました。ではすぐに取り掛かりますね」


 私は彼女の願いを聞き届けるべく、目を瞑ると、意識を深く集中させる。


 頭、顔、首、肩、胸……と、彼の全身の皮膚、及び目には見えない内部の機能が元に戻るイメージを作りあげ、足の指まで終わったところで、手から大きな光を生み出し、ゆっくりとベルクさんをその光で包む。


 簡単な怪我を治す時よりも光が消えるまで時間はかかったが、役目を終えた光は静かに空中へと溶けていった。


「終わりました。ピルトンさん、包帯を外して確認してもらってもいいですか?」


「あ、はい、分かりました」


 半信半疑といった様子でピルトンさんが、先程見せてくれた部分を外すと、


「や、火傷の跡がなくなっている!!」


「本当ですか!?」


 リアさんがすぐさま駆け寄りその目で確認する。


「あんなに酷かった跡が……」


「それじゃあ全部外しましょうか」


 そう言って、みんなで包帯を外したが、全身を覆っていたらしい火傷の跡はどこにも見当たらなかった。


 全てを外し終えてしばらくすると、ベルクさんがうぅ、と言いながら目を覚ます。


「ここは一体……」


 その瞬間、リアさんが名前を呼びながらベルクさんに抱き着いた。


「ベルク!!」


「リア! どうしたんだそんなに泣きじゃくって。それにここは……」


「あなた、子供を助けた時に大火傷を負ってここに運ばれたのよ! でも意識は戻らないし、覚悟してくださいって言われていて。だけどあなたが目を覚ましてくれて本当に良かった!」


「そうか、心配かけてごめんなリア。ほら、もう泣かないでくれ」


「ベルク……」


「リア……」


「ええっと、お取り込み中のところすみません」


 涙を流しながら感動の再会を果たし、良い感じの雰囲気で見つめ合っている二人の邪魔するのは心苦しかったが、きちんと全部を治癒できているか確認したかったので、二人の世界に割って入る。


「ベルクさん、体で痛むところはありませんか?」


 起きたばかりのベルクさんにそう尋ねると、突然現れた私の正体に疑問を抱いた表情をしつつも、痛みはないと告げた。


「それなら良かったです。呼吸の方も……見たところ問題ないようですね」


「あの、あなたは一体……」


 そこでリアさんが私の正体とこれまでの経緯を説明し、ベルクさんは驚愕したように自分の体をあちこち確認する。

 ついでに私も一緒に、治し残しがないか目視して、漏れはなかったと確認もできた。


「主人を助けていただき、本当にありがとうございます! もう諦めるしかないと思っていたのにこんな奇跡が起きるなんて、なんとお礼を言っていいか」


「気にしないでください。私は聖女としての仕事をしただけです」


 すると急にリアさんの顔が不安げに曇る。

 

「あ、その、助けていただいたことには感謝しております。勿論全額お支払いするつもりです。ですが我が家はあまりお金がなくて、その、家財道具を売るなりしてなんとかお金を作りますので、少し待ってていただけると」


「私の両親にも事情を話して、期日までには工面します!」


 ベリクさんもそう言いながら頭を下げる。


 しかし私は彼らからお金を取るつもりはなく、ここは美味しいランチのお店情報(ただしカリム食堂とデカ盛りのお店以外)で手を打つか、もしくは今は生クリームたっぷりのケーキを食したい気分だからケーキ屋さんの情報にしようかと悩んでいると、ふとリアさんの首に着けられたペンダントに目がいく。

 それは小さな花をモチーフにしたものがトップについて、中心にはキラっと光る石が埋め込まれていた。


 なぜだかすごく懐かしい感じがする。昔に見た記憶があって、どこだったっけなと記憶を掘り返すと、父にもらったと母がいつも身に着けていたものに似ているんだと気付く。

 すると私の視線の先を察したのか、ベリクさんはリアさんの首元に目をやった後、


「これは私が去年の結婚記念日に買ったものなんです。聖女様のお支払いの足しになるようなものではないんですが、リアは毎日身に着けてくれて」


 そう言って照れくさそうに笑うベリクさんと、慈しむようにペンダントに手を当て微笑むリアさん。

 

 それが、小さい頃に私が欲しいと母にねだったものと重なり、いいなと手を伸ばし────あれは二人にとって大切なものだ。私が欲しかったものじゃない────すぐにそれに気付く。


 が、私の手は何かを掴もうと既に伸ばされており、引っ込みがつかなくなったので、代わりに窓際に飾ってあった白の花を一本手に取った。


「こ、このお花! もらってもいいですか? 対価はそれでいいです」


「え、でもそれじゃあ釣り合いが取れない……」


「十分ですよ。お金は取れるところから取りますし、それに私、聖女ってだけあって花が大好きなんです!! その分リアさんとベルクさんとでしっかり美味しいものを食べて、元気になってくださいね。では」

 

 そう言うと、私は手をひらひらとさせながら急いで部屋から出る。


 大丈夫だよね? 二人の思い出の品を欲しがった卑しい聖女……みたいな感じに思われていないよね? 

 そんなことを思いながら、手にした花を見つめる。

 ……うん、良い香り。これはこれで治癒のお礼としては十分だ。


 芳しい花の香りに包まれ、気持ちを切り替えた私は、一緒に出てきたピルトンさんに、向き直り、言った。


「じゃあ次の患者さんのところへお願いします」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。