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Episode:01 事の始まり

蝉が泣き喚き陽炎が揺れる道、じめっとした嫌な暑さで覆われる季節。俺は冷房の効いた自室で、長期休暇をパソコンの前でアイスを咥えて満喫していた。

「ふぅぃ〜」

まぁ、在宅の身故に、いつもとやってる事はほぼ変わらないのだが。趣味の3Dモデリングと、息抜きに一気観しようと溜めていたアニメやゲームのデイリーを消化する日々。そんな休暇に少し飽きが刺してきた頃、ふとネットショップで注文していたプラモデルが今日到着だったことを思い出した。

「そういやもうそろそろ届く頃か。こういうのって予約したはいいけど、忘れた頃に着弾するからなぁ」

イスの背もたれに背中を逸らして伸びをし、逆さまの視界の先に並べられたロボや美少女の立体物を飾っている棚を眺め、口に咥えていたアイスの棒を手に立ち上がる。

「買って組むのはいいんだけど、いかんせん置き場がなぁ」

巨大な武器やごつい装備を纏ったプラモやフィギュアを見つめ、ため息をついてアイスの棒をゴミ箱へ放り投げる。

 ピンポーン♪

『お届け物でーす』

「はーい、今行きまーす」

とはいえ、新しい立体物は楽しみなんだよなぁ。少しワクワクしながら廊下を進み玄関を開けた。


()()()自分の()()を大きく変えることも知らずに…。


「へ?」

驚く俺を余裕で覆う影、目の前には高さ2m程のクソでかいダンボールが鎮座していた。

「え、えぇ…」

驚く俺の姿に二人組の配達員も苦笑する。何かの間違いだと思い、急いで携帯で商品ページを確認するが、ノンスケールモデルとあるだけで明確なサイズまでは表記されていなかった。

「嘘でしょ…」

灼熱の中、作業着で待たされてる配達員もそろそろ痺れを切らし、用紙とペンをこちらに渡してくる。

「サインをこちらにお願いしても?」

「あぁ!すいません…」

急いでサインを記入し、ペンと用紙を返す。受け取った配達員達は、ダンボールに手をかけ持ち上げる。

「それでは、部屋まで搬入しますね」

「はい、こっちの部屋にお願いします」

とりあえずさっき居た書斎へと案内し、余裕のあるスペースに置いてもらう。配達員二人は「ありがとうございましたー」と足早に撤収し、部屋にはクソデカダンボールと俺が残される。

「でけぇ…、どうしよこれ」

返品するか?そもそも誤配達だったらどうしよう…。とりあえず中身を確認しないことには、判断しようがない。嫌々カッターナイフを手に取り、慎重に横に倒して下側を開けていく。中身を覗くと黒い金属質の表面が見え、四つ角に滑り止めが貼られている。

「なんだよこれ、家具か何かか?」

身体を駆使して再び縦に戻しながら、ダンボールから取り出すと、真っ黒い金属質のモノリス?角張った冷蔵庫?メカメカしたクローゼットの様な何かが顕になる。

「えぇ…、商品ページにこんなの無かったよな」

再び画像を確認してみると…。

「…あったわ」

付属品一覧の画像と、ちょこっとだけ本体の後ろに開いた状態で写っていた。え、開くの?!

 プシュー

突如ハッチの隙間から風が吹き、俺の服と髪をなびかせる。ハッチが少し開くと、ゆっくりと左右へと展開していく。そして中には人間サイズのロボットが入っていた。見た目はシンプルで簡素な人型で、少し大きめの頭部に瞳のようなセンサーが二つついており、全体のシルエットは女の子を思わせる体型だ。

「確かに商品画像どおりだけど…、こんなの聞いてないって」

確かに素体とちょっとした武器に格納庫がついて、数万か〜とか思ったけどさ…、買っちまったもんは仕方ないか。とりあえず自分の商品だとわかったので、気になって触れようと手を伸ばすと。

 ブゥーン…

またしても突然センサーが点灯し、「うわぁっ!」と驚いて尻もちをついてしまう。ロボットは駆動音を鳴らしながら歩き始め、ゆっくりとした足並みでこちらに近寄ってくる。

「なになになになになに?!怖いって!」

無機質なそいつが無言で近づいてくる。色々な訳分からなささと恐怖が混同し、俺はパニックに陥っていた。もしかして俺、殺される?

「ごめんなさい!ごめんなさい!勝手に触ろうとしてごめんなさいぃ!」

すぐそこまで来たロボットの手が、こちらへと伸びてくる。

「お願いですどうか命だけはぁ!わ゛ぁ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛」

そうして言葉にならない喚きを数秒間あげ続けていると、ロボットから中性的な音声が発せられる。

『音声システム セットアップ完了…おはようございますマスター。怖がらせたようで申し訳ありません。立てますか?』

そう優しく語りかけ手を差し伸べるも、当の本人には耳に入っていないようで、まだ喚き続けている。

『あの、マスター』

「わぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

『マスター?』

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!」

『マs』

「いやぁぁぁぁ」

 ぺしっ

「あふん」

ロボットは余りにも聞いてくれないので顔をひっぱたいていた。痛む頬を抑えながら、よろよろと俺は立ち上がってロボットを睨んだ。

「今、ぶったね?」

『えぇ、申し訳ありません。平常心を失っていたようなので、武力を行使しました』

「でも暴力は良くないよ」

『はい、申し訳ありません』

「えぇいこうなったら返品じゃ返品!」

『二発目をご所望でしょうか?』

携帯を操作しようとした俺の前に、平手がゆっくり差し出される。

「え、遠慮しときます…」

ロボットは礼儀正しく姿勢を整え、こちらに向かって改めて自己紹介を始める。

『私はLL-GD01 スタンダードタイプです。この度はご購入頂きありがとうございます』

深くお辞儀をするロボットに、「いえいえど、どうもです」とこちらは軽く返す。

『このような事態に大変驚かれていると思います。お客様を騙すような形となり、本当に申し訳ありません』

「ホントだよ」

『順を追って説明させていただきます。まずはこちらをご覧下さい』

いつの間にか閉まっていた格納庫のハッチがモニターとなり、そこに企業ロゴが数秒間映されたあと、一人の人影がこちらの方を向いていた。

『購入者の諸君、ご機嫌よう。ローベルトン・ラボラトリー所長兼LL-GDシリーズ開発者のセントラスト・ローベルトンです』

ローベルトンと言えば、卓越した頭脳と才能を持っている一族で、研究者の中で(かなり異質で変な噂が絶えないことでも)有名である。まさかそれっぽいメーカーを偽って、こんなのを掴まされるとはな。

『時間が無いので簡潔に言うが、この世界に危機が迫っている』

「危機だって?」

『諸君らは選ばれた。まもなく訪れるであろう危機から、この世界を救うサポーターとして、共に尽力して欲しい。では、諸君らの健闘を祈る』

そうして映像は終了し、ロボットは『と、言う訳です。ご理解いただけましたか?』と顔を覗かせる。

「いやわっかんねぇよ。なんだよ選ばれたって」

俺はただプラモをネットで買ったつもりだったのに何なんだよ畜生!

『そうですね、サポーターに関しての説明をしなければですね。でもその前に…』

ロボットは俺の背後にあるパソコンと携帯を見る。

「な、なんだよ」

少ししてロボットは『失礼します』とパソコンに繋がれたケーブルを片っ端から抜き始めた。

「おいおいおい何やってんだお前!」

止める間もなくロボットは手早く抜き終えパソコンを持ち上げると、ひょいと携帯も奪われ格納庫に投げ入れられる。

 ガッシャーン!

「マジで何でそんな、ガッシャーン!って言ったけど?!」

急いで回収しようとするも素早く閉まる格納庫に阻まれる。

「お前…、何してくれてんの?機械なら丁重に扱わなきゃいけないことぐらいわかるよな?」

それでも無言かつ棒立ちで何も返答しないそいつに、怒りが吹っ切れた。

「あぁそうかい、だったらわからせてやるよ!」

そいつの顔面目掛けてグーパンを思いっきり叩き込む。

 ガンッ!

「っ!………」

見事命中はしたもののロボットは微動だにせず、重い金属音を鳴らすだけで、俺の拳は物理的に真っ赤に燃えていた。声に出せない痛みに悶えていると、格納庫が開き、中にはパソコンと携帯が綺麗な状態で入っていた。ロボットがパソコンを繋ぎ直し、こちらに携帯を返す。

『サポーター用に少し改良を加えておきました。使用感は以前と変わらないのでご安心ください』

「ど、どうも…」

痛む右手を労りながら、さっきのように使ってみると、動作はサクサク快適で通信速度も爆速になっている。容量もゲームやアプリでほぼ満杯だったのが、1%程に収まっており、メモリやCPUなどの性能もとんでもないことになっていた。

「これ、俺の端末なんだよな?」

『はい、少し改良を行いましたが、マスターの端末で間違いありません』

「…ごめんな、ついカッとなって殴って」

『いえ、あの程度であれば無かったも同然なので、気になさらないでください』

「………」

パソコンの方も確認してみるが、携帯と同様なので割愛。

「それでサポーターって何なんだよ?」

『サポーターはマスターがその携帯及びパソコンで、私の支援を行う役割を担います』

「支援って何の?」

『戦闘です』

戦闘…、その物騒な単語に嫌な予感は徐々に確信へと近づく。

「危機って言ってたよな?具体的に説明してもらえるか?」

『申し訳ありません。私も詳しくは把握しておりません。ただ、もうすぐ敵対者が攻めてくることは確かです』

うわぁー嫌すぎる。ここ数十年は戦争とかの無い平和な世界だったのに。さよなら、俺達の平和な日常生活。

『とりあえず、私の設定及びアプリケーションとの連携を行いたいのですが、よろしいでしょうか?』

「あーはいはい、わかりましたよ。ちゃっちゃと済ませよう」

『それでは、まず人格を設定してください』

「人格?」

『性格や口調、思考パターンに性別などです』

「なるほど」

あまり元気すぎるタイプは苦手だし、だからといって物腰低すぎるのも気を使うからなー。

「適度に普通で、そこまでかしこまらないで少し砕けた感じかな。冷静沈着だけど普通に見える感じ。見た目も女の子っぽいし、性別は女性ってことで」

『了解しました。設定を開始します』

ロボットのセンサーの光が消え、数秒間の沈黙の後、電子音とともに再び光が灯る。

『設定が終わりました。どうですかマスター?こんな感じで問題ないですか?』

「あぁ、そんな感じで大丈夫」

『わかりました。それと後で説明しますが、専用のアプリケーションで見た目や設定も変更できるので、変えたくなったらそちらからどうぞ』

「ほう、見た目まで変えれるんだな」

『そうです。でもまずは初期設定を終わらせてからなので、次は声の設定をお願いします』

「どんな声まで出せるんだ?」

『女声から男声、高音から低音まで自由自在です。例えば…』

実演を開始したロボットは、子供のような高い声や野太い大男の低い声、合成音声ソフトチックな物や流暢な外国語など、様々な声で喋ってみせる。だが、俺は既に素の声のイメージが定着していて、どれも違和感があった。

「あーうん、普通でいいよ」

『わかりました。では、最後に名前を決めてください』

名前かぁー…、特に思いつかないんだよな。

「うーんどうしたものか…」

そう悩んでいると、ガタガタと窓や地面が揺れ始める。

「ん?地震か?」

『…!来ます!』

その直後、大きな揺れとドゴーン!という大きな音が鳴り響いた。

「今度は一体なんなんだよ?!」

窓の外を覗くと、遠くに大きな煙が立ち上っていた。

『あれが敵対者です。時間がありません、アプリケーションとの連携を開始します』

携帯に追加されていたアプリが勝手に起動し、名称の入力画面になる。

『マスター急いでください!被害が拡大する前に!』

その必至な訴えに、俺は枠内に既に表示されていた【DOLL S01】のまま、完了ボタンをすぐさま押した。

『機体情報の登録完了を確認。私は現場に向かいます。アプリの説明をするので、そこの通信機能をオンにしておいてください』

「あぁわかった」

DOLLは格納庫に入り、扉が閉まる。そして、すぐに携帯からDOLLが呼びかけてくる。

『マスター、聞こえていますか?』

「大丈夫、聞こえてる」

『現場の状況の共有を行います。PCの方でアプリを確認してください』

「わかった」

スリープ状態のパソコンを起こしてアプリを起動すると、そこには凄惨な光景が広がっていた。大きくえぐれた地面には、巨大な太く黒い鉄柱が突き刺さっており、周囲の建物は完全に崩壊している。吹き飛んだであろう車は酷く歪んでおり、転がっている何かには強くモザイク処理が施されていた。

「……………」

絶句するしかない状況で、鉄柱の根元から四方に出てきていた黒点の群れに、映像がズームアップされる。それらは機械的な犬や狼のような姿をしており、速い足並みで鉄柱から離れるように移動していく。

『あれが敵です。これ以上民間人への被害が出る前に殲滅します』

DOLLは手元にライフルを出現させ、高速で移動を開始する。映像はDOLLの視界をそのまま映しているようで、小刻みに揺れながらとても速く景色が流れて行く。

「ごめん、少し酔いそう」

あの光景とのダブルパンチで余計に気分が悪い。

『では、気分が紛れるようアプリの機能解説を少ししますね。とりあえず全画面モードを右下のアイコンで解除してください』

言われるとおり解除すると、左上へウィンドウが小さくなった。すると空いた右側に、幾つかの機能名が書かれたボタンが出てきた。

『右側の一番上にある【申請】を開いてください』

申請をクリックすると、メモ帳のようなものに参照ボタンと申請開始ボタンがくっついているウィンドウが出てくる。

「なんか出てきたけどこれは?」

『必要な装備や物資などを申請する機能です。その画面にマスターが望む物を、その用途と説明を入力し申請することで、受理されれば現地またはマスターの元へ届けられます』

「なるほど。で、この参照ってなんだ?」

『テキストや画像、動画又は3Dモデルなどのファイルを取り込むことで、より詳細に指定することができるようになってます。試しに酔い止め薬などを申請してみてはいかかですか?』

「そういう問題じゃないんだよなぁ…」

どうにかこのカメラ映像を改善できないものか…。数秒間の思考の後、俺はひとつ閃いた。カタカタと手早くウィンドウに入力し、申請開始をクリックする。申請中と一瞬のロードが挟まった後、受領されたのか完成品イメージの3Dモデルと、支給先をここか現場かを選ぶ確認画面に切り替わる。現場を選択し画面が閉じた後、DOLLの動きが止まった。

『マスター、こちらからは確認できませんが、何か送りましたか?』

「状況確認用の小型ドローンを申請してみた。できるだけ小さくって入れたんだが、相当小さいみたいだな」

カメラ映像を切り替え、ドローンはDOLLの後頭部を映し出す。もう少し上昇させ、俯瞰視点で位置を止める。DOLLはドローンを視認しようとキョロキョロしているが、まだ見つけられていない。

「一応そっちの動きと連動するようになってるはずだから、気にせず進んでくれ」

『了解です。少し視線が気になりますけど』

DOLLはライフルを抱えたまま、自動車以上の速度で再び走り出す。その速度に負けじとドローンもぴったり追随していく。そうして遠くに見えていた黒点の群れに、数百m先まで接近した所でDOLLは立ち止まり、腕に円盤のようにエネルギーシールドを展開し、ライフルを構えた。

『DOLL S01、交戦を開始します』

先頭の犬型を狙ってトリガーを引き、バァン!と大きな銃声が鳴る。頭部に命中したようだが、装甲に弾かれたのか大した損傷は与えられていない。

『想定より硬いですね。もう少し接近します』

DOLLは進行を続ける群れに向かって果敢に突撃し、バババババババとライフルを弾倉が空になるまで乱射する。命中した先頭とその後ろにいた犬型数体が仰け反り、体勢を崩して地面を転がった。だが後続の物量に比べてそれらは微々たるもので、残骸を器用に避けてなおも前進してくる。敵より速く後退しながらリロードを終わらせ、再び数体を無力化していくが、それでも群れ全体の数%程度でしかない。

『埒が開きませんね』

「あぁ、キリがないな」

どうにかして一掃できないものか…。

「ちょっと待ってて、少し考えてみるから」

『了解、しばらく継続します』

敵は道を一直線に進行しているから、線状に攻撃できれば一気にやれるんだが…。極太のビームキャノン?とりあえず申請してみるか。そうして出てきたのはDOLL程の大きさの大型キャノンだった。一応ビームとかもOKなのか。

「でも、これはダメだな」

相手の機動力的に避けられるし、発射前にやられかねない。そういえば、ビームキャノンと言えば、色々なロボットが居たな。振り返って棚の立体物を眺めていると、一際大きく存在感を放つそれが目に入った。

「申請してみるか」

すると受領されたが警告文が出てきた。

⚠サイズが大きい為、生成まで時間がかかります。また生成中は他の物資を生成できません。それでもよろしいですか?

「うーん、これもダメそうか…。なら、せめてあの兵装だけなら…」

そう申請画面に打ち込もうと指を伸ばした時、大きな十字路に差し掛かったDOLLの戦況が変化する。引き撃ちしていたDOLLの進行方向前方に、犬型がぞろぞろと現れたのだ。

『どうやら包囲されたようです』

急いでドローンを上昇させると、今まで追ってきていた群れとほぼ同数の犬型が、左右からDOLLを取り囲んでいた。何とか突破しようと包囲網の一部を集中的に銃撃するも、突破口が開くより先に行く手を阻まれてしまう。弾が切れ、銃身も焼け着いたライフルを前方に投げ捨て、DOLLは拳銃と短剣に持ち替える。

『近接格闘戦に移行します』

均一に包囲しようと動く敵の中央にライフルが落下し、自爆機能によって周囲を巻き込んで大きな爆発を起こす。爆煙の中、陣形が崩れた敵に対して、DOLLは的確に拳銃で狙い撃ちながら突撃していく。突破させまいと飛びかかる犬型を短剣で弾き、包囲網の半分まで抜けた。

『このまま行かせて貰います』

DOLLの前に立ちはだかる複数の犬型が、連続して飛びかかってくる。顔前に噛み付こうと迫る口内に、至近距離で銃弾を撃ち込んで軌道を逸らし、二体目の腹の下にスライディングで潜り込む。腹の関節部に剣を突き刺し、棍棒のようにして後続の犬型を叩き落としていく。そうして最後尾まで捌ききったところで…。

 バキィン!

ボロボロの残骸と共に刀身が折れてしまう。すかさず後方から迫る敵に対し、拳銃で迎撃しようとするも、さっきの一発で既に弾切れしていた。

『まずいですね』

回避不能な距離まで接近する敵に、DOLLは覚悟を決めて自爆装置を起動しようとしたそのとき…。

 ガコォオン!シュウゥゥン…

鈍い金属の衝突音と遠ざかる噴射音、目の前の犬型にミサイルが衝突し、突き飛ばして鉄柱の方角へとワイヤーを引きながら飛んで行っていた。その数秒後、ワイヤーが連続して爆発し、群れの5分の1程を壊滅させる。ワイヤーの根元を辿ると、そこには機銃とコンテナを装備したドローンが飛んでいた。

「なんとか間に合ったな」

『えぇ、ナイスタイミングですマスター』

機銃で敵を迎撃しながら、二発目を包囲網に向け発射する。ミサイルがDOLLを取り巻く敵の頭上を旋回し、ワイヤーが多くの敵を巻き込み炸裂する。

「今だ!走れ!」

『はい!』

手薄となった前方に、リロードを済ませたDOLLが駆け出し、足止めしようと犬型達が立ち塞がろうと動く。DOLLはそれらを拳銃で次々に撃墜し、こちらも機銃で援護しつつ追っ手に向けて三発目を発射する。しかしミサイルは、敵の集中攻撃を受けてすぐに撃墜されるが、その間にDOLLはなんとか包囲を突破し、犬型との距離を離す。

「よし、これでまた引き撃ちに持ち込めるな」

『ですがそこまで余裕は無いようです』

「どういうことだ?」

『数キロ先の区域は、まだ避難が完了してないようです』

「…わかった、考えるから時間を稼いでくれ」

『了解』

DOLLは囲まれない程度に速度を落としつつ、敵の物量戦に持ち込まれないよう的確に各個撃破していく。それでも数が多すぎるし、早くこれらを殲滅できる方法を考えなければ…。とりあえず四発目のミサイルを放つが、今度は敵一体の体当たりで撃墜されてしまう。

「やっぱ対策が早いな」

それぞれの動きは単調ではあるが、戦術を最適化されて対策される。どうにか、対策される前にまとめて倒す方法を考えなければ…。そうドローンのカメラを切り替え、DOLLの姿を眺めていると、「あ、そういえば」と俺はDOLLとのやり取りをひとつ思い出し、急いでウィンドウに入力し申請する。拳銃で引き撃ちを続けていたDOLLの背中に、ランドセルの様なジェットパックが出現する。

『これは?』

「話すと長い、そいつで群れの上を突っ切ってくれ」

『了解』

DOLLは一旦敵と距離を取って体勢を整え、二発の推進装置を吹かし始める。徐々に出力を上げ、ゴォォォオォォと音と共にDOLLが加速し離陸する。群れの頭上数mの低空を高速で通過し、敵も反転し追いかけるが、圧倒的な速度差で引き離されていく。そうして、群れを突破しようとした所で、群れの奥から小爆発が連続してそれら一帯を飲み込んでいく。少しして爆発が収まると、大通りにはバラバラになった残骸だけが転がっていた。

『凄い……マスター、一体何をしたんですか?』

「ジェットパックから小型機雷を撒いたんだ。弱点で爆発するようにね」

『なるほど、流石です』

DOLLは高度を上げ、敵が残っていないかホバリングしながら周囲を確認していると、鉄柱の方から新たな反応が出てくる。

 ゴゴゴゴゴゴゴ…

微振動と重厚な音が辺りに響き、ドローンのカメラを鉄柱に向けると、8m程の恐竜の様なロボットが一体、中から姿を現した。

「なんかヤバそうなの出てきたな」

『えぇ』

こちらを確認したそいつは頭部の口の様な機構を開き、中から高エネルギーらしき光が発せられる。

「…っ!回避しろ!」

直後、一筋の光線が口から放たれ、咄嗟に上昇したDOLLの真下を貫いた。

『危なかった…』

「あぁ、あんなの喰らったら、ひとたまりもなさそうだな」

『また来ます!』

再びチャージを開始した敵に、DOLLが回避起動を取りながら接近し拳銃で攻撃するも、頑強な装甲に弾かれ損傷を与えられず、再度光線が放たれる。

『くっ!』

全速力で右に回避したが、近距離かつ敵の制度が上がっているのか、ジェットパックにかすってしまう。被弾した箇所がオレンジ色に溶解し、機能を保てず高度が落ちていく。誘爆直前のジェットパックをパージし地面に着地すると、敵はDOLLに向かって腕の機銃を乱射しながら突進してくる。弾痕が増えるビルの路地裏に駆け込み、恐竜の巨体が解体用の鉄球の様にビルに激しく衝突する。

『マスター、支援をお願いします。用意していた武装を使い切りました』

「今急いでやってる」

半壊したビルの裏にDOLLが隠れていると、恐竜の口にまた光が灯る。

「来るぞ!走れ!」

光線がビルを貫通し、走り出すDOLLの後方を薙ぎ払う。崩れるビルの残骸を避けながら全速力で逃げるDOLL、その背中に向け恐竜は再びチャージを始める。

『まずい!』

その光が輝こうとしたそのとき

 ボーン!

頭部が爆発しチャージが中断される。増援のドローンによるロケット弾攻撃によるものだった。

「間に合った」

続けて次々と同型のドローンが現れ、目標を爆撃していく。反撃を許さないよう絶え間無く攻撃し、呼び出せる限界まで申請し続ける。敵に動きはなく、爆炎で様子も分からない。それでも効いていない訳では無さそうだ。

「よし、このまま」

そうしばらく続けていると、爆炎から一筋の光がドローン達を薙ぎ払い、一掃されてしまう。

「ダメか」

爆煙から覗く頭部は、装甲が一部剥がれて中が剥き出しになっており、口の周りの装甲は融解していた。申請していた後続のドローンも即座に機銃で撃墜され、次の申請もすぐには不可能、まずい状況だが…。

「だが、それでいい」

ビルの屋上、特大のビームキャノンを抱えたDOLLが、既に目標を捉えていた。敵もこちらを向くが、もう遅い。爆撃はあくまで時間稼ぎ、こちらのチャージは既に完了している。

『ターゲットロック、最大出力!』

 ドゥウゥゥーン!

解放されたビームの奔流が敵を包み込み、敵を圧倒的な熱量で崩壊させていく。数秒間の照射の後、徐々に収束するようにビームが消えていき、そこには何も跡形も無くなっていた。

『アレで最後みたいです。やりましたねマスター!』

「ふぅ、なんとかなったな」

『はい!ナイス援護でした。これからもよろしくお願いします』

「あぁ、よろしく」

そうか、またこれが起きるのか…。

「そういえば、他の所に向かった残りは?」

『問題ありません、他の方も目覚めたようですから』

バンダナコミック応募用に1話だけ書きました。

本当はもっと早くに完成したんですが、保存前の確認スクロール中に再読み込みに化けて、一度データと気力が消し飛びました。

一応読める程度には復元&再構築しましたが、文字数制限も相まって思ったように作れてません。でも、とりあえず投げときます。

好評か結果残せたら次回更新する予定

もっと他の要素(他の子とサポーターやら、敵と味方勢力とか設定などなど)を掘り下げていく予定

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