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一言主神の愛し子  作者: 志波 連
2/43

2  理解不能です 

 それは数日前のこと、シマに東側の庭にある神殿に来るよう言われた。

 ハナの住むこの葛城家は、神の子孫として続く名家だ。

 特に祭事がある訳でも、お祓いなどの依頼を受けることも無い。

 ハナにとっては、ただ裏庭に古びた神殿があるというだけの認識だった。

 ハナが急いで向かうと、神事の時だけ用いる巫女装束を身に纏ったシマが、いつもよりずっと低い声で、いきなり話し始めた。


「本日葛城ハナにもの申すは、一言主神さまの式神である。狐神でもある吾の口から転び出る言の葉は、そも吾のものにあらず。全ては一言主神さまのものと心得て、畏れ敬いて心に刻むがよい」


 育ってきた習慣か、はたまたハナの体に流れる葛城の血か。

 ハナは自然な仕草で三つ指をつき、神殿の板の間に額を押し当てた。

 そこから滔々とシマが神の言葉を伝え聞かせる。

 微動だにせず、畏まった姿勢を崩さなかったハナだったが、実はほとんど何を言われているのか分からなかった。

 

「よって件のごとし!」


 シマが最後の言葉を言い終わったという事だけは理解した。

 それでも動かずにいると、上座から降りてきたシマが、いつもの口調で話しかける。


「終わりましたよ、お嬢様。立派なお姿でした。シマは嬉しゅうございましたよ」


「ありがとう、シマさん。あとでちょっとお話があるんだけど……」


「畏まりました。昼餉の後でよろしいですか?」


「うん、よろしくね」


 トントンと拳で自分の肩を叩きながら神殿から出て行くシマを見送りながら、ハナは怒られるだろうなぁと考えていた。

 そして約束の時間。

 意を決したハナは、頭を下げながらシマに言った。


「ごめん! シマさん。さっきの言葉、ほとんど意味不明だった。結局私は何をすればいいのか教えて~」


 呆れたように口をポカンと開けたシマが、ペタンと台所の板の間に座った。


「ごめん! ホントごめん!」


「いえ……先代様の時は余裕がありましたが、お嬢様は何もかも急でしたものね……仕方がありません。いいですか? もう一度言いますね」


「できれば現代語でお願いします」


 シマは困った顔で溜息を吐いた。


「はぁぁぁぁ……わかりました」


 シマはゆっくりと神の言葉を現代語訳して伝えた。

 そして遂に今日という日を迎えたのだ。


「着替えました。ええっと……裏の滝に行くんだけ?」


 シマが苦笑いしながら頷く。


「そうです。滝つぼの正面の踏み石に跪き、口と手をすすいだら時計回りに池を回って、滝の真下に立つのですよ」


「それって池に入って行くってことよね? 濡れちゃうじゃん……まあ仕方ないか」


「ハナお嬢様はこの季節ですからまだ楽ですよ? 先代様も先々代様も真冬生まれでしたから、それはもう大変な思いをなさいました」


「ソレハソレハ タイヘンデシタネ」


 シマがハナの手をとって握った。


「その後は覚えていますか?」


「うん、滝を見上げて合言葉を言うんだよね?」


「合言葉ではありませんが……まあ良いでしょう。言葉は覚えていますね?」


「大丈夫! 合言葉を言ったら滝が割れるんだっけ?」


「そうですよ。愛し子でない者が同じことをしても滝は割れません。また、今までの素行が悪く、愛し子と神が認められない場合も割れないのです」


「ここで神判が下るのね」


 シマが笑顔を作った。


「頑張ってくださいね。後のことはお任せください」


「うん、よろしくね。大体何時くらいに終わるのかな。夕食には間に合う?」


「何時と言われましてもねぇ。何日くらいでしょうねぇ」


 ハナは自分の想定単位が間違っていたことに今更気付いた。

 もう引き返せない。


「後は指示に従うだけだよね……シマさん。私、頑張るね。応援しててね」


 ハナは鼻の穴を広げて拳を握った。

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