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一言主神の愛し子  作者: 志波 連
19/43

19 密談

 ゴロゴロと寝ているようで、神たちは会話続けていた。

 ハナだけなら良いが、別の神の式神であるウメがいるのだ。

 

『ウメはいつまでいるのかの?』


 熊ジイが聞く。


『ハナの進み具合次第じゃが、そろそろ戻そうと思っておる』


 おじいちゃんの言葉に最上のおばちゃんが答えた。


『それが良かろう。何やら纏うておるようじゃからな』


『ああ、何が憑いているのか確かめようと抱いてはみたが、ようわからなんだ』


 熊ジイが面白そうに聞く。


『それよりもわからんということは……』


『ああ、菅原の小僧には手に負えん奴かもしれんな』


『崩れ者か? 厄介じゃな』


 最上のおばちゃんの声が深刻だ。


『ハナ坊は大丈夫か?』


『ハナは守っておるからな。今のハナに憑けるほどの強さは無いと見た』


『そうか、それなら安心じゃが。もしかしたら菅原の小僧は分かっていて送り込んだか?』


『それはそうじゃろう。俺もまさかウメが来るとは思わなんだ。あいつも長く生きすぎたのかもしれんな。そろそろ戻してやる頃じゃろう』


『戻るか?』


『憑き物を落としてやれば戻るさ』


『百年に一度とはいえ、面倒な事じゃな』


『仕方ないわい。これも旨いめしを喰らうためじゃ。我慢もしようぞ』


 三人はフンと嗤った。


『此度は安倍も手伝わそうと思うておる』


『ああ、安倍の……陰陽師の血が必要とは、物騒な話じゃな』



『よう考えてみろ。天照の大姉が臍を曲げてから丁度20周が今年じゃ。今年は大戦があるやもしれん』


 熊ジイが驚く。


『もう20周か? 2千年が経ったか……早いものじゃ』


『ああ、ハナも丁度10代目。何があってもおかしゅうない。その年に当たったあの子は人とは思えぬほどの霊力を持っておる。これも父神母神のご差配だろうて』


『なるほどのぉ。ではわし等はちと声掛けに走らねばならぬな』


『ああ、頼む。その間に俺はウメを清めておこう』


 三人は起き上がった。

 ハナがふと書台から顔を上げる。


「どうしたの? お腹減ったの?」


「いや、腹はまだ良い。お前の方はどうじゃ?」


「うん、読み書きは大体できるようになったよ。難しい字は見ながらじゃないと書けないけど」


「よいよい。そこまでできるなら問題ない。ではウメはそろそろお役御免じゃな。菅原の小僧も寂しがっておろうからな」


 ウメがサッと顔色を変えた。


「いえ、まだ……もう少しここで……」


「お前、菅原から何か預かっておらぬか?」


「いえ……何も」


 真っ青な顔でそう答えるウメの前で、おじいちゃんが何やら呪文のようなものを唱え始めた。

 その横では熊ジイと最上のおばちゃんが、どこから取り出したのか大きな網と刺股を構えていた。


「ハナ、こちらに」


 最上のおばちゃんの声に、ハナは転がるように座敷に逃げた。

 じりじりと三神はウメとの距離を詰めていく。

 遂にウメの表情が変わった。

 苦しそうな声を上げて、土間でのたうち回る。

 やがてその体から黒い靄が現れて、巨大なヘビを形作った。


「何じゃ、ヘビか。思ったより小物じゃな」


 熊ジイが声に出す。

 おじいちゃんは呪文を止めないまま、ヘビを睨みつけた。


「下るなら今じゃ。逃げるなら消す」


 最上のおばちゃんの声に、黒い大蛇が反応した。

 おじいちゃんに向かって牙をむき、座敷に上がろうと飛び掛かる。


「バカか」


 熊ジイは難なく大蛇に網をかぶせ、その上から最上のおばちゃんが刺股で押さえこんだ。

 三神の足の間からハナが覗くと、ウメはぐったりと横たわっていた。

 おじいちゃんは呪文を唱えることをやめ、懐から白い紙を取り出した。

 真っ白な誓詞にびっしりと何やら書かれているそれを、網の中で蠢く大蛇の上に落し、気合の入った声を出した。


「えいっ! えいっ! えいっ!」


 大蛇が動きを止め、真っ黒に艶光していたその肌が徐々に白くなっていく。

 黒い霞が立ち上り、どこからか吹いてきた風に流され、滝つぼの中に消えていく。

 しばらくの間、三神は気を抜かずに真っ白に変わった大蛇を見下ろしていた。


「どうじゃ? 抜けたか?」


 おじいちゃんの声を同時に、大蛇が首をもたげた。


「ありがとうございました」


 大蛇が礼を口にした。

 まだ若い女性の声だった。


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