第99話 黙ることが仕事
「ゲートを通るわよ」
ウインカーを出してゲートにゆっくりと侵入していく。
スキャンを受け、信号が青に変わるとゲートバーが上がった。
「わ、ホントだ」
「シッ」
平常を装いなさいよ。私は仕事を完璧にこなしたんだから、貴方も完璧にこなしなさい。まったく……
トラックがゲートを通過しようとしたら、警備員らしき男が警笛を鳴らしながらトラックの前に立った。
「止まれ!」
なんなのよ。面倒くさいわね。
「ちょっと! 大丈夫なんでしょうね」
「貴方は黙っていなさい。それが仕事よ」
「う……」
「窓を開けなさい。私が応答するから」
女は黙って頷くと、窓を開けた。よしよし、良い子ね。
「どうかしましたか」
「どうかしましたかじゃない。お前たちは資源回収業者だろ。なにをしにここへ来た」
「書類にすべて記載されています。ご確認願えますか」
「書類?」
そう言うと、振り向いてもうひとりの警備員と話を始めた。
よし、今のうちにこいつらも改竄しておきましょう。
「こんな書類、朝あったか?」
「いや、俺は見てないし」
「通知も無かったよな」
「そうだな。無かったな」
「本物か? これ」
「偽物なら道真が検知してるだろ」
「そうなんだが」
「確認できましたか?」
「今してる! ちょっと待ってろ」
無駄なことを。
「無視して行くわよ」
「えっ?」
「黙って付いてくる約束」
「う……」
女は恐る恐るブレーキから足を離すと、ノロノロとトラックが動き出した。
「アクセルを踏みなさいっ!」
「はいっ」
するとトラックがピタリと止まった。
この女、ブレーキとアクセルの両方をベタ踏みしているわ。
「おい、なにをしている」
「ブレーキから足を離す!」
「はいっ」
すると今度はトラックのタイヤが嘶きながら急発進した。
「うわあ!」
「止まれーっ!」
止まるのは貴方たちよ。
私が確定キーを押すと、辺りに警報が鳴り響いた。
〝侵入者です。警戒してください。侵入者です。警戒してください〟
「ちょっと! 本当に大丈夫なんでしょうね!」
「大丈夫よ。侵入者は私たちのことじゃないから」
「はあ?!」
「いいから黙って!」
「……はぃ」
「ルートを表示するから、その通りに進んで」
「うわっ、なんで勝手にルート表示が――」
「置いていくわよ」
「…………」
やっと静かになったか。
「次、余計なことを言ったら本当に置いていくからね」
すると女はコクコクと激しく頭を縦に振った。
えーと、これが警備員のデータね。
バックアップをとって、後は適当に……
改竄が終わると、トラックも指示した位置に着いて止まった。
「行くわよ。付いてらっしゃい」
二人は無言で頷いた。やればできるじゃない。
後は昨日同様、堂々としていればいい。
次回、五月蠅い口を塞ぐ方法




