第96話 ソロでは行かせてもらえない物語
朝食を終えて、食器を洗う。
父さんはなんだかんだ文句を言ってたけど、米粒一つ残すことなく綺麗に平らげてくれた。こうやって綺麗に食べてくれると気分がいいわ。
でもこの女は……お味噌汁は綺麗に飲んだけど、米粒は残すし、お魚も食べ散らかしている。まだ骨に身が付いているじゃない。皮も除けているし、腸も……
あの男もそうだけど、綺麗に食べられないのかしら。はぁ。
生ゴミは乾燥させて粉末にして収納しておきましょう。
さて、それじゃ着替えて……ん?
「なにしているの?」
「見て分からない? 着替えているの」
「休日なのに?」
「休日関係ある?」
「あるわよ」
仕事に行くわけでもないのに、着替える意味なんて無いわ。
それに着替えたら洗濯物が増えるでしょ。
「えー。私も那夜に付いていくから着替えてるの」
「来るな」
邪魔でしょ。
「なんでよ!」
「私一人で十分よ」
「お父さんは連れて行かないの?」
「ポチは連れて行くけど、父さんはやることがあるから置いていくわ」
「置いて行かれても困るんですけど」
「ここに残るわけじゃないわ」
「ならいいけど……」
そう言いながらも女はクローゼットから着替えを出している。
連れて行かないわよ。
「あっ」
服を引っ張り出したらなにかを落としたみたいね。
整理整頓しておかないから……?
アレってもしかして。
「ね、それって」
「ああ、これ? もう要らないから捨てようと思ってたけど、すっかり忘れてたわ」
「捨てるんなら私に頂戴!」
「え?」
「ううん、買い取るわ。これだけあれば足りる? 足りるわよね。ありがとう!」
「足りるって、なによ。また取引要請? って、30万?! こんなに要らないよ! って、え? なんで取引成立してるの?! 私許可してないんだけど。受け取れないって!」
「よしよし、これがあればなんとかなるでしょ。うふふふふふふ」
「ダメだ。聞こえちゃいない。もしかしなくても一番の笑顔じゃない? はぁ」
漸く見つけたわ。そうよ。どうして昨日家電量販店に行かなかったのかしら。バカね。
多分旧型なんでしょうけど、これで十分でしょ。
ちょっと大きめの携帯端末。これがあれば今まで入れなかったところも入れるんじゃない?
じゃ、早速中を見てみましょう。
「ね、出掛けるんじゃなかったの? …………やっぱり聞こえてって、なんでいきなり分解してるの?! ねぇってば!」
わわ、なにこれ。見たことない部品がいっぱいある。
でも基本は同じはずよ。
更に中身を覗いていけば……ふふっ、見えてきた見えてきた。
ん? これ、物理限界で止まった技術で作られているわ。
おかしいわね。建物は魔術が組み込まれていて、限界突破した技術が使われていたのに。
それだけ低スペックな端末ってこと?
あ、でも魔術は部品が未実装なだけで、キチンとパターンが基板にプリントされているわ。これならなんとかなりそう。
よしよし、いい子ねー。
………………
…………
……
よし、これで詳しいことが分かったわ。建物の構造も、救出ルートも、全てね。
厄介なのはこの端末だとスペック不足で改竄している間にバレるということ。現地に行って直接改竄するしかないわね。
見られなかったところが見られただけでもよしとしましょう。
「あ、やっと出掛けるの?」
「ええ」
「なら送っていくわ」
「送る?」
「ええ」
「必要ないわ。近くまでポータルで移動するから」
「例の物、奪いに行くんでしょ」
「失礼ね。壊される前に保護するだけよ」
「その保護した物を運べるの?」
「それは……」
確かに持ち運べるかは不安がある。
次元収納は開発局の中ではロックされていて使えないらしい。
使えるように改竄するにはシステムの根の深いところに組み込まれているから時間が掛かってしまう。
「ね? それならトラックがあった方が便利でしょ。トラックまでは台車を使えばいいし」
確かに荷物運びが居れば楽だけど……
「ね! 悩んでるくらいなら連れてってよ」
そうなると侵入計画を少し変えた方が良さそうね。
「分かったわ。荷物運びとして雇ってあげる」
「やったあ!」
「はい、お給料」
「え? お給……って、また?! しかもこんなに!」
「危険手当込みよ」
「イヤだから私許可してないのになんで取引が成立してるの?! はぁ……転職しようかしら」
「日雇いよ」
「分かってる! じゃ、拾十にも連絡して……」
「あの男も連れて行くの?!」
「男じゃなくて拾十! 力仕事に必要でしょ」
「はぁぁぁぁ」
1人増えるも2人増えるも大差ないと思うことにしよう。
次回、眠眠打破




