表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/193

第93話 通訳するしない

「〝抵抗すりゅな。大人しくしりょ〟」

「娘、通訳しろ」

「はい、分かりました」

「〝(かりぇ)にとって貴方方の麻酔弾は猛毒でございます〟」

「〝なっ〟」

「〝言葉が……〟」

「〝大人しく捕まりますので、手荒(てありゃ)なことはしないで頂きたいのでございます〟」

「〝あ、ああ。なりゃ、その犬型騎兵を大人しくさせりょ〟」

「〝存じたのでございます。黒犬(くりょいぬ)君!〟」

「〝わんっ(了解!)〟」

「娘、それは通訳しなくていい」

「はい、分かりました」


 まさか黒犬君の言葉まで通訳できるとは思わなかったのでございます。この娘、何処まで……いえ、今は気にしている場合では無いのでございます。

 黒犬君を素材に戻し、懐にしまっておくのでございます。ふふふ、これで黒犬君だけ隔離させられることは防げたのでございます。


「〝もしよりょしければ、デイビー様を(ふくりょ)に入りぇりゅことをお手伝い致すのでございます〟」

「〝なんだと?!〟」


 とりあえず協力する振りをしておいて安全を確保するのでございます。


「〝実はわたくしどもも不測の事態で困っていたとこりょなのでございます〟」

「〝不測の事態だと?〟」

「〝左様でございます〟」

「〝よし、分かった。我々が(ふくりょ)を持っていりゅから、お前たちが入りぇりょ〟」

「〝存じたのでございます〟」

「〝少しでも怪しい動きをしたりゃ……〟」

「〝存じていりゅのでございます〟」


 袋に入れる……とは申したものの、どうやって入れればよろしいのでございましょう。


『デイビー様、デイビー様』


 やはり返事はございませんね。


「娘、デイビー様に袋に入るよう頼めぬか?」

「了解。試してみます」

「ロエワロシラカエナム。イチムワムケム!」


 ああ、スズ様はデイビー様とやり取りしているから通訳が出来ないのでございますね。困ったのでございます。


「ウムウウナロケムエモ!」

「五月蠅い。静かにしていろ、この豚野郎!」

「ウム、ウムウウワム……ケシコナシ……」

「豚どもは大人しく袋を押さえておけ」

「ウムウウワムケムソロケシヤマムケムヤ、ムウムエギャクマム……ヤマムケムナナム。カムソムムシラカエヤ、ロソロ」


 漸く大人しくなったのでございます。


「……通訳しますか?」

「今のはしなくていい」

「了解」

「それよりデイビー様はどうした」

「申し訳ございません」

「やはりそうか。仕方がないな。運ぶ君に任せよう」


 素材を懐から取り出し、運ぶ君へと編成させるのでございます。


「〝貴様、なにをしていりゅ!〟」

「〝騒ぐな豚野郎〟」

「〝な、なんだと?!〟」


 あら、少し間違えてしまったのでございます。

 スズ様も察して軟らかい表現にして下さっても宜しかったのでございますのに。


「〝おほほほほ。運ぶ君に命令(めいりぇい)をしただけなのでございます〟」

「〝運ぶ君?〟」

「〝この鉄人形(ゴーリェム)のことでございます。さあ、運ぶんだ運ぶ君!〟」

「〝んん? んー〟」


 なんとか誤魔化せたようなのでございます。

 運ぶ君は両手をひとつの大きなヘラ状に変形させると、デイビー様をすくい上げたのでございます。

 そしてヘラを真ん中で折り曲げ、袋に入れやすい形状にしたのでございます。

 ヘラの折り目を袋の口に当てて、ゆっくりと確実にデイビー様を袋詰めにしたのでございます。


「〝運ぶ君、お疲りぇ様〟」


 再び運ぶ君を素材に戻し、懐に仕舞うのでございます。

 後はデイビー様の運搬を豚野郎どもに任せるのでございます。


「〝ああ、口を縛ってはいけないのでございます。窒息死してしまうのでございます〟」

「〝チッ、こんな(なり)をしてても呼吸してりゅのかよ。おい! 空気穴を開けてやりぇ〟」

「〝了解!〟」


 あの袋、魔力反応物質で出来ているのでございます。

 魔力操作で空気穴が幾つか開いたのでございます。

 ああっ、そんな乱暴にトラックの荷台に放り投げてはいけないのでございます。


「〝お前たちも乗りぇ〟」

「〝荷台にでございますか?〟」

「〝他に乗りゅとこりょなどない〟」

「〝スズ様だけでも助手席に〟。ナーム伯母さん、鈴は荷台でも平気です」

「いいから訳せ」

「はい。〝助手席に乗せて頂けないでございましょうか〟」

「〝駄目だ。早く乗りぇ〟」


 やはりダメでございますか。

 仕方がないのでございます。荷台に乗るための脚立を錬成す――


「〝なにをしていりゅ! 大人しく乗りぇ〟」


 いきなり背中に銃を突きつけるのは止めてほしいのでございます。

 なんの力もないか弱き乙女になにを怯えやがっておられるのでございましょうか。


「〝荷台に乗りゅための脚立を用意していりゅだけなのでございます〟」

「〝ったく。この程度も乗りぇんのか〟」


 だったらか弱き乙女のために昇降階段くらい用意しやがるのでございます。


「娘、先に乗れ」

「はい」


 この豚野郎、いつまで銃を突きつけていやがるのでございますか。

 スズ様に続いて荷台に乗り込み、脚立を回収するのでございます。

 さすがに荷台までは付いてきやがらなかったのでございますが、未だに銃口を向けていやがるとは、とんだ小心者なのでございます。


「〝移動を開始すりゅ。先に行け〟」

「〝はっ〟」


 おほほほほほ、何処までも小心者なのでございましょう。

 トラックが動き出してもまだ構えたままとは……情けないにもほどがあるのでございます。

 さて、兄様……今可憐でか弱き麗しの薄幸の美少女、貴方様が愛して止まない愛しい純潔で清楚な妹のナームコが今行くのでございます。

次回、価値のない名前

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ