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携帯は魔法杖より便利です 第6部 古の都  作者: 武部恵☆美
第1章 それぞれの半年
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第9話 11人居た!

 片道1日くらいだと高をくくっていた。それが甘い考えだと思い知らされるのにそう時間は掛からなかった。

 結界の中は割と順調だった。懸念していた曲がり角も、ルイエが遠回りになっても曲がれるルートを選択していたからだ。成長したなぁ。

 ところがいざ結界を超えようとしたら物々しいことになった。

 アトモス号同様、ローゼンバース号も正規ルートで結界の外に出られる大きさでは無い。だから結界に穴を開けて通ることになるわけだが……

 アトモス号はそれこそ1秒もかからず結界に穴を開けて外に出て穴を塞ぐことが出来る。

 なのにローゼンバース号はまず停船する。そしてワビーさんともう1人が降りてきてローゼンバース号が通れるくらいの枠組みを組み始めた。これが1時間。それを結界に貼り付けると10分くらいして穴が空いた。

 あの枠は魔法杖(マジックワンド)なのかな。

 そしてゆっくりとローゼンバース号が通り抜ける。これが30分。穴を閉じるのに10分。枠組みをバラすのに1時間。

 大体3時間かな。もう日が暮れちゃったよ。

 アトモス号みたいにビットを飛ばして穴を開けられれば楽なのにな。

 とりあえず今日はここで野営するらしい。鈴ちゃんは問題ないが、ローゼンバース号の動力源となる人が限界らしい。

 午前午後の2交代で動かしているらしいが、それでも連続稼働は1人4時間くらいが限界らしい。鈴ちゃんは一人で動かしているというのに。しかもむしろ体調が回復したくらいノンビリだったんだぞ。

 それからメンテナンスもしないといけないらしい。だからワビーさんが同行しているのか。

 アトモス号は自己診断機能があるし、軽微なら自己修復だってする。

 随分と差があるな。


「モナカ様」

「なんだ?」

「ローゼンバース号をアトモス号で牽引しては如何でしょう」

「牽引? 鈴に負担は無いのか?」

「影響はほぼありません。むしろ今の出力で航行する方が窮屈と思われます」


 つまり歩調を合わせてゆっくる歩いているから歩きづらいってことかな。


「そうか。とりあえず朝まで保留だ」

「了解しました」


 しかしルイエは随分と変わったな。俺のことをモナカ様と呼んだり、こんな提案をするようになるとは……

 エイルが今のルイエを見たら驚くぞ。


 朝になってからワンマン艦長に牽引の話をしたら是非にと言われた。

 具体的にどうするのかというと、ローゼンバース号は浮いているだけでいいらしい。牽引するのにロープかなんかで結ぶのかと思ったら、そういうこともしないという。単純にシールドでローゼンバース号ごと包めば終わりとか。

 ただ重力制御装置(GCデバイス)自体はアトモス号にしか効果が及ばないからそこはローゼンバース号に頑張ってもらうしかないらしい。

 急発進は怖いからゆっくりと加速する。あー、急停船も出来ないのか。とにかくゆっくり加速してゆっくり減速した。

 ローゼンバース号に合わせていたら何日かかったか分からない行程も、お昼には着くことが出来た。


〝もう着いたのですか?!〟


 着いたものは着いた。これでも普段と比べたら天と地以上の差があるからな。

 二重結界もサッと穴を開けてローゼンバース号ごと通り抜け、穴を閉じる。ものの1分と掛からず終わるというのに3時間とか、なんだったんだ。

 とにかくさっさとデイビーを拾って帰ろう。俺たちにすることはなにも無いからな。知り合いはみんな死んでしまったし。


「船長っ」

「デイビー、元気してたか」

「はい。船長も……相変わらずのようで」


 相変わらず……か。

 そうだな、時子と手を繋がなくなる日は俺が死んだときか先輩が現れたときだろう。


 状況はあまり芳しくないようだ。

 魔神(まがみ)が居なくなったことが信じられない人、絶望する人、気にせず日常を繰り返す人とに分かれている。受け入れた人は少数だ。

 こんな状況じゃ連れて行くことも出来やしない。といってもそれをどうにかするのは俺たちじゃない。

 頑張れ。

 とりあえず受け入れた人をローゼンバース号に乗せて帰ろう。


「その前に相談したいことがあるのです」

「相談?」

「はい。魔神(まがみ)が10人居たのはご存じですね」

「ああ。その10人に魔神(まがみ)王が含まれているかどうかって問題があったんだが、気づいたか?」

「はい。結論から言うと含まれておりませんでした」

「なに?! じゃあ魔神(まがみ)が1人残っているのか!」

「はい」


 クソッ、恐れていたことが現実になってしまった。


「の割に落ち着いているな。もしかして駆除済みなのか」

「いいえ、駆除はしていません」

「じゃあ交戦中なのか?」

「いいえ、寝ています」

「……寝ている?」


 彼女はバーディというらしい。森の片隅で寝ていたのを発見したという。


「彼女を連れて帰ろうと思います。つきましては――」

「待て待て待て待て! 魔神(まがみ)なんだよな」

「はい」

「つまり魔人なんだよな」

「はい」

「てことは駆除対象なんだろ」

「そうで御座いますね」

「なんで連れて帰るなんて話になっているんだよ」

「研究のためです」

「研究?」

「彼女は人を食糧としていません。人と変わらぬ食事をしています」

「食人衝動は?」


 デイビーさんのように押さえているというのだろうか。


「無いようですね。そもそも1日の大半を寝て過ごしているそうです」

「大半?」

「大体1日のうち24時間は寝ているそうです」

「それは逆にいつ起きているんだよ」


 こっちの世界も1日は24時間で間違いないはずだ。


「分かりません。話を聞いた限り、寝ていられればどうでもいいそうです」

「話をしたのか!」

「非常に眠たそうでしたが、とりあえず言質は取れましたので問題はありません」


 無いって言っていいのか、それ。


「最後にした食事も記憶に無いそうです」


 即身仏かなにかか。


「でも〝お腹空いたからとりあえずなにかくれ〟と仰るのであの硬いパンとお湯……もとい、スープを与えました」

「足りたのか?」

「パンをひと囓りとスープひと口でお腹いっぱいになったそうです」


 どんだけ小食なんだよ。


「残りは相方の神獣が食べました」

「神獣も居たのか」

「はい。ただ……船長は会わない方がよろしいかと存じます」

「どういう意味だ?」

「なのでアトモス号への乗船を許可して頂きたいので御座います」


 スルーしやがった。


「ローゼンバース号じゃダメなのか?」

「安全を考えて念のため……です」

「アトモス号なら暴れられても構わないっていうのかよっ」

「対処可能なのはタイム様だけかと存じます。乗船の許可を」


 タイム任せかよ。


「俺と神獣を会わせたくないのに、アトモス号に乗せるっていうのか?」

「タイム様ならご理解・ご協力頂けると存じます」

「どういうことですか?」

「こちらへ。ああ、タイム様だけでお願いします」


 なんだっていうんだ。


「マスター」

「確かめてこい」


 フヨフヨとデイビーの後を飛んで付いていくチビタイム。

 つまりは近くに居るってことだよな。

 2人は建物の裏手に行くと、大した時間も掛からず戻ってきた。


「マスターは会わない方がいい」

「マジか」


 深々と頷き、それ以上多くを語らなかった。

 どう考えてもひと目見ただけの時間だったのにそこまで確信を得られたっていうのか。


「そんなんでアトモス号に乗せて大丈夫なのか?」

「タイムが縛り上げておけば問題ないよ」

「分かった。許可しよう」

「ありがとうございます」


 ということで、俺たちは一旦帰ることになった。〝一旦〟なのがイヤなところ。何往復させられることか。

 先に1人でブリッジに戻り、タイムと時子が魔人と神獣を船に連れてきた。フブキが居たところなら上に上がらない限り会うこともない。

 ……俺はダメで時子はいいのかよ。


「大丈夫だったか?」

「寝てるから抱っこして運んだよ」


 タイムが魔神(まがみ)を背負い、時子が神獣を抱っこして連れ込んだという。

 主人に似て神獣も寝こけていたんだと。

 いや、自分で歩けよ。

次回、文字というものの正体

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