第85話 人間ではない
『………………』
ぐっ、一体なにが起こった。
身体が動かない?
「チシムチシムチシムチシムチシム。ムウワヤ、ロエワ ナロ エシウカム カロウウナロシウロ ソロシワモラシ」
あの私久とかいうヤツの仕業か?
「ロソム? ムロノエナロギャクマム ケムシムナモモ シエナモエヤ、シウロワモラシ。ワロシエシムロナロワモラシ? ラムサンムナナモシロ ノエケシナロシロ ラカエウムエウロワモラシ」
? 翻訳されていない?
言語相互翻訳が止まっているのか。
『タイム……タイム!』
ダメだ返事がない。ARも情報更新が止まっている。
時計も止まっているのはどういうことだ。時間が止まっている?
いや、右目は普通に動いているのが見える。なのに左目は写真でも見ているかのように更新が止まっている。
だから見えている世界がおかしな事になっている。
左目を瞑っても左目の映像が右目の見ている世界と重なって見えてくる。
左耳もずっと耳鳴りのように音が響きっぱなしで五月蠅い。かろうじて右耳で聞こえてはいるが……
誰かが身体を揺すっている。時子の靴が目の前に見える。時子が揺すっているのか。
[割込!]
『……ナカ!』
くっ、今度はなんだ。
あ、身体が動くようになったぞ。
『モナカ、ねぇ返事してよっ』
『……時子か』
『モナカ……よかった。大丈夫?』
『大丈夫……とは言い難いな。なにが起こった』
『マスター、マズいよ。あいつプロセッサを止めに来てる』
『プロセッサって、携帯の?』
『うん』
「おや、小人は何処に行ったのです?」
『あいつを一撃で黙らせないとまた止められちゃうよ』
だから身体の自由が利かなくなったのか。
『聞いたか。時子は先に逃げておけ』
『バカッ。余計出来るわけないでしょ。立てる?』
『ああ』
「ふむ。どうやらまた動き出したようです。どれ、[停止]」
[割込!]
「ふあふあふあふあ! こいつは面白いです。ならばこれはどうです?」
『アニカ! 時子を――』
「[自爆]」
そう聞こえた瞬間、携帯の機能が全て停止した。
次回、脱出します




