第84話 覚悟が足りない?
俺の力は電力……なのか? とにかく封じられているか確認してみるか。
「んー。来いよ、黒埜!」
「なんです?!」
あ、普通に来てくれた。電力じゃないのかな。管理者とかいうのがくれた力だし。もしかして機能制限されているとか?
『ふふっ、そんな制限私が受けるわけないでしょ。なんならあの隔壁だって斬ってみせるわ』
さすが黒埜! 頼もしいな。
なんだよ。普通に使えるじゃないか。
「使えるぞ」
「どういうことです。貴方には許可がないはずです。無能共が設定を間違えたのです?」
こいつ、黒埜を突きつけられても態度が変わらないぞ。
「ほほう。綺麗な刀身の刀です。一体何処から取り出したのです。まさか禁術の次元収納です? 魔力も電力も必要とせず次元の壁を? そんな技術が天上にはあるのです? ああ、あああ、なんて、なんて素晴らしいのです」
『ひぃっ。モナカ、こいつの視線、気持ち悪いよ』
黒埜を舐めるようにジロジロと見つめている。俺が横にサッと動かせば簡単に斬れる距離なのに、臆せずジロジロと見つめている。
黒埜に触るなよ。触ったら叩き斬るからな。
「ふふふふ、ふあふあふあふあふあふあふあ! これは益々興味が沸いてきたのです。さあ、大人しくするのです」
「近づくな! 斬るぞ」
「斬るのです? 僕をです? ふふ、ふふふふ、ふあふあふあふあふあふあ」
「なにがおかしい」
「斬られたなら、新しく作り直せば良いのです」
なんだそれは。
作り直す? クローンとかそういう話か? で、その身体に記憶を移す?
まさかそれを何度も繰り返しているとでも?
「お前は何人目なんだ」
「おかしな事を言うのです。僕は1人しか居ないのです」
「そうじゃない。今までそうやって何回生き返ってきたんだ」
「生き返るです? 僕は死んだことなんて無いのです」
既に何度も作り直したことがあるような言い方をしておいて、今目の前にいるヤツがオリジナルって事なのか? なのに死を恐れていないなんて……どういう神経しているんだ。
「では1号君、こっちへ来るのです」
俺は1号らしい。
「断る」
「自我は要らないのです。さ、早く来るのです」
「断るっ!」
こいつを斬るのは簡単だ。切っ先がヤツの顔の前にあるから一歩踏み出すだけで、身体を捻って腕を前に出すだけで、顔に突き刺さるだろう。
……こんなヤツでも人間だぞ。それを斬る? そして殺すのか。
「さあ!」
「ひっ」
「いやっ」
うっ。こいつ、黒埜を気にせず俺に近づいて来やがった。俺はとっさに切っ先をずらした。それでも頬をズバッと切り裂くことになった。
この感触……肉だけじゃない。なのにこいつはまったく気にしていない。痛くないのか?
「はあいひこうくん、くうおえう。 ん? ほくを斬っかのへう? むはなのへす」
そう言うと頬から血を吹き出しながら部屋を出て行った。しかしものの10秒もしないで戻ってきた。
傷が治っている……もう治療したのか。血で染まった白衣も着替えてきたらしい。床に血が無ければなにも起こっていなかったと錯覚するほどだ。
「もう治ってる?」
「なんなのあいつ」
「さあな。あれが作り直すってことなのかもな」
「さあ1号君、来るのです」
「くっ」
「そんなものを構えても無駄なのです」
『モナカ、こいつら斬って脱出しようよ』
それが正解なんだろうけど、人を斬るのか? そんな覚悟は出来ていない。魔人じゃないんだ。こんなでも人間なんだ。
『もー、そんなこと言ってる場合?』
黒埜……なんか好戦的になったな。
『そりゃ私の本質は敵を斬り倒すことだからね。それが魔物だろうと魔人だろうと……』
人間だろうとってか。当たり前だ。黒埜はその為にタイムが打ってくれた日本刀なんだからな。それは十分分かっているつもりだ。
『だったら』
それでも人は斬りたくない。俺は日本人で一般人なんだ。
『ナームコさんにここは元の世界じゃないって言ったくせに』
ははっ、確かに。それでも……だからこうだ。
「はぁぁぁっ!」
刀を返して思いっきり横薙ぎでぶっ叩いてやった。峰打ちってヤツだ。
骨くらいは折れるだろうけど、死にゃしない……よな。
「おうふっ!」
『躊躇ってると、そのうち時子を守れなくなるよ』
そんなときが来ないことを祈ろう。
その分、隔壁ではその切れ味を思う存分発揮してもらうさ。
『任せてよ』
よし、次は後ろの女だ!
『時子、逃げるぞ』
『ええ』
「[停止]」
そう聞こえた途端、俺は膝から崩れ落ちた。
次回、もうどうにも止まってる




