第81話 着くまで?!
「こっちだ」
付いていくと、そこには3台トラックが止まっていた。
「こいつの荷台に乗れ」
「荷台に?!」
「他に乗るところは無い」
「助手席があるだろ」
「3人は無理だ。それとも嫁を荷台に載せてお前1人乗るのか?」
「時子が乗るよ」
「私が?」
「俺が荷台に乗る。タイムは俺の肩に乗ればいい。揺れるけど我慢してくれ」
「問題ないよ。時子、助手席に乗せてもらいなよ」
「……私も荷台に乗る!」
「折角空いているんだから乗せてもらえよ」
「さっさとしろ。走って付いてきてもいいんだぞ」
「モナカ、早く……乗り……なよ」
「あっ」
荷台に登ろうとしているが、登れていないな。それにそんな風に足を上げたら見えるっての。はぁ……
荷台に手を掛けヒョイッと飛んで登り、時子に手を伸ばす。
「ほら、掴まれよ」
「あ……うん」
時子がスカートで手を拭き、それから俺の手を掴んだ。普段そんなことしないのに、急にどうした。
「引っ張るぞ」
「お願い」
「いくぞ。せーのっ」
グイッと引っ張ると、時子が荷台に上がってきた。勢い余って抱き寄せる形になっちまったな。
「大丈夫か?」
「ひゃっ。う、うん……大丈夫」
なんか声が上擦っているけど、本当に大丈夫か? 顔もちょっと赤い。
「時子、なに今更照れてるの!」
「て、照れてなんかないわよっ。変なこと言わないでよね」
時子が照れている?! 手なんかいつも繋いでいるし、ダンスの練習で抱き締めていただろうに。その……キスのときも。そんな今更……まさか……ね。
でも確かに頬を染めて俺から目を逸らしている。あ、目が合った。でも更に頬を染めてそっぽを向いてしまった。マジか……
「発情するのは後にしな」
「してないよっ!」
「してませんっ」
「さっさと座りな。出すよ。ああ、〝出す〟と言っても〝中に〟じゃないからな。あーっはっはっはっはっは」
…………中? ここは外なんだけど。
まあいい。とにかく座ろう。
「ほら時子、座ろう」
「え、ええ」
「マスター、時子、はい座布団」
「おお、助かる」
「ありがとう、お姉きゃあ!」
車が急発進したから時子が倒れそうになってしまった。とっさに抱きかかえたから無事だけど。乱暴な運転だなぁ。
とにかくさっさと座ろう。
「大丈夫か?」
「う、うん……大……丈夫……」
「マスター、どさくさに紛れて何処触ってるの?」
「何処って……あっ! ご、ごめん」
「う、うん……大……丈夫……」
「……時子?」
「う、うん……大……丈夫……」
ダメだ。大丈夫じゃない。
「マスターがエッチなことするから時子が変になっちゃったじゃない」
「誤解を生む言い方をするな。あれは事故だ」
「事故なら胸を揉んでもいいんだ」
「揉んでいないっ! 触っただけだ」
「どうだか。思いっきり鷲掴みしておいて。ね、時子」
「う、うん……大……丈夫……」
「はぁ。ダメだわ」
そりゃ、確かに思いっきり掴んでしまったことは認めるけど、わざとじゃないし、ましてや揉んでなんか……なかった……よな。無意識に揉んでいた? ほんのりと柔らかい感触が掌に残っている。
「なに感傷に浸ってるのよ」
「は?!」
「手が寂しいなら今時子が呆けてるんだから揉み放題じゃない」
「なに言ってんだよ!」
「〝ここが痛いのか? 大丈夫か?〟とか言いながら揉めばいいじゃない」
「タイム……それは完全にただのエロ親父だぞ」
「どうせタイムは揉むところなんか欠片もありませんよーだっ。ふんっ」
「そ、そんなこと無いだろ。タイムだって大きくなれば……って、なに言わせるんだよ」
「だったら試してみればいいじゃない……ほら」
「ほらって、そんな理由で大きくなるな! そもそも試さないから」
「ほら、やっぱり揉む価値すらないんだ……」
「そんなこと言ってないだろ」
「なら揉めばいいじゃない。本人が許可してるんだから、合法的に女の子の胸を揉めるんだから揉めばいいじゃない。さっさと揉めばいいでしょっ、バカッ」
「揉め揉め言うなうわっ」
「「きゃっ」」
「おっと」
曲がるときくらい減速しろよ。
いや、減速したとしても急ブレーキを掛けられるのがオチか。
危うく倒れるところだったけど、2人を抱えてなんとか耐えることが出来た。
「2人とも、大丈夫か」
「「う、うん……大……丈夫……」」
あれ? タイムまでおかしくなったのか?
「タイム、こいつの運転はかなり荒いから、もう変なこと言うなよ」
「う、うん……大……丈夫……」
ダメだこりゃ。
「倒れないように着くまでこうしててやるから、な」
「着くまで?!」
あ、ちゃんと反応した。
「た、確かにいいって言ったのはタイムだけど……うう……そんな長時間は想定してなかったよー」
? タイムはなにを言っているんだ?
うおっと。
「ひゃん!」
「あっ」
「変な声を出すな」
「だ、だってぇ」
「う、うん……大……丈夫……」
「とにかく、文句なら運転の荒いあいつに言ってくれ」
「うう……」
「う、うん……大……丈夫……」
抱き締めるなんてそれこそ今更だと思うんだけど……
まったく。こっちは荷台に座らされているんだから、もう少しゆっくり走ってほしいよ。
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