第79話 人間ではない
さて、矢面に立つつもりなんかなかったのにな。立つことになったからには腹を括るしかない。
時子を守らなきゃいけないし。タイムも気になるし。
『マスター、鈴ちゃんたちが付けられてるよ』
『なに?』
まさか帰すつもりはないってことか? それとも単純に帰るのを見届けているのか?
『そのまま警戒しておいてくれ』
『分かった』
何事も無ければいいけど。
「案内する。こっちへ来い」
「何処へ連れて行くつもりだ」
「ふっ、付いてくれば分かる」
そんなことは当たり前だ。
とりあえずこの偉そうな女の後に付いていくしかないってことか。
で、逃げ場がないように周りを取り囲まれる……と。なんか連行されている気分になるな。
「ここで待っていろ」
ゲートまで来ると、女は俺たちを置いて離れていった。
ゲートに付いていた警備員? となにやら話をしているようだ。
「通っていいぞ」
いいぞと言われても……女が居る方に行けばいいのか? それともこのまま道を通ってバーをくぐればいいのか?
分からんが、とりあえずバーの方へ歩いて行くか。
あれ、取り巻きたちは動かないのか。
3人でバーの前まで来たけど上がる様子はない。
くぐるしかないか。
「待て!」
は? くぐろうとしたら女に止められたんだが。
向こうだったのか? そうならそうともっと早く言ってくれ。
「おい、何故バーが上がらない」
「はっ。どうやらセンサーが反応していないようです」
「なんだと?」
センサーが反応しないって、もしかしてここでも俺たちは存在しないことになっているのか?
確かに魔力センサーには一切反応しないんだけどさ。ここも魔法都市なのか? でも鈴ちゃんの故郷の人間だってことは物理都市の筈……
デイビーの見立てが間違っていた?
「識別としては無生物、つまり荷物だけが通ろうとしている状態なので、ゲートが開かなかったようです」
またそういう認識なのかっ。
「更に」
まだあるのかよ。
「認識しているのは2つ……いえ、2名のみ。1名はセンサーに一切認識されておりません」
「なんだと」
「かろうじて光学センサーに映ってはいるものの、画像が不鮮明になっており、判別が出来ていないようです」
「見せろ」
その1名っていうのはタイム……だよな。
でも光学センサーにさえまともに映っていないっていうのはどういうことだ。
「なるほど。ゲートのセンサーでは無理なようだ。いいだろう。待たせたな。くぐって入れ」
結局ゲートのバーは上がらないのかよ。これ、上にグイッと持ち上げたらダメなのかな。
とりあえず言われたとおり頭を下げてバーの下を通る。すると警告音と共に黄色いランプが回った。
「おい! 警報は切っておけと言っただろう」
「申し訳ありませんっ。反応したのは無人の貨物が通過したことを知らせる警告灯です。こちらは切っておりませんでした」
「無人の貨物ぅ?」
そういう認識なのかよっ。つまり俺たちは歩く荷物ってことか? ふざけるな!
「ふん、さっさと警報を静かにさせろ」
「はっ」
ゲート1つくぐるのも大変だ。
次回、ちゃんと苦労します