第76話 褒めることの難しさ
◆◆◆ ゲート接近中 デイビーたち ◆◆◆
おや、どうやら見られているようですね。
これはこれは、中々にお粗末な魔力視といったところでしょうか。
では僕が見ていたとしても文句は言われないでしょう。
といっても、スズ様と同じ周波数でしたから見えてしまった……と言った方がいいでしょう。
つまり彼の者たちはスズ様と同じ故郷の者。勇者様と故郷を同じくする者たち。そういうことなのですね。
船長はそれを見越してスズ様を起こした……と考えるのは浅はかですね。そのような深慮をするとは思えません。
しかし、彼の者たちの魔力は本当に小さい。スズ様と故郷を同じにしているとは思えません。
彼の者たちを砂粒とするならば、僕は握りこぶしほどでしょうか。もっとも、スズ様からしたらドングリの背比べに見えることでしょう。
おっと、船長に報告をしないといけませんね。
「船長、どうやら僕たちは見られているようですね」
「ん? そうだろうな。でなきゃゾロゾロと出てこないだろ」
「ああ、そういう意味ではありません。見られているというのは……そうですね、探られていると言った方が正しいでしょうか」
「探られている?」
「はい。防ぎますか」
「防げるのか?」
「そういった魔法道具も持っておりますので」
「うーん、防いだら敵対していると思われないかな」
「その可能性はありますが、お互い未知の相手です。慎重になり、自衛しておくのは悪いことではありません」
「それもそうか。分かった。そうしてくれ」
「ではスズ様、お願い致します」
「ふえ?」
「待て! 鈴にやらせるのか?」
「彼の者たちはスズ様と故郷を同じにする者たち。僕よりスズ様の方が適任なので御座います。それに僕が使うと僕1人を防ぐことしか出来ません。スズ様なら全員を防げるので御座います」
問題は魔法道具がスズ様の魔力に耐えられるかといったところでしょうか。聞くに、トレイシー家のシャワーは使いこなせているようですから、問題は無いでしょう。
「パパ、鈴は平気だよ」
「う……そ、そうだな。じゃあお願いしようかな」
「うんっ! デイビー小父さん、貸して」
「こちらで御座います」
腰に提げている魔法道具を手に取る。大人の手なら簡単に握れる太さの円柱形ですが、スズ様には少し太そうですね。
スズ様に渡すと、やはり片手では掴みきれないようです。両手でしっかりと握られています。
長さとしては20センチ程度。さほど重いものではありませんから、負担にはならないでしょう。
「うー? どうすればいいの?」
「魔力を込めればいいだけで御座います。あまり沢山流されますと壊れるかも知れません。お気をつけ下さい」
「分かりました。んーと、このぐりゃいかな」
「ふむ、少し強いようですね。半分くらいに出来ませんか」
「半分……このぐりゃい?」
「はい。大変よく出来ました」
っと。ここで拍手をしてはいけないんでしたね。
また船長の機嫌を損ねるところでした。
僕にはバカにした気持ちは無いのですが……人を褒めるのは難しいですね。
◆◆◆ ゲート前 防衛ライン ◆◆◆
む? 先程まで感じられた魔力波が感じられなくなったな。どういうことだ。
まさか私の感知を察して抑えたというのか。
かなり知能が高いようだな。
しかし、目的が見えないぞ。服装はバラバラ。幼子も連れている。しかも堂々としている。とても斥候には見えない。
とはいえ、危険であることに変わりはない。
女と犬型騎兵からは汚染物質を検出している。計測不能の男と鳥は存在自体が危険だ。
そんな奴らと共に行動していて汚染されていない……ふむ。なるほどなるほど。
利用価値がありそうだな。
次回、歴史の違い




