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第72話 愛する部下を全員覚えていて当然だ

 こんな簡単なことも分からない阿呆だったとはな。私は頭が痛いぞ。

 そういうことならば、連帯責任だ。


「おい貴様等! この阿呆の腐りきった脳味噌よりは真面(まとも)な物を持っているんだろうな」


 ふむ、見渡してみても誰も私を見ないな。


「なるほど。自分の仕事に熱心なようだな。感心感心。感心なことではあるが、誰もこの阿呆を助けようという仲間思いなお節介野郎は居ないのか? ん?」


 ん? 恐る恐る手を上げたお節介野郎が居やがるぞ。

 ほうほうほう。貴様は答えられるというのだな。答えられたなら、ご褒美に肩を揉んでやろうではないか。


「おいお節介野郎」


 そう穏やかに言い放ち、このお節介野郎の両肩を景気よく掴んだ。

 そして優しい天使の囁きで審問してやった。


「貴様は答えられるのだな」

「は……はい。恐らく……」

「恐らく?!」

「ひっ」


 っと、いかんいかん。思わず声を荒げてしまったではないか。優秀な部下には優しく。それが私のモットーだというのに。

 スマイル、スマーイル。ニカァ。


「い……いえ、たっ、正しく答えられますっ!」

「そうか。君には期待しているよ。それで?」

「はっ。破壊されたのに復旧されていることが問題だと愚考致しますっ!」

「ほう? そうなのか?」

「……は、はい」

「貴様……」

「ひぃっ」

「よぉく、分かっているではないかぁ。私も貴様のような部下ばかりだと助かるのたがな」

「はっ、身、身に余る、光栄です」

「んーそうかそうか。謙虚なのはいいことだ。よし、褒美だ。肩を揉んでやろう」

「い、いえ。機重力(きじゅうりき)室長のお手を煩わせるようなことは」

「遠慮をするな。私は中々に上手いのだぞ。何人の男を骨抜きにしてきたことか。中にはうれションをしてしまう者まで居たからな。っはっはっはっは。貴様は我慢しろよ? ん?」

「は、はい。気を……つけます」

「はっ、骨抜きじゃなくて骨砕きだろ」

「誰だ今言った阿呆は!」


 ふん、お通夜みたいに静まりかえりやがって。名乗り出る勇気も無いとは。情けない。


「ふむ。どうやら私の空耳だったようだな。そうなのだな、リック・ハリス・アダムス君」


 私の後方左44度に居る阿呆のことだ。

 私は肩を揉むことを忘れることなく熟しながら、ゆっくりとそちらに身体を向けた。


「どうした? そんなに振るえて寒いのか? そうかそうか。私が抱き締めて暖めてやろうではないか」

「もっ、申し訳ございませんでしたぁ!」

「ん? なにをいきなり謝っているのだ? 私はただ君に尋ねただけなのだよ、リック・ハリス・アダムス君。私はね、私の部下を愛している。だから君の名前を覚えているのは当たり前なのだよ。なにも怖がるようなことではない。勿論(もちろん)名前だけではないぞ。顔だって覚えている。キミは名前だけではなく、顔立ちも移民系純血種だとひと目で分かるほど血が濃いのだろう? 私のような原住民との混血種など愚かな存在であろう。なぁ?」

「い、いえ。そのようなことは思っておりません……」

「いやいや、そういった思想があって然るべきだ。私はそのことについて糾弾などしない。だが、嘘を()くのはよくないなぁ。私は名前や顔だけでなく、声も覚えているのだよ、リック・ハリス・アダムス君。ん? なにか言うことは無いかな?」

「さ、先程の発言は、愚かな私奴でありますっ!」

「おや? おやおやおや? 私は正直に……と申したはずだがなぁ。純血種の崇高なる存在様。愚かな混血種の私奴には正直に話す気など無い……ということでございますか、ああ……気づくのが遅くなりました。話すことすら苦痛なのですね。それはそれは大変申し訳ございませんでした。お望みどおり、二度と卑しい私奴とお会いすることが無いよう、手配させて頂きましょう」


 私はなんて慈悲深いんでしょう。

 部下の望みを叶えるため、人事部に内線を繋げて手配することも暇無く行うのですから。

 さて、何処に送って差し上げましょうか。


「あ……その……今後も何卒、機重力(きじゅうりき)室長の下で、働きたいと思っておりますっ」

「いやいやいや、そのようなお世辞は要らないのですよ。そうだ! 貴方にピッタリなところへ行かせて差し上げましょう。私だ。リック・ハリス・アダムスが異動願を出していてな。ああ、そういう正式な手続きは後回しでいい。うん、理解が早くて助かるよ。やはり人事部は優秀な者が多くて羨ましい。いや、脱線したな。うむ、それがな、本人に希望は無いそうなんだ。だから私は考えたのだよ。どうせなら皆のためになってもらおうとな。そこでだ。食品加工場なんてどうだろうか。あそこは不意の転落事故で作業員が不足しているそうではないか。ん? そんなことは無い……と? 私の勘違い……とでも? っはっはっは。そうであろうそうであろう。人事部にも多少阿呆が紛れていたようだが、私は慈悲深いからな。間違いを認められる者は許そうではないか。うんうん。で、どうかね。リック・ハリス・アダムスの移動先としては。相応しいと思うのだよ。そうか、賛同してくれるか。やはり人事部は優秀なのだな。っはっはっは。謙遜は止めたまえ。では、後は頼んだよ。リック・ハリス・アダムス君! 喜び賜え。キミの異動が決まったよ。汗水垂らして皆のために働き賜え。くれぐれも、転落事故には気をつけるんだぞ。文字どおり、皆の血肉になってしまうからな。っはーっはっはっは」

「あ……うう……」

次回、手本は選びましょう

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