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第71話 問題ありません

 一昨日の夜から急に物価が上がった。安月給の連中にはキツいだろうな。

 物価だけ上がって給料は変わらない。たまの贅沢すら楽しめなくなったと嘆いていた。

 金田の阿呆は仕事をサボってなにをやっているのだ。

 だが高給取りの私には関係ない。微々たるものだ。だというのに、旦那の阿呆はヒィヒィ言っている。

 私の給料で贅沢をさせてやっているというのに……狼狽えおって。みっともない。今晩は竿だけでなく金玉も付いてるのかと身体に直接聞いてやるとするか。

 しかし暇だ。平和だ。なにも起こらない。

 金田の阿呆は〝平和でいいな。こっちは大忙しだ〟とほざいていたが……平和ほど退屈なことはない。ある意味金田の阿呆が羨ましいぞ。

 そんなことを思いながら書類にサインを書いていると、警戒ランプが点いた。

 どうせまた阿呆が電気柵に誤って触ったとかだろう。大したことじゃない。黒焦げになったゴミを片付ける手間が増えただけだ。清掃班に任せておけば良い。

 ま、一応聞いてやるか。


「どうした。また阿呆が立ちションでもして粗末なモノが電気柵にでも触れたかっはっはっはっはー」

「いえ、それが……」

「なんだ」

「結界が……その……」

「はっきり言え!」

「結界が破壊され! 侵入された形跡がありますっ!」

「なんだとぉ」


 ふっ、結界が破壊されたと言ったか? ふふっ、そんな面白そうなことがあるというのか?


「ほう? なら天井が落ちてこないように見上げながら働かないといけないなぁ。そうだよなぁ。っは」

「そ、それが……既に修復されており、問題はありません」


 は? この阿呆はなにを言いやがった?

 私はゆっくり立ち上がると、「貴様、今なんと言った」と詰問を始めた。

 一歩、また一歩とこの阿呆の元へゆっくりと近づいていく。


「その……破壊……された結界は……既に……修復されて…………おります」


 阿呆が言い終わる前に目の前に現着し、見下した目で見下ろしてやった。

 ふむ、それで終わりか?

 私はゆっくりと阿呆の耳元に顔を寄せ、天使の囁きで問い詰めた。


「それで?」


 ああ、私はなんて優しいんだ。こんな阿呆にもまだチャンスを与えてやっているのだからな。


「も、問題は……無いと……思われ…………」

「ああ?」


 所詮阿呆は阿呆か。


「貴様、本当に問題など無かったというのか。その腐った脳味噌は飾りか? ああいや、すまんな。飾りならもっといい物を飾るよなぁ。そうだろ? そう思わんか?」

「は、はい。そう……思います」

「ならば、今すぐ交換して来い」

「こ、交換?!」

「なんだ。不服か。不服があるなら聞くだけなら聞いてやる。言え」


 やはり私は優しいな。

 部下に反抗的な態度を取られても、心穏やかに落ち着いて聞いてあげるなど、普通の人間には出来ぬだろうからな。ふっふっふっ。

 そんな優しい私の顔から目が離せないようだな。

 貴様のような阿呆に見つめられても不快なだけだが、寛大な私は許してやろうではないか。

 振るえているな。緊張しているのか?

 ふっ、これだから童貞は。


「いえ……その……」

「ん? どうした。緊張することなどないぞ」


 私は敵意が無いことを示すために胸を張り、指先で上着を摘まんで広げて内ポケットに武器が隠されていないことを見せ、その後も両手を広げて手に武器など持っていないと主張し、天使の微笑みを向けてやった。


「ひっ」


 これでも不満か?

 さすがの私もストリップショーまでして武装してないことを証明するつもりはないぞ。

 それとそれが目的か? 童貞の考えることは浅はかだな。理解しがたい。

 娼館に行ってその粗末なモノをぶち込んだら腰を振って役に立たない子種を無駄にして世の中に貢献してこい。

 おっと。私としたことが少々下品だったな。

次回、覚えているぞ

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