第69話 タイムの我儘
「全員揃ったな。それじゃデイビー、後は任せた。俺たちはアトモス号で待っているから」
フブキがどうやって操縦しているか、楽しみだなぁ。
「マスター?! 行かないの??」
「俺たちが行く意味あるか?」
フブキが待っているんだぞ。
「だって、エイルを探すんでしょ」
「エイルは居ない。魔素が無いんだから。そう言ったのはデイビーだ。間違いないんだよな」
「そうですね」
だからフブキの待っているアトモス号に帰る。
「タイム様、腕の周りだけ膜を取り除いてくださいますか」
「う、うん」
ん? なにが始まるんだ?
デイビーが右腕を前方に伸ばした。そしてタイムが膜を取り除いたのだろう。腕がピクピク動いたと思ったら腕の形が崩れた。マジか。
「デイビー!」
「タイム様、もう結構でございます」
「うん」
「ふむ、やはり魔素が存在しませんね」
「お、おい」
身体を張って確認したってことか。
「ああ、大丈夫ですよ。暫くすれば元に戻ります」
「元に戻るって……」
腕がグチャグチャじゃないか。
「僕たちは貴方たち真核多細胞生物とは違い、真核単細胞生物です。多少形が崩れたところで問題ありません」
「多少?!」
いやいや、普通多少でも形が崩れたら大変だろ。
などと話をしていたら。
「ほら、このとおり」
本当だ。もう元の形に戻っている。
「そんなに驚くことではありませんよ。むしろこんなことも出来ない貴方たちの方が驚嘆に価します」
生物としての根幹が違いすぎる。でもこれではっきりした。
「つまりエイルが中に入ったとしても、そうやって形が保てなくなるってことだな」
「はい。そしてそれが長く続けば人として生きていられなくなると言われています」
「人として?」
「はっきりとしたことは分かっていません。そもそも研究が出来ないのですから」
「研究が出来ない?」
「環境を作り出したり観察することが困難なのです。ですからこれもかなり貴重なデータといえるでしょう」
「そ、そうなのか。大変だな」
「はい。本来ならこれは僕の仕事ではないのですが……」
あ、ヤバい。またその話になっちまう。
「とにかく、これでエイルが居ないという確証が出来た。大人数で動くのは得策ではない。護衛をしなきゃならないほど治安が悪いとは思えない。身分証があればタイムの保護膜も機能する。撤収だ」
「あー、タイムは……そのー、見学してみたいかなーなんて」
「見学? ならドローンでも飛ばせば済むだろ」
「えっと……直接見て触ってみたい……かな」
「直接? タイムなら身分証を通じていつでもこっちにこれるんだろ」
「あ、あれ? 結界の所為かな。通信に変なノイズが入って不安定……かも?」
なんかやたらと食い下がるな。
「デイビー、どうなんだ」
「僕にはサッパリ分かりません」
「ナームコ!」
「そうでございますね。なんの問題も……だらけなのでございます」
ん? なんか変な言い方だな。途中まで言い掛けて俺から視線を外したような。
その先には……タイム? あ、目を逸らした。アヤシイ……
「本当に問題だらけなんだな」
「左様でございます」
「お兄様に誓って?」
「……タイム様に誓って」
タイムにかよっ。しかも妙な間があったし、絶対なにかあるだろ。
でもタイムに誓われちゃあな。
「分かった。一応信じてやる」
「ありがとうございます」
はいタイム、そこで胸を撫で下ろさない! 確実になにかあるじゃないか。まったく……
とにかく、行くしかないかー。
「それで? どうするんだ。市長にでも会うのか?」
「僕はここを統治している者と接触してみようと思います」
「タイムは?」
「町中を散歩したい……かな」
「散歩?!」
ここまでしてやりたいことが散歩かよ。しかも疑問形。一体タイムはなにがしたいんだ。
とはいえ、散歩か……どう考えても目立つよな。それが目的? ……なわけないか。
「まあいい。観光するのもいいだろう。ここで待機してデイビーが観光の許可を貰ってくるのを待とうか。タイム、それでいいな」
「う……うん」
歯切れが悪いな。許可なんか待っていられないって感じだ。そんなに引きつけられるなにかがあるのか?
「ね、マスター。待つならもう少し近くにしない?」
「え?」
「一応護衛なんだからさ。人が居る近くまで側に居た方がーってさ。ね?」
「そうですね。途中で魔獣に襲われるのは面ど……問題でしょう」
「今〝面倒〟って言わなかったか」
「気のせいで御座います」
気のせい、ね。
なんにしても、タイムがここまで食い下がるなんて思わなかった。
でもやりたいことが不明瞭だ。どうせ散歩じゃないんだろ。きちんと話してほしいところだが……うーん。
「分かった。でも交渉には付き合わないからな」
「それでいいよ」
「僕としては一緒に来てくれた方が、面倒が無くていいのですが……」
今度ははっきり面倒と言いやがった。
「却下だ。交渉に失敗したときのリスクが大きいからな」
「ふむ。仕方ありませんね」
「タイム、ルート案内は任せたぞ」
「分かってる。行こう」
なにをそんなに張り切っているんだ。
元気が無いわけではなさそうだけど、いつもの可愛い顔が凄く真剣だ。〝私は真剣だ〟と見せているんじゃない。本気なんだ。一体なにを1人で抱え込んでいるんだ。
『なぁタイム』
『ごめんなさい。後でちゃんと話すから』
『今じゃダメなのか』
『確信が無いから。それに……ううん、とにかく今はなにも聞かないで』
『分かった。切羽詰まって手遅れになる前に頼むぞ』
『うん。でももう……』
『もう?』
タイムはそれ以上なにも言わなくなってしまった。
次回、怒られちゃった




