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第67話 小学生の集まり?

 時子に水を出してもらい、顔と手を洗う。泥だらけのまま食べたくないからな。

 手は軍手のお陰で汚れていなかったけど、気分の問題だ。

 シートを敷き、その上にお弁当を広げてみんなで食べる。お弁当といっても、五段重ねの重箱だ。しかも一段が大きい。作りすぎだろ。


「さ、兄様。あーん」


 って、ナームコが口を開けるのかよ。適当に選んだ俵型のおにぎりを放り込んでやった。


「満足か?」

「んー、おいひいのへぼばいまふ」

「食べながら喋るな」

「はい、ひいはま。はーん」


 お返しのつもりか? ナームコもおにぎりを1つ摘まんで俺に向けてきた。


「やらないって」

「おはへひはもべぼばひまふ」

「飲み込んでから喋れ!」

「もぐもぐもぐもぐもぐ……」


 もう放っておこう。

 さっき取ったヤツの隣のおにぎりを摘まみ、がぶりと……食べようとしたら口を開けた隙にナームコがおにぎりをねじ込んで来やがった。


「ふふふふっ」

お前な(ほまへは)……」

「食べながら喋っては行儀が悪いのでございます」

お前が言うな(ほまへばひふは)!」


 ったく。

 んー、これは味噌味か?


「マスター、あーん」


 今度はチビタイムか!

 爪楊枝に刺さったタコさんウインナーを、両手持ちで差し出している。これを食えと? まだ口の中に味噌握りが残っているんだが……

 あーんと口を開くと、チビタイムがタコさんウインナーを食べさせてくれた。

 おおっ、これは! 味噌握りとウインナーが合わさって、味わいが変わった。味変というヤツか。タコより柔らかく、米より大きくて弾力があるウインナーがアクセントとなって歯に伝わってくる。味噌にはない脂身の旨味が合わさってお互いを高め合っている。


「んー、美味い」

「モナカ、これ。私が焼いたの」


 ん、厚焼き卵は時子が焼いたのか。箸で1つ摘まみ、俺に向けている。

 時子、お前もか。

 どれどれ。これは出汁巻きだな。


「うん、美味い」

「マスター、間接キスだね」

「ぶふっ」

「お姉ちゃん!」


 あ、あぶなっ。危うく吹き出すところだったぞ。


「変なことを言うな。小学生じゃあるまいし」

「ふふふっ」


 急になにを言い出すかと思ったら。

 あー、時子まで意識してしまったのか、自分も食べようとして摘まんだ出汁巻き卵が、行き先不明で迷子になっているじゃないか。


「時子も今更意識するな」


 間接じゃなくて直接をさっきもしていただろっ。

 それともアレは充電だからキスの内に入らないと?

 充電って言うと怒る癖に。まったく。


「うー……」


 摘まみ上げた出汁巻き卵をジッと見つめながら唸っていたが、観念したのか目を瞑りながらパクリと食べると、俺を上目遣いでジッと見つめ、ほんのり頬を染めた。そして箸を咥えたままモグモグと噛んでいる。

 そんな顔を向けるな。俺まで恥ずかしくなってくる。


「パパ! あーん」


 今度は鈴ちゃんか。

 ちょっと小さめのおにぎりだ。


「あのねあのね、こりぇ、鈴が握ったの」

「おー、よく握れたね。あーん」


 うん、小さいだけあってナームコのときより食べやすい。

 それじゃお返しにと、さっき摘まんだはいいが行き先不明でずっと摘まんだままだったおにぎりを、半分に割って鈴ちゃんに食べさせようとしたが、鈴ちゃんは逆の手に持っていた小さいおにぎりをパクリと食べた。

 また行き先不明になったか。

 なら当初の予定どおり、俺の口の中へ来てもらおう。


「ふふっ。こりぇ、パパと間接キスだね」

「す、鈴?!」


 あっぶな。食べる前でよかった。


「えーっと。ちょっと違うかな」

「えー、違うの?! 鈴もママやナーム叔母さんみたいにパパと間接キスしたい!」


 ナームコとはしていないからね。


「スズ様、同じ箸で召し上がらないと間接キスにはならないのでございます」


 お前はなにを鈴ちゃんに教えているんだ。


「そっか!」


 そもそも鈴ちゃんならそのくらいの知識を知っていてもおかしくないはずなんだが……

 行動だけでなく知識まで幼児退行していないか?

 しかし行動力は高いな。今度は箸で唐揚げを摘まんでいる。


「パーパ!」

「あーむっ」


 んー、柔らかくて肉汁もタップリ! 美味い。

 胸肉派ともも肉派に分かれて争っているらしいが、俺にはこれがどっちなのか分からない。気にしたことも無い。唐揚げは唐揚げだ。美味ければいい。

 そして鈴ちゃんは唐揚げを摘まみ上げるとかぶりついた。少し大きいんじゃないか。口に入りきらないし、噛み切るのも難しそうだ。


「申し訳ございません。兄様に食べ応えのある大きさをとばかり考えていたのでございます。スズ様、今小さく切ったものをご用意するのでございます」

「んーん。んんんんーん!」

「存じたのでございます。次からは気をつけるのでございます」


 鈴ちゃんがなんて言ったのか理解できたのか?! 俺には分からん……

 そしてみんなが固唾を飲んで見守る中、悪戦苦闘しながらもなんとか噛み千切ってモグモグと食べ始めた。

 なんて満足げで幸せそうな顔なんだ。

 すると、誰からともなく安堵の息が漏れた。


「あっ」


 噛み千切られた唐揚げが、箸の拘束から抜け出してしまった。しかし下に落ちる前にチビタイムがシッカリと受け止めた。


「はい」

「モグモグモグモグ……ゴクン。ありがとう!」


 お、ちゃんと飲み込んでから喋ったぞ。エライエライ。


「ふふっ、あーん」

「あーん」


 鈴ちゃんはチビタイムに唐揚げを口の中に入れてもらい、モグモグモグモグ……

 そのチビタイムはというと、あー、油塗れになっちまったな。

 ヤケになったのか、フライドポテトを両手で抱きかかえて齧り付いた。何度も何度も齧り付いた。

 珍しいな。タイムは食べることが出来ないからあんなことしないのに。


「はい、マスター」


 齧り付いたフライドポテトを差し出してきた。

 あれ、歯形は付いているけどそれだけだ。食べたわけじゃないのか。

 なんのために?

 とにかくその油で揚がった細長いジャガイモを咥えてモグモグと食べる。


「ふふっ、タイムとも間接キスだね」

「ふぐっ!」


 それが目的かぁ!

 く、くそっ。そんな不意打ち……耳元で囁かれたら尚のこと意識してしまうじゃないかっ。

 しかもその囁き声が耳をくすぐって羞恥心を余計に刺激しやがる。

 とんでもない爆弾を放ちやがって……あーっ!


「なに赤くなってるのよっ」

「あ、赤くなんかなって……くっ」

「……私とはサラッと流したくせに……」

「え、なに?」

「なんでもない!」

「パパ、浮気はダメだよ」

「ええっ?! してないしてない!」

「そうでございます。わたくしというものがありながら――」

「ナームコは黙ってて!」


 話がややこしくなるだけだ。

 幸いなのはここにアニカが――


「そうだよ。ボクを放っておいて他の女とイチャついて! 浮気者!」

「へ?!」


 どうしてアニカの声が……火鳥(カタヨク)かー!

 火鳥(カタヨク)からアニカの声が聞こえたぞ。

 もしかして火鳥(カタヨク)を通してここの様子を見ているのか? 聞いているのか? 話したというのか? そうなんだな!


「お前は男だろっ!」

「そうだけど……そうじゃないんだよっ!」


 やっぱり火鳥(カタヨク)からアニカの声が聞こえてきた。というか普通に喋る声がアニカだ。

 〝そうじゃない〟って、なにが違うというんだ。


「浮気者ー!」

「痛たたたたたたっ、くちばしでつつくな!」


 キツツキじゃないんだからその連打は反則だろ。


火鳥(カタヨク)、お座り!」

「ワシは犬ではないぞ」

「痛っ、ならお前の主人をなだめておけ」

「ふむ、仕方ないのぉ。浮気は程々にの」

「痛いって! だから浮気じゃないっ! とにかくそのくちばしを引っ込めろっ!」


 まったく。

 浮気じゃないからな。

次回、やっと開通式を迎えられます

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