第66話 一難去ってまた一難
朝食を済ませ、また穴掘りを開始した。
ナームコの鉄人形? 荷物番で忙しいだろうから戦力として数えないことにした。
ただただ穴を掘り進める。天井が落ちてこないようにタイムが補強しながら、ただただ穴を掘り進める。
バケツがいっぱいになったら火鳥が上に持っていく。そして戻ってくるまで一時の休憩。
そんなことを昼まで続けてやっと終わりが見えた。人が通れるくらいまで穴を広げ、マスター土建は解散を……迎えられなかった。
「マジか……」
「またなの?!」
「そうみたいね」
穴の先は小部屋になっていたが、その先もまた土砂で埋まっていた。掘る方向を間違えたのか?
とにかく、穴掘りはまだ続くらしい。
「みんな、これを見てくれ」
「これ?」
「動物の足跡かしら」
「ああ。今まで動物の足跡なんてあったか?」
「んー、無かったかな」
「足跡からして犬か猫かしら」
「しかもかなり大型じゃないか? そんなのが足跡も残さず上から降りてこられると思うか」
「ううん」
「無理だと思うわ」
「例の足跡の持ち主がここでその大型生物とやり合って埋もれたのかな」
「でも争ったような跡に見えないよ」
確かに乱れたような跡は無い。
そしてその動物の足跡は埋もれている方に伸びていた。
「例の人物とこの動物が通った跡に埋もれたみたいだな」
部屋の壁に爪痕が残っている。もしかしたらこの大型動物が壁を壊して先に進んだのか?
「両方とも意図的に埋めたってことかな」
「かも知れない。しかしそんなことを考えたところで意味は無い。何故なら俺たちがやることは変わらないからだ」
「穴掘りね」
「そうだ」
「はぁ……シールドマシンでも使う?」
「シールドマシン?」
「確かモデルショップに……あった。これ」
モデルショップといえば幻燈機用のデータを扱っているところか。
なんか円筒状のゴツい機械だな。これが回転して穴を掘って、崩れる土石を抑えつつ、壁まできっちり仕上げてくれるのか。へぇー。
工期短縮工費節約安全第一……ね。
お値段は……
「却下」
「えー?!」
「高すぎるだろっ。大体こんなもの買うお金を持っていない!」
4桁万円ってなんだ!
3桁万円だって持っていないんだぞ。
「そんなこと無いよ。ちゃんとお財布が居るもの」
〝お財布が居る〟ってなんだ?
「ちょっと待ってて。脅してくるから」
「あっ、おい!」
言うが早いか消えてしまった。
お財布? 交渉? 何処へ行ったんだ……
とりあえず、腹が減ったな。
「昼にしようか」
「そうね」
「存じたのでございます。黒犬君、持ってくるのでございますっ」
「黒犬君?」
なんだろうと思っていると、階段を駆け下りてくる音が聞こえてきた。
「パパー!」
「ひっ!」
「な……んだこいつは」
「黒犬君でございます」
「いや、そういうことを聞いているんじゃなくてだな」
確かに見た目は大型の黒犬ではある。しかしその顔は紛れもなくナームコそのもの。これじゃ人面犬じゃなくて人頭犬だ。
そして背中には鈴ちゃんが乗って手を振っている。突っ込みたいところだが、その前に手を振り返しておこう。
「で? なんで頭がナームコなんだよ!」
「以前申しましたように、わたくしの世界では誰が製造したか一目で分かるように、鉄人形の顔は制作者の顔にする規則がございます」
そういえば1回聞いたことがあるな。だったら顔だけにしておけよ。なんで丸ごと……
「ですので、どんな鉄人形かに関わらず、わたくしが製造した鉄人形はわたくしの顔にしなければならないのでございます。どれだけ似せられるかも造形力の高さとして評価されるのでございます」
へー、そんな意味もあるのか。
「ここはナームコが居た世界じゃないんだぞ」
「それでも……なのでございます。ですが、許されるのでございましたら、是非とも兄様の顔の鉄人形を――」
「却下だ!」
「うう、悲しいのでございます」
そんな話はとりあえず横に置いておいて、朝作っておいたお弁当を、この人頭犬が持ってきたらしい。用意がいいな。
鈴ちゃんも一緒に食べるために連れてきたようだ。いい判断だ。
ということは、デイビーはぼっち飯か。いい判断……というのはちょっと意地悪か? といっても、誘ったところで来なさそうだけど。
次回、貴方は気にする? 気にしない?




