第62話 エイルは……
船から戻ると扉は閉まっていた。閉まったならまた開ければいい。タイム先生、お願いします。
ということで、扉は簡単に開いた。
「それじゃ行くぞ」
ドローンが先攻し、その後に俺と時子が入っていく。続けてナームコと鈴ちゃんが入り、デイビーが後を追って入ろうとした。
が、片足を扉から中に入れたら立ち止まり、中に入らず直ぐ出てしまった。
「船長」
「どうした」
「どうやら僕とアニカ様とフブキ様はこの先に進めそうにありません」
「ん? なにかあるのか」
「いえ、無いから行けそうにないので御座います」
「無いから行けそうにない? なにが無いんだ?」
「魔素です」
「魔素?」
「はい。簡単に申しますと、貴方方でいうところの酸素で御座います」
魔素って酸素だったのか?
「つまり呼吸が出来なくなる……と?」
「少し違いますが、その認識で問題御座いません」
それは困ったな。
「タイム、確か船内に宇宙服があったよな」
あれで魔素を供給させればなんとかならないか。
「んー、無理だと思う」
「無理かー」
となるとアトモス号で留守番?
いや、その前に。
「ってことは……だ。当然エイルも…………」
「あ……」
「そうね」
「帰るかー」
ここに居る意味は無い。希望はたった今絶たれた。
エイルは居ない。
「船長、それは――」
「分かっている。言ってみただけだ」
今までもそうだったからな。
それにデイビーの護衛という要らない役目まである。安全が確保できるまでデイビーから離れられない。
「マスター、多分なんとかなると思う」
「なにがだ?」
エイルが居ないと分かった今、なにがなんとかなると言うんだ?
「ほら、タイムは毒素を侵入させず、魔素を留まらせることが出来るでしょ」
あー、エイルと一緒に開発したとかいうアレか。
前回はそれでデイビーを――いや今もか――包んでいるあの薄膜のことだな。
「少し調整すればなんとかなると思う」
「でも長くは持たないだろ」
「酸素ならね。でも魔素は違うの。そこにあればいいだけだから」
あればいい? なんにしても制限時間のようなものが無いのならいっか。
「ならフブキとアニカはルイエと一緒にアトモス号で留守番だ」
「わふん?!」
「ええええええええええええええええ?!」
「仕方ないだろ。2人には薄膜が――」
「付けられるよ」
付けられるのか。
「万が一薄膜が機能しなくなったら窒息するかも知れないんだ。そんなところに連れて行けない」
「わうっ」
「分かってるよ」
「ダメだ! デイビーはともかく、2人にそんな危険なところへ行くことは許可できない。留守番は決定事項だ」
「わうぅ……」
「そんな……あ、じゃあ火鳥だけでも連れて行ってよ」
「火鳥?」
「火鳥なら魔素が無くても関係ないから。そうだよね?」
いつ来たのか、アニカの肩には火鳥が止まっていた。
「ふむ。確かにそうだの」
それは火鳥以外は魔素が無いとダメってことか?
「分かった。火鳥、よろしくな」
「ふぉっふぉ。アニカ様の命とあらば、仕方ないのぉ」
「命令じゃなくてお願いだよぉ」
「そこは黙っておくべきじゃのぉ。ワシが命と思っておれば振るえる力も大きくなったとゆうに……はぁ」
「ご、ごめん」
「ま、アニカ様らしゅうとゆうものかの」
火鳥がアニカのことを〝アニカ様〟って呼んでいるってことは、本契約もまだできていないってことかな。
「モナカ様。力は制限されるがこの老骨、朽ちるまで使ってくだされ」
朽ちるまでって……いいのかアニカ。
「ボクだと思って命令してよ」
「アニカは命令できないのにそういうことは言えるんだな」
「う……意地悪」
「ははっ、冗談だ。分かった。火鳥、よろしく」
「はっ」
火鳥はその名のとおり、右翼に右足の火の鳥だ。でも頭と身体は普通なんだよね。そんな身体なのに普通に羽ばたいてフラつくことなく普通に空を飛び、俺の肩に止まった。
火の鳥だからといって別に熱くはない。髪が燃えるとかもない。敵意が無いからかな。イフリータがそんなことを言っていた気がする。
そんなわけで俺の両肩にはタイムと火鳥が居ることとなった。
でもそうだな。だったら鈴ちゃんも留守番でいいかも。
「パパ?」
う、心でも読まれたのか。泣きそうな顔で俺を見つめてきた。
「怖いんだったら手を繋いでやろうか?」
きっと扉の先の暗闇が怖いんだ。絶対そうだ。
「んーん、平気だよ」
あ、ちょっとホッとした顔になった。
留守番は無しかー。
次回、エイルの爪痕




