第59話 話すことなんてないわ
女ってどうしてこんな面倒くさいことをするのかしら。理解できないわ。
そもそも洗顔するだけで十分なはずよ。化粧なんてするから落とす手間が発生したり、肌が荒れたりするのよ。
化粧なんて男の気を引きたい女がやればいいのよ。
私には必要ないわ。
大体動物は雌より雄の方が派手で綺麗なものよ。なんで人間は雄より雌の方が着飾らなきゃいけないのよっ。
「男に生まれたかった? こんな立派なもの持っててなに言ってんのよ!」
「ひゃん! こ、ことある毎に、やっ、触らないでよ。っっっっバカッ!」
「痛たたたたたたっ、つねるの反対!」
「つねられたくなかったら他人の胸を揉まないこと、ね!」
最後に思いっきり捻ってやった。
「痛ぁい! だって私は揉めるほど無いもの。うー、痕が残ったらどうするのよ」
「なら諦めなさい。私はそっちの趣味無いの」
「私だって無いわよ!」
「ふっ、痕を見る度に他人の胸を揉むとこうなると思い出しなさい」
「むむむ、イヤな思い出」
無いなら止めてほしいわ。あったら尚更止めさせるけど。
「でも貴方の胸を思い出せるなら、それもアリかしら」
「止めてよ気持ち悪い!」
真顔で爪痕を見ながら、ワキワキと指を動かすのを止めて。寒気が襲ってくるわ。
「ふへっ」
ひいっ! なにそのいやらしい笑い。なにを想像したの! ああ考えたくもないっ。
「私は本を読んでいるから構わないで。貴方は眠くなったら勝手に寝て頂戴」
「えー、お話しようよ」
「必要無いわ」
「ここ、私の部屋」
「お客様のご要望にお応えするのが旅館としての役目でしょ」
「……リョカン?」
え、もしかして旅館が無いの?
確かに旅の宿なんて必要なさそうだけど、連れ込み宿はあるんでしょ。旅館も用意しておきなさいよ。
「とにかく、私に構わないで」
「えー。もう。じゃあ貴方が気を引きそうな面白い情報を仕入れたけど、話してあーげないっ」
「別に構わないわ。自分で見つけられるから」
データセンターに潜り込めば簡単だもの。
「あーん。話してあげるから無ー視ーしーなーいーでー」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ。聞いてあげるから身体を揺らさないで」
父さんより厄介だわ。
こんな子だったかしら。
もっと私のことを警戒していたような気がするのだけど。
「溜息が長い……」
「あ?」
「いえ、なんでもありません。でも、胸を揉まなかっただけ偉いと思わない?」
「思わない。はい、聞いてあげたから解散」
サッと背を向けてまた本を――
「しないわよ。まーだーはーなーしーてーなーいーっ!」
「分かったから揺らすなっっ!」
「ふふっ、はぁーい」
全く……つまらなかったら速攻切り上げてやるんだから。
「それで、一体なんんのよ」
「まぁまぁ、そう急かさないで。夜は長いんだから」
「話すつもりがないなら解散するわよ」
「もー、つれないわね。分かったよ。あのね、今日面白い物が発見されたんだって」
父さんもそんなこと言っていたわね。
「もしかして技術開発局に持ち込まれた物かしら」
「…………なんで知ってるのよ」
やっぱり同じ物なのね。
「はぁー、折角那夜が興味持ちそうだと思って調べたのにぃ。つーまーんーなーいー」
「分かった、聞いてあげるから身体を揺らさないで」
直ぐ物理的に訴えるのは止めてほしいわ。
……まさか味を占めたんじゃないでしょうね。
「えー、知ってるんでしょー。話しても〝もう知ってる〟しか返ってこないじゃんー」
っとに。面倒くさい子になったわね。
「安心して。持ち込まれたってことしか知らないわ。だから詳しいことは知らないの」
「ホント?! じゃあ話すからお話ししよう!」
父さんが〝面白い物〟と言うほどだ。この女が正しい情報を持ってきていたならかなり有用な情報だろう。
少しは役に立つかも知れない。
エイルのお話は一旦お休み
次回からはモナカたちです