第57話 金持ちの道楽
結局女は空腹に耐えられず、私が作ってくれないと漸く理解してから食堂へ食べに行った。
五月蠅いのが居なくなったし、本でも読んでいましょう。
もう1人五月蠅いのが居るはずなのだが、何故か静かなので助かっている。
それが逆に心を落ち着かせないのだろうか。妙に心がザワついている。
本に集中できない。
それでも明日の下調べだけでもしておかないと。
「明日の下調べか?」
父さんの閉ざされた口が漸く開いた。さっきまでの甘えた様子はない。
「ええ」
「そうか。そこには今日面白いものが持ち込まれたようだ」
「面白い物?」
「ああ。那夜も絶対欲しがるぞ」
「盗らないわよ」
「どうせ浄化したあと漁るつもりなんだろ。早いか遅いかの違いだ」
「そうだけど」
「浄化で壊れるかも知れないが……いいのか?」
それはよくないわね。
「そうね。歴史的遺産は正しく保存・保管しておかないといけないわ」
「ふっ。そうだな。きちんと管理してあげなさい」
盗掘は許されないけど、発掘なら許されるんだもの。問題は無いわ。
「ただいま……」
食堂に行っていた女が帰ってきた。
お腹が膨れたはずなのに満足した様子が見られない。
「お帰りなさい」
さて、続き続きっと。
「天上では誰でもさっきみたいなことが出来るの?」
「やろうと思えば貴方でも出来るでしょ」
「無理よ」
「どうして? ここは天上より魔科学が発達しているのよ。出来ないなんてことなんてないはずよ」
前世でも似たようなことは出来ていた。ここで出来ないはずがない。
「幾ら魔科学が発達していても無理よ」
「どうしてそう思うの?」
「ここに越してきた頃、私も挑戦してみたわ。でも惨敗。早々に諦めたわ」
「諦めたから出来ないままなのよ」
「だって食材だってタダじゃないのよ。お金を無駄にするだけだわ」
「……食材?」
「配給はタダだけど、食材はお金が掛かるのよ。しかもかなり高いの。同じ量を食べるなら出来合いを買った方が遙かに安いの」
「貴方、なにを言っているの?」
「なにって、お料理のことに決まってるでしょ!」
お料理?!
あーそっちか。それで道具は揃っていたけど使った様子が殆ど見られなかったのね。
「母さんに教わったのよ」
「お母さんに?」
「貴方は教わらなかったの?」
「母も料理なんてしないわ。むしろ私が料理しようとしたのを止めたくらいよ。そして母は正しかった。料理なんて金持ちの道楽。庶民がするもんじゃないってね」
料理が金持ちの道楽とは……凄いところね。普通は貧乏人こそ料理をして節約するものだけど。
外食こそ金持ちの道楽よ。手間と時間をお金で買っているんだから。
「仕方がないんじゃない? 生まれた環境は人それぞれ。その中で生活するしかないんだから」
「そうかも知れないけど、納得できないよっ。お料理だけじゃない。あれだけのものを5分足らずで作ってしまうのよ。私なんか1時間掛かっても作れなかったわ。それに熱源が無いのにフライパンが熱々だったし、お皿なんて空を飛んでたし。天上ではそれが当たり前なのね」
さすがに5分では無理よ。かなり強引な手を使ったからこその結果、普通に作れば1時間コースね。と正直に話す必要も無い。
「そうね」
「いいな……ねぇ、私を天上に連れて行ってくれない?」
「無理よ」
「どうして!」
「毒素に耐性の無い貴方では直ぐに死んでしまうわ」
「毒素? それが天上を汚染していて私たちをここに閉じ込めているの?」
「そう理解してもらって問題ないわ」
実際に閉じ込めている原因は魔素でしょうけど。
「そう……那夜は耐性があるのね」
「貴方よりはあるってだけよ。汚染されれば身体に変化が出るし、最悪死ぬわ」
「そう……なんだ」
「天上に行きたかったから私を連れ込んだの?」
「それは違うわ。ただ、お料理をしている那夜を見ていたら興味が沸いたのよ」
「っそ」
こんな片手間料理で気を引くなんて思わなかったわ。
次回、男もするようになったよなー




