表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/193

第54話 嘘だけど

 あーダメだ。忘れようとしてもあの光景が脳裏に直ぐ浮かび上がってしまう。


「どうした。気分でも悪いのか」

「ここ女湯! 出てこないでっ」

那夜(なよ)? どうかしたの」

「なんでもないわ。えっと……虫が! 出ただけよ」

「えっ虫!!」

「大丈夫大丈夫。もう潰したわ」

「潰した?! 虫、平気なんだ……凄いなぁ」

「もう! 虫なんかより」

「わ、私だって詳しくは……ほ、本人に聞いたら?」


 は?! 私に振らないでよ。


「本人……」

「それもそうね。ね!」


 〝そうね〟じゃないわよっ。


「ちょっと、()めなよ」


 よしよし。頑張って引き留めておくのよ。

 私の安らぎは貴方の肩に掛かっているんだから。


「えー、友子だって気になるでしょ」

「ならないわよっ」


 友子、その調子よ。


「助けてやらないのか?」


 このスケベ親父!


「父さんとの大切な時間を割いていいのなら、助けてあげなくもないわ」

「そうか……なら放っておこう」


 でしょうね。


「分かっていると思うけど」

「視覚は共有してない!」

「……ふっ。信じてあげる」

「娘の信頼は裏切らないようにする」

「そこは〝裏切らない〟って断言しなさいよ」

「………………」


 しないんだ。


「まったく。母さんが知ったら悲しむだろうな」

「母さんには内緒にしといてくれ!」

「あれ。私口に出して言っていた?」

「言ってた言ってた」


 温まったから思わず出てしまったのかしら。


「内緒にしてほしかったら覗きは止める事ね」

那夜(なよ)以外眼中に無いから安心してくれ」

「私も眼中から外しなさいよ」

「親にとって娘の成長は」

「聞き飽きた」

那夜(なよ)ー」

「情けない声出さないの。まったく。大体娘の成長ならあの地下都市で見たでしょ」

「あれはデニスの娘の成長だ。父さんの娘の成長じゃない」

「散々見て触った挙げ句、他人の娘だっていうの?!」

「違う! たとえ転生していても父さんの娘であることに違いはない」

「なら満足しておきなさいよ」

那夜(なよ)ー」

「泣くな。みっともない。もういいでしょ。出るわよ」

「えーもう少しー」

「我が侭言わない」


 父さんってこんな性格だったの?

 もっと研究に没頭して周りが見えなくて自分勝手だと思っていたわ。


「出るの?」

「ええ。貴方はゆっくりしてていいわよ」

「そういうわけにもいかないでしょ」

「ねぇねぇ、貴方って妾の――」

「やめなよ」

「えー、知りたいじゃない」


 まったく、なにが面白いんだか。


「養子よ」

「え?」

「養子?」

「そ。ただの養子」

「ほっ、よかった」

「チェ、つまんないの」


 あんたを楽しませる為の設定じゃないの。

 さっさと着替えて部屋に行きましょう。


「あっ、待ってよ。私、上がるね」

「うん、おやすみー」

「あとで詳しく聞かせてね」

「アニ子、いい加減にしな」

「略すな!」

「アニ子って言われたくなかったらそっとしておいてあげましょ」

「むぅ」


 やっぱり友子は人の心が分かる良い子なのね。

 私の味方は友子だけよ。


 身体を拭いてササッと着替える。

 これ以上絡まれないようにさっさと女の部屋に行きましょう。


「あっ、待ってよ! あーもう」


 女が騒がしいけど無視無視。

 まずはエレベーターに乗って。


「だから待ちなさいって言ってるでしょ!」


 エレベーターを待っていたら、女に腕を引っ張られて向き合わさせられてしまった。

 乱暴ね。なんなのよ。


「あんた髪乾かしてないでしょ」

「ちゃんと拭いたし、もう乾いているわ」

「嘘言わない。あんな短時間に……」


 濡れていると思い込んでいるのか、私の髪を触って確かめてきたが、直ぐに反論を止めてしまった。


「嘘。もう乾いてる……私なんて水が滴ってるくらいなのに」

「だから言ったでしょ。ああ、でも貴方が濡れた手で触ったから濡れてしまったわ。もう、また乾かさなきゃ」


 私が軽く頭を2度振るうと、再び乾いた髪が戻ってきた。

 と同時にエレベーターの扉も開いた。


「ほら、行くわよ。ついでに貴方の髪も乾かしてあげる」


 そう言って女の髪に触れて軽くクシャクシャっとして乾かした。


「え?!」

「ほら。呆けてないでさっさと乗りなさい」


 そして私は5階のボタンを押した。


「あ、うん。あれ、私部屋が5階って教えたっけ」

「あの男に聞いたのよ」

「……そう」


 嘘だけど。そんなの調べれば簡単に分かるわ。

 ここって全体的にセキュリティが甘いから簡単なんだもの。逆にそれがトラップなんじゃないかって疑いたいくらいよ。


「知ってたんだ」

「ええ。505号室でしょ」

「……そうよ」


 5階についてエレベーターから降りる。

 先に歩く私の後を女が付いてくる。

 部屋の扉を開けて中に――


「えっ?! 鍵掛かってなかった? 掛け忘れたのかな」

「掛かってたわよ。私が今開けたの」

「ええっ?!」

「いいからさっさと入りなさい」

「あ、はい。おじゃまします」


 あんたの部屋でしょ!

次回、作りは変わらなくても

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ