第53話 若い身体
寮母室の小さなお風呂場と違い、さすが大人数が一度に入れる湯船だ。かなり広いわ。
それはいいのだけれど……
「なんなのよ」
服を脱ぐときから身体を洗っている今でも、女はジッと私の身体を見ている。
同性とはいえさすがに気持ちのいいものではない。
「これ、要らないのなら頂戴!」
「きゃあ!」
いきなり鷲掴みにされた!
「しつこいわね。あげないわよ」
「まったく、どうすればこんなに育つのよっ。このっ、このっ」
「やっやめなさっ」
こねくり回すなっ!
くっ、若い身体は反応がいいわね。やめっ……イヤッ。
「やっぱり、こういうことされると大きくなるのかしら。一体誰に育ててもらったのよ!」
「そんなわけっ……ないでしょ……やっ」
「拾十? 拾十なのね!」
「いい加減にしてっ!」
「きゃあ! 痛たたたた」
椅子から落ちて尻餅をつくくらい、思いっきり突き飛ばしてやったわ。
なにを考えているのかしら。
「昨日今日で育つわけないでしょ」
「揉まれたことは否定しないのね」
「揉ませるわけないでしょ」
「秘密をバラされたくなかったらって迫られたんでしょ」
「されてないわよ」
「嘘だ! こんなおっぱいと一緒に居て勃たなかったら男じゃないでしょ!」
「きゃっ」
また掴まれた!!
「私はおっぱいじゃないっ!」
「痛いっ」
懲りない女ね。
さすがに二度も突き飛ばせば止めるでしょ。
「つまりあの男はそういう軽薄な男だと言いたいのね」
「拾十がそんなことするわけ……私って魅力ないのかなぁ」
いきなりなにを言い出すのよ。
「ふんっ。若くて魅力のある私に手を出してこないヘタレなんだから、若くもない魅力に乏しい貴方に――」
「まだ若いわよっ!」
「――手を出さないのは当たり前じゃないかしら」
魅力に乏しいことは否定しないのね。
ま、自慢じゃないけど、魅力的な部分をグイッと突き出して見せつけてやる。
こんなもの無くても手を出すヤツは居るし、検体みたいに触らせても手を出さないヘタレだっているんだから……はぁ。
…………って! これじゃまるで手を出してほしかったみたいじゃない!
これは……あれよ。父さんが変なことを言うから……なんだからねっ。
「うう……」
恨めしそうに物欲しげに魅力的な部分を見つめても、あげないわよ。
「どうして私のは育たなかったんだろう」
私のは諦めたのか、今度は自分のを揉みしだいている。
「しかも貴方より感度が悪いみたい」
「なんの話よっ!」
「だってほら」
「やっ、あっ」
「掴んだだけでこんな艶っぽい声出しちゃってさ。私なんてなにも感じな痛たぁい!」
「殴るわよっ。はぁ、はぁ、はぁ」
あーもう! 心とは裏腹に身体が勝手に反応してしまう。勘弁してよぉ。
「もう殴った!」
「ふんっ。自分で触っているからでしょ。他の人に触ってもらいなさい」
「他の人?」
「そうよ」
自分で触って毎回あれじゃ、身体なんて洗えないじゃない。
「他の人……」
「な、なによ」
どうしてそこで私の顔を食い入るように見つめるのかしら。
そう思ったら今度は「他の人!」と言いながら私を指さしてきた。
「あの男に触ってもらいなさいっ」
「那夜がいい」
甘えた声で名前で呼ぶなっ。
「そのおっぱいに肖りたいのよ」
「肖るな!」
もう構っていられない。
まだ頭を洗っていないけれど、この女の前に魅力的な部分を無防備に曝すくらいなら、一日くらい我慢するわ。さっさと湯船に浸かりましょう。
「あっ、おっぱいが逃げる!」
「だから私はおっぱいじゃないっ!」
「待って!」
「待たないっ」
普段は絶対にやらないけれど、湯船にザブンと飛び込んだ。
「きゃあ!」
「わぷっ」
「ひゃあ」
「ごめんなさーい。文句はあの女に言って!」
「あっ。奈慈美! なんなのあの子?」
「初めて見る子よね。新しく入った子?」
「あー違くて。拾十の……幼馴染みの妹なのよ」
「それって男子寮の五十三さんだっけ」
「へー、妹さん居たんだ」
「らしいわ」
「〝らしい〟って。幼馴染みなんでしょ」
「私も最近知ったの」
「もしかしてもしかして!」
「えっ、それって……」
「隠し子ってこと?!」
「なんじゃないの?」
とんでもないこと吹き込んでいるわね。
「きゃーー。詳しく詳しく!」
「うわ……酷い父親ね」
反応が両極端ね。
「またそうやって直ぐ首を突っ込む」
「だって気になるじゃない。友子は真面目すぎるのよ」
「不倫なんて不潔よ」
「許されない愛。背徳感が支配する恍惚の瞬間。だからこそ燃え上がるのよ」
「はぁー、理解できないわ」
「理解するんじゃないの。感じるのよ!」
「そんなこと力説されても共感できないわ」
「えー?!」
くっだらない話で盛り上がっているわね。
お陰で1人ノンビリ浸かることが出来るわ。
ふー、四肢を伸ばしてゆったり入れるなんて前世以来かしら。それもいつの頃だったか忘れるくらいには昔よ。
……あの子たちも、ああやってじゃれ合っていてもいずれは……あの中に……
次回、事実は要らない




