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第51話 目に見えない

 こんな地下での発電だ。まず風力と太陽光は無い。

 海も無いから波力も無い。

 ダムも無いでしょうから水力も無いわね。

 火を使うこと自体が禁忌とされているらしいから火力も無い。人類は火を手に入れて進化したのに、ここはその逆で火を手放して進化したのよね。

 地下だから地熱はありそうだけど、昔と比べて星が冷えてきているらしい。

 研究結果では外核やマントルの対流が阻害されているからと簡単に書かれていた。これも性質の異なる星を半分ずつ無理矢理くっつけた結果だろう。

 それを押さえ込み、以前と変わらぬ環境を保たせている守人には感謝しかない……のだけれど。

 それでも地熱発電に大きな影響が出るような冷え込みは、たかが5千年程度では起きなかった。単純に発電力不足だから使われていないだけ。

 となると原子炉という選択肢が出てくる。

 しかし原子炉は放射能という危険が伴っている。この狭い空間で万が一があれば逃げ場がない。更にいうなら燃料となるウランやプルトニウムも有限の資源。今の今まで活用できるものではない。

 私たちの世界では核分裂ではなく水素を使った核融合発電が主流。その先は理論だけで実現できなかった。

 ところがここではそんな理論をすっ飛ばした発電方法を用いている……らしい。それが断弦発電。

 この世界は極小の超弦(ひも)で出来ているという。いわゆる超弦理論だ。

 超弦は閉じている状態と開いている状態の2種類がある。その閉じている状態の超弦を切断するときに発生するエネルギーを回収するのが断弦エンジンで、それを利用して発電するのが断弦発電だ。しかも切断した超弦はいずれ元の状態に戻る。つまり半永久的に利用できるという。

 といったことが書かれた論文を読んだ。

 これが事実ならこの世界は紐でできていると証明されたことになる。前世では結局証明されなかった超弦理論。実に興味深い話だ。

 さっきのダメージを回復するにはうってつけの場所でしょう。


 発電所はあの2人の勤める会社と壁1枚を挟んで隣接している。

 発電所の癖に送電線が見当たらない。地下ケーブル化しているのかしら。そういえば町中に電柱が1本も見当たらなかったわね。

 えーと……あった。送電の無線化に関する論文を読んでみる。

 ふむふむ、量子送電といって、簡単にいうと量子もつれを利用すれば送電できるという理論。電子も量子の一種なんだからということを利用したかなりの暴論っぽく感じるけど、ついでに通信も行えるという説も展開されていた。

 これによって送電だけでなく通信に必要なケーブルを無くすことが出来る。そして送電ロスを考えなくて済むから少ない発電量でも全てを賄える。通信も信号減衰を気にせず済むから中継基地も要らない。

 それを実現させたのね。凄い。


 再びゲートを通り、守衛さんに挨拶を交わす。

 今回の守衛さんは落ち着いているな。慌てる様子がない。そしてやはり1人付いてくる。そこは変わらないのね。

 まずは送電しているところ。

 うーん。量子の大きさが大きさだから、なにが起きているのか見ることができない。この装置で送電……しているのよね。業務用の大きな冷蔵庫ほどの大きさしかないんだけど。

 これで通信も? でも電気なら発電所と量子もつれ状態にすればいいけれど、通信は相手が変わる。やっぱり集線局が必要なのかしら。

 そういえば地図には通信局があったわね。そこにあるのかしら。後で行ってみましょう。


 次は発電機ね。

 ………………やっぱり現象そのものは目に見えるような大きさじゃない。

 水力のような迫力も、波力のような潮の匂いも、風力のような回転体も、地熱のような温泉も、火力のような暑苦しさもない。

 原発でさえタービンを回す音がしているというのに、断弦発電は完全な無音。

 熱を発して水を湧かし、水蒸気でタービンを回すのではなく、エネルギーを直接電気に変換している……と論文に書いてあった。

 既存の発電は形が違ってもモーターを回して発電する形は何一つ変わらない。なのにモーターを回さず発電している。だから動作音がない。摩擦ロスがない。回転体の損耗がない。

 静かなわけだ。見た目が地味なわけだ。それでいて役目をきちんと果たしている。

 そういう意味では太陽光発電に近いものがある。天候に左右されない分優位性もある。

 でもこういうのは実験室を見た方が面白かったわね。

 見学者用の映像もあったけど、簡略化されすぎていて物足りない。まさか閉じた弦を切るのにハサミを使うとは思わなかったわ。イメージとしてはそうでしょうけど、そのハサミの仕組みを知りたいのよ。後で論文を探しましょう。

 なので全体的にちょっと期待外れ。

 となると、通信局も同じようなものかしら。技術開発局に行った方が面白そうね。

 今からだと時間的に中途半端になりそう。しっかり見たいから明日にしましょう。

 残りの時間は寮母室で本でも読みながら男の帰りを待ちましょう。

 ふっ、まさか私が男の帰りを待つなんて事になるとは思ってもみなかったわ。

 もっとも、幾ら待ってもあの検体(バカ)は帰ってこないのだけれど。

 はぁー……私も未練がましいわね。イヤになるわ。

次回、紙の上の関係

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