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携帯は魔法杖より便利です 第6部 古の都  作者: 武部恵☆美
第1章 それぞれの半年
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第5話 唯一無二

 鈴ちゃんの代わりなんて居ない。

 それを分からせられないかとナームコに頼んだら、ワビーさんを連れてアトモス号の動力部の方へ入っていった。

 俺と時子はブリッジに降りて鈴ちゃんの様子を見ている。

 大分顔色がよくなったように思うけど、どうなんだろう。

 ナームコが言うには通常航行なら問題は無いって話なんだけど、だからって良いとは思わない。

 こんな小さな子に無理なんてさせられないし、そもそもまだ身体が出来上がっていないうちから無理なんてさせられない。

 水槽に浮かぶ鈴ちゃんが目を覚ました。

 起こしてしまったかな。

 いつものようにニコッと笑っている。

 でもその顔は少し歪んでいる。

 「無理に笑わなくてもいい」なんて言おうものなら、要らない子判定に引っかかってしまう。

 ただ黙って苦しそうな笑顔を見守ることしか出来ない。

 笑い返すともっと元気よく苦しそうに笑うからだ。

 身体の負担にしかならない。


『兄様、終わりましたわ』

『分かった。今行く』


 鈴ちゃんに手を振って別れを告げる。

 寂しそうな顔をして、辛い身体にむち打って手を振り返してくれる。

 いつもそうだ。

 なら会いに来なければいい。

 そう思うけれど、それはそれで治りが遅くなるから会いに来てほしいとナームコが言う。

 そう言われたら会いに来ないわけにもいかない。

 会いに来なければそれはそれで要らない子判定になるってことなんだろう。

 難しいな。


 外に出ると呆然としているワビーさんが居た。

 目を見開き、ブツブツとなにかを呟いている。


「なにを見せたんだ?」

「アトモス号の起動に必要な魔圧と魔流、そして消費魔力量と制御周波数でございます」

「魔圧?」

「電圧と電流のようなものでございます」


 つまり、ワビーさんが想定していた要求を上回っていたということか。


「ワビーさんだって船に乗ってきたんだろ。そこまで違うものか?」

「専用機と量産機という違いがございます。それに加えて整備士としての技量が違いすぎたのでございます」


 専用機?! アトモス号が鈴ちゃん専用機。

 ……たまたま選んだのが専用機だったのか?


「俺の腕が悪いってのか!」

「異世界の技術は誰でも難しいのでございます」

「お前たちにとっても異世界の船だろうがっ」

「わたくしにとってはそうでございます」


 それはエイルにとって異世界の技術じゃないとでもいうのか。

 そういえばエイルもアニカと同じ転生者だったっけ。


「なあ、鈴を量産機に乗せれば負担が軽くなるんじゃないのか?」

「スズ様の出力に耐えきれず自壊するのでございます」


 出力を抑えるのは難しいようだ。

 となればやはり待たせるか諦めてもらうしかない。


「とにかく、今すぐなんて無理なのは分かっただろ。諦めろ」

〝パパ、11260いちまんいっせんにひゃくりょくじゅう号は大丈夫だよ〟


 鈴の声が船外スピーカーから聞こえてきた。

 まさか話を聞いていたのか。

 これじゃ断れなくなったぞ。

 断ったら〝鈴は戦力外〟からの〝鈴は要らない子〟という流れが出来てしまった。

 無理だと分からせるために来たことが仇になったか。


『兄様、移動だけでしたらスズ様の負担は軽微なのでございます。加えてワビー様の乗っていらした船に合わせる程度ならば、リハビリにもなるのでございます』


 リハビリか。

 散歩と考えるならそれもアリか?


「分かった。鈴、急ぎじゃないから休み休みでいいからな」

「ふん、最初からそうしていろ」


 こいつは……

 仕方ない。予定より早いけどデイビーを迎えに行くか。

次回、詠唱破棄は時代遅れ

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