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第46話 介護はしないと言ったはずよ

 さて、この女はなんの話がしたいのかしら。


「お客様、お酒をお持ちしました」

「待ってました! 入って入って」


 居酒屋じゃないのよ。雰囲気が台無しじゃない。


「失礼します」


 襖を開けて店員が腰を低くして入ってくる。


米酒(まいしゅ)でございます」

「あれ、おちょこ1つだけ?」


 私は飲まないって言ったでしょ。


「すみません。未成年者へのお酒の提供は致しておりません。ご了承ください」


 へぇ、ちゃんとしている良いお店じゃない。というか、年齢確認済みなのね。


「チェーッ」

「失礼しました。お料理の方は少々お待ちください」

「はぁーい」


 店員が出ていくと、女がチビチビお酒を飲み始めた。

 ふむ、今のところご飯を奢れとしか言われていないけど……

 料理が来るまで暇だし、また本でも読んでいましょうか。

 ………………

 …………

 ……


「お客様、料理をお持ちしました」

「はぁい。どうぞー」

「…………」

「こちら、肉うどん、山賊焼き、胡瓜の浅漬けでございます」

「あはっ、来た来た来た。これこれ」

「こちら、筍ご飯、豚汁、大根の沢庵、お刺身盛り合わせでございます」

「………………」

「……それでは、ごゆっくりお寛ぎください。失礼しました」


 クンクン、良い匂いが漂ってきたわね。

 あ、いつの間にか配膳されているわ。どうやって出てきたのかしら。見逃したわ。

 女は肉うどんを啜って汁を飛ばしている。ちょっと、こっちに飛ばしてきていないでしょうね。


「いただきます」

「ん、はにほれ」


 食べながら喋るな!


「食材と作ってくれた人への感謝だそうよ」

「ふーん。ひはばひまふ」


 真似るなら飲み込んでから真似なさいよ。しかもお箸を持ったまま手を合わせて……はぁ。

 気を取り直して食べましょうか。

 手始めに豚汁から。んー、懐かしいわ。

 まずは大根。柔らかくて味が染みこんでいる。噛まなくても簡単に崩れるわ。

 これは人参ね。ほどよい噛み応えが残っているわ。

 牛蒡(ごぼう)だ。やっぱり硬さがあるわね。さすが根っこ。ちょっと苦手よ。

 里芋のヌメヌメが箸を滑らせるわ。掴みづらい。かといって刺せないから苦労するの。美味しいんだけど、そこが欠点よね。

 そしてこのクタクタになった長葱。噛むと内側の葱がニュルンと飛び出してきて面白いの。

 後はこの形を無くした玉葱くらいかしら。

 では主役の豚肉を…………んー、ネズミ肉も悪くないけど、やっぱり豚肉は格別ね。臭みが全く無いわ。そしてこの脂身! ネズミ肉には殆ど脂身が無いのよね。

 やっぱり具だくさんって良いわぁ。

 次は筍ご飯。白米とは違う出汁で炊かれたご飯だ。筍にも染みこんでいるわ。このご飯の柔らかさの中に筍のちょっとした抵抗があるのよね。いいわぁ。

 そしてこの沢庵のシッカリとした食感がいい。箸休めにはピッタリね。

 さて、お茶を飲んで口の中を洗い流したら、いよいよお・刺・身!

 赤身はマグロかな。白身は鯛かしら。というか、海なんて無いから川魚? それとも養殖? うーん。

 ま、食べてみれば分かる……かな。

 ………………うん、食べてみても分からない。

 考えてみれば私の舌はそこまで肥えていないわ。

 所詮活動エネルギーを摂取するために食事をするだけだった期間が長かったからね。

 今でもそうなんだけど。

 だから今日は新鮮な気分。

 よし、変なことは考えずにたまには素直に食事を楽しみましょう。


「お客様、お酒をお持ちしました」


 …………なんですって?

 まさか!


「あはっ、ようこそいらっしゃいました。ささ、どうぞどうぞ」


 ……なにその態度。って、顔が真っ赤じゃない!

 なにがこのくらいじゃ酔わないよ、よ。シッカリ酔っ払っているじゃない! だから酒飲みはイヤなのよ。飲まれるなら飲むな!

 ……食べ終わったら放っておいて先に帰ろう。というか、ここには本当に食事が目的だったみたいね。こんな状態じゃなんの話も出来ないわ。最も、するような話はなにもないけど。


「んあ? 那夜(なよ)ちゃん、何処(ろこ)行きゅの? うぇーぃ」


 ろれつも回らなくなっているわね。


「オシッコよ」

「くらぁ! 女の子がオヒッコとか言わにゃいの! ひっく。お小水(ひょうすい)って言いにゃさい」


 それもどうかと思うわよ。


「お花を摘んでくるわ」

「うー? ここにお花畑(ひゃにゃばたへ)なんてあっひゃっく、かひるぁ」


 ……もういいわ。放っとこう。


「んー? ろうひて荷物(にもちゅ)を持ってくろ?」

「着替えたくなったのよ」

「あはー、見はい見はい。着替えてくうのだーっはっはっは! ひっく、うぃーっへへへへ」


 完全に悪酔いしているわね。グデグデじゃない。

 部屋を出てトイレに……は向かわずお会計をしに行く。


「お会計お願いします」

「畏まりました」

「それから、この後追加注文があったらあの女が支払いますので、よろしくお願いします」

「畏まりました。お会計1万4160ベルでございます」

「はい」


 ……そういえば支払いってどうやるの?

 あ、伝票に[支払いに同意]のボタンがあるわ。これを押せばいいのね。ま、指で押さなくても押せるけど。

 これでよしっと。


「ありがとうございました。またのご来店をお待ちしております」

「ええ、美味しかったわ。ありがとう」


 もう二度と来ることは無いでしょうけど。

次回、それを胸にしまわないで

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