第42話 犬も食わない
「さ、お店に移動するからリンクしましょう。私が親でいいわよね」
「ああ」
「リンク?」
「拾十、教えてないの?」
「あー、個別設定させてたから」
「しょうがないわね。2人以上で行動するときは、お互いにリンクさせておけば団体行動が取れるようになるの。ポータルなら1人が設定するだけで同じところに飛べるようになったり、食事なら会計を纏めたり割り勘にしたりって具合」
つまりRPGのパーティみたいなものか。
「お互いに位置が分かるからはぐれることもまずないしね」
何故そこだけニヤけ顔で強調して言うのかな。私ははぐれるつもりなんて……ないわよ。
「今要請出すから許可して」
ウインドウが浮かび上がり、そこには[後登海奈慈美からリンク要請が来ました。許可しますか]と表示されていた。
この後登海奈慈美っていうのがこの女の名前なのかな。
どうでもいいか。どうせあと数日の付き合いなんだし。
どうせ、2人ともこの世界から居なくなるんだし……名前なんか覚える必要も……
別に寂しくなんか……
「どうしたの? 早く許可して」
「あ……」
つまんないことは考えるな。
[許可]っと。
「これでいいの?」
「ええ。アンリンクも簡単にできるから」
アンリンク……ああ、これね。って、禁止マーク?!
「もっとも、今は禁止してるけど。っふふふふふふ」
くっ、してやられたわ。女の勝ち誇ったような顔がムカつく!
きっと親の権限で禁止しているのね。小賢しい。
「……安心して。大人しくしていれば悪いようにはしないわ」
「……信用しろってこと?」
「……信じさせてってこと」
「なにコソコソしてるんだ?」
「なんでもない」
「なんでもないよ!」
「そうか。随分と仲良くなったんだな」
なってないわよ。むしろ逆。だからそんな寂しそうな顔はしなくていいの。むしろ熨斗付けてお返ししたいくらいよ。
「そう! 私たち仲良しなの。ね」
なに言ってんのこの女! 肩を抱き寄せ顔をくっつけ、仲良しアピールなんてしないで!
「嫌そうな顔しない。拾十が見てるわよ」
くっ……そう言われては無理矢理にでも笑顔を作って仲良しアピールを受け入れなきゃいけないじゃない。
「うんっ! 仲良しなんだよ」
主導権を取られるのはムカつくが、今は我慢よ。そう、今だけなんだから!
2度と会うことなんて無くなるんだから……
仲良しごっこで仲良く3人手を繋いでポータルを通る。当然のように私を真ん中にして手を繋ぐのを止めてほしいわ。まるで〝逃がさないわよ〟と言われている気分になる。
ポータルを抜けて外に出る。昨日より早い時間なのだろう。人が少ない。
代わりに行き交う運送車両が多い。輸送にポータルを使わないのは何故だろう。やはり消費エネルギーが問題なのかな? 技術系の本でも読めば分かるかも。
「まずは下着ね」
「下着?!」
「ええ。どうせ昨日買ってあげてないでしょ。だから彼女は今着てるヤツしか持ってないはずよ。だから最低でも後2セットは必要なの! 分かった?」
「そ、そうだな。俺も4枚持ってるし」
「あんたの情報なんて要らないわよ! 誰得情報よそれ」
「あっはははは、はぁ」
「別に無くても困らないわ」
「洗濯してる間付けずに居るつもり?」
「問題ないわ。昨日だって……」
わざわざノーパンノーブラだったなんて言う必要無いわね。たまにはいいかも知れないけど、習慣にするのは憚れるわ。
「〝昨日だって〟?」
「五月蠅いわね。細かいことを気にする女は男にモテないわよ」
「いいのよ。女にモテてるから」
それはいいというのかしら。
「それに……」
なに頬染めて遠慮がちに男を見つめているのよ。この男1人にモテればいいってこと?
「ん?」
「なんでもないわよ、バカ!」
プイッとそっぽ向いて頬を膨らませるくらいなら、はっきり言葉にして伝えればいいじゃない。じゃないとこの男は分からないわよ。
「バカってなんだよ」
「知らないっ」
はぁーもうイライラする。痴話喧嘩をするなら私の耳元でやらないでほしい。今やらないで二人っきりのときにして。
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