第41話 図書カード
はっ! しまった。もうすぐお昼じゃない? あれから1時間以上経ったんだし、もう開いているわよね。
建物の中に入ると、図書館の入口が開いていた。よかった。
中に入ると受付に先程の女の人が居た。軽く会釈だけして本棚へと向かう。
壁一面の本棚。だというのにそこに蔵書されているべき本がない。かなりスカスカだ。
とりあえず歴史書から読みましょう。
えーと、何処かしら。文学、言語、芸術、産業……は後にして、技術……も今は我慢。自然科学……って、私気が多過ぎね。社会科学に歴史……あった!
そんなに多くないわね。あー、教科書コーナーの方がよかったかしら。とりあえず適当に選んで読みましょう。
………………
…………
……
んー、星半分が交換された頃の詳しい記述が無いわね。それに前世の知識と今世の知識で知っていたことが大半だわ。差異はほぼ無いようだし。
交換後にこうなった経緯は魔素側からしか知らないから元素側のを知りたかったのだけれど……一さんのところで聞いた内容と大差が無いわ。
違う点は残らず地下に潜ったという点のみ。地上に残れた人は居なかったらしい。しかも元々対絶対魔法主義防御結界があったお陰で魔素に侵食されずに済んだようだ。
そういった都市が幾つも点在していて過去には元々あった地下鉄での移動もできて、交流があった。
あ、これ。もしかしてニジェールさんのところじゃない?あそことも行き来は出来なかったけど通信によるやり取りが出来ていたって記述がある。
で、地下鉄が機能しなくなり、都市同士が孤立を始めた。次第に通信も届かなくなっていった……と。
暴動やテロも発生。日照不足による健康被害に電力不足。そして1番の問題は食糧と水の確保。
そういったことに対処できずに他の都市は残れなかったのだろうか。それとも今まで残っていたけど、父さんの手に掛かって…………そしてここも?
こっちの世界はこんなにも荒廃してしまったのにあっちの世界はここまで酷い被害は受けなかった。どうしてここまでの違いが生まれたんだろう。
やはり守人の一族の存在が大きいのだろうか。
父さんは守人によって捏造された歴史だ……なんて言っているけど、何処までが本当で何処からが捏造なのだろう。全てが捏造とは思えない。でも歴史なんて権力者によってねじ曲げられるのはどの時代でもあること。守人の都合がいいように書き換えられた部分もあるだろう。
国なんて清濁併せ持つ方が栄えるものだからだ。
………………
…………
……
「あ、居た居た。那夜ちゃん」
んー、ダメね。やっぱり上巻が無いと分からないところが出てくるわ。
こっちも途中の巻が抜けているし。
「気づいてないみたいね」
「朝もボーッとしてて呼んでも気づいてなかったな」
「仕方ないわね…………あんたのことバラすわよ」
「ひゃあ!」
急に耳元で息を吹きかけないでよ。ビックリした。
ったく、一体誰が……って、ああ、来たのね。
……もうそんな時間?! まだ全然読み足りないわ。
「まだ読みたい!」
「もういい時間よ。明日になさい」
「買い物するんだろ。切り上げたらどうだ」
そうだ。買い物があったんだ。でも明日は行ってみたいところがあるし……うーん。別にこのままでも困らないし――
「〝買い物はいいや〟とか思ってない?」
「……思ってないよ。うふふふふ」
「あっははははは。なら買い物に行きましょう」
チッ、閉館ギリギリまで居たかったんだけど、仕方ないわね。
「ん゛ん゛っ」
その上近くの利用者が咳払いしやがった。五月蠅くして悪かったわね。社交辞令でお辞儀だけしておこう。
「……あんた、謝るんなら顔をなんとかしなさい……」
五月蠅い女ね。はぁー、面倒くさ。朝の司書さんには満面の笑みで会釈して出ていこう。
「すみません。少々宜しいでしょうか」
あら? 騒ぎすぎて怒られるのかしら。
「はい、なんでしょう?」
「もし宜しければこちらで利用者登録致しませんか」
「利用者登録?」
「はい。月額利用料が掛かりますが、一部を除き、ここに所蔵されているものを全て閲覧できるようになります」
つまり現状全てが公開されているわけではないということか。
「更にこちらのオプションを付けて頂けると、電子書籍で読めるようになります」
「電子書籍ですか」
「はい」
そうね。取りに行ったり戻したり探す手間も大分軽減されるし、どうせお金は腐るほどあるのだし、登録しておきましょう。
「登録します!」
「ありがとうございます。それから、ここに無い蔵書に興味はございませんか?」
「ここに無い蔵書?」
見逃した図書館があったのかしら。
「既に原本が失われている蔵書のことです」
なるほど。5千年も経っていれば、こんな環境だし原本が失われていてもおかしくはない。
「こちらは読んだ冊数で利用料が掛かっていきます。基本利用料金は千ベルで、10冊まで無料。そこからの利用料金はこのようになっております」
原本のあるものは無料。無い物に対してだけカウントされて、総ページ数に関係なく最初の10ページは試し読みが出来てカウントされない……と。
私に利用料金なんて関係ないけどね。どうせ踏み倒すことになるんだから。
「全部付けてください!」
「ありがとうございます。お手続きをしますので図書カードの提示をお願い致します」
図書カード?! そんなもの作っていないわよ。第一入館時になにも言わなかったじゃない。借りるときだけ必要なのかしら。
とりあえず〝図書カード出ろ〟と念じてみましょう。
すると目の前に図書カード? が浮き上がった。
「ありがとうございます」
ほっ。これでよかったみたいね。
「それではお手続きを致しますので、少々お待ちください」
浮き上がった図書カードを司書さんが受け取り、手続きを開始した。
この辺りも結界都市とあまり変わらないわ。進んだ技術は魔法か科学かの区別が付かないとはよく言ったものだ。
「あんた、金持ちだったんだな」
「え?」
「図書館通いなんて富裕層でもない限りしないの。それとも極一部に居る無類の本好きとかなの?」
「あー、まぁそんなところよ」
「ふーん」
疑り深いわね。そんな目で見ても動揺なんてしないわよ。
「お手続きが終了しました。こちら、お返し致します」
「ありがとう」
「ご利用、ありがとうございました」
登録を終え、図書室の外に出る。
これでいつでも何処でも読めるようになったわ。さっさと買い物を済ませて、寮で読みましょう。
次回、仲良く喧嘩しな




