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携帯は魔法杖より便利です 第6部 古の都  作者: 武部恵☆美
第1章 それぞれの半年
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第4話 熱い氷

 ここが次の目的地ね。

 本当に人が居ない……みたい。

 殆どなにも無いわ。

 辛うじて痕跡があるように感じる程度で瓦礫すらない。

 風化して更地になった廃墟といったところかしら。


「修行といっても難しいことは無い。那夜(なよ)はもう何度も魔法陣を描いてるし、その意味も理解してる。後は理解を深めるだけでいい」

「座学ってこと?」

那夜(なよ)なら必要無いだろ。自分と向き合うことだ。魔術文字の理解を深めたところで所詮は他人の考えた(ことわり)。意味が同じなら文字である必要も図形である必要も無い」

「ならどうして文字や図形があるのよ」

「他人に教えやすいだろ。それ以上でも以下でも無い。細かく言えばキリは無いが、図形は単純に壊れにくく安定させるためのものだ。そうだな……例えばこの魔法陣の意味は分かるか」

「少し無駄が多いけど、氷壁(アイスウォール)ね」


 どうしてわざわざ水の温度を下げて氷を作るなんて術式にしているのかしら。

 素直に氷の術式にしておけば手間もコストも下がるのに。


「んーさすが那夜(なよ)だ。えらいえらい」

「この程度で頭を撫でないで!」

「もう、照れ屋さんなんだから」

「照れてないっ。いいからさっさと話なさい」

「娘との楽しい一時を満喫したいじゃないか」

「今はそういう時間じゃないでしょ」


 メリハリを付けてほしいものだわ。

 なにニヤけてんのよ。全く。


「ふふっ。ではこの部分だけの意味はどうだ?」

「温度操作かしら」

「そのとおり! さすが那夜(なよ)だ。えらいえらい」

「だから頭を撫でるなっ!」

「痛っ! 手を払わなくてもいいじゃないか。つれないなぁ」

「早く話を進めて」

「せっかちさんだな。で、だ。この部分をこう書き換える。するとどうなる?」


 温度を下げるのではなく上げる?

 それじゃあ氷にならないじゃない。


温湯壁ボイルドウォーターウォール……とか?」

「ほう。中々面白い発想だが違う。正解は発動しない」


 当然よね。

 水の温度を上げたところで氷にはならない。

 問題にするくらいだから斜め上の結果になるかと思ったけど、そのままだったようね。


「ところがだ。こう描き変えたらどうなるか分かるか」


 水じゃなくて氷の温度を上げる?

 それ、氷が溶けるだけでしょ。


「発動しないと思うわ」

「半分正解」

「半分?」

「やってみれば分かる」


 やってみれば……ね。

 父さんの描いた魔法陣をトレースして魔力を込める。

 やっぱり発動しない。


「綺麗にトレース出来ているな。でも発動できない。何故だか分かるか」

「出来ないもなにも、父さんだって発動できないで…………なによそれ」


 父さんが魔力を込めると、氷壁(アイスウォール)が発動した。

 モワモワと冷気が漂っている。

 どういうこと?!


「私、何処か間違えていたの?」

「いいや、間違えてなんかいないぞ。ほら」

「えっ……嘘」


 私の描いた魔法陣に父さんが魔力を込めると氷壁(アイスウォール)が発動した。

 同じようにモワモワと冷気が……ん? これ、冷気じゃなくて湯気だわ。

 恐る恐る目の前の氷に触ってみる。


「熱っ!」


 ドライアイスを触ったときのような熱さじゃない。

 熱せられた石を触ったような感覚だ。


「ああああああっ! 大丈夫か。火傷してないか。診せてみなさい」

「大丈夫よ。そんなことより」

「〝そんなこと〟?!」

「どういうことか説明して。どうして氷が熱いの?」

「当たり前だろ。温度を上げる術式を組み込んだんだから。そんなことより今治癒してやるからな」

「必要無いわ。そんなことよりこんな魔法陣、普通は発動しないのよ」

「…………はぁ。そうだ。その思い込みが発動しなかった理由だ」

「……どういうこと」

「簡単な話だ。氷の分子構造を保ったまま分子運動をさせればいいだけの話だ」

「そんなことが可能なの?」

「おいおい、物理限界の絶対零度を超える方法なんて父さんが生まれる前に確立しているだろ。その応用だ」

「一個人で出来るようになんてなっていないわよ」

「そもそもここは何処だ。物理世界か? いいや、魔法世界だ。そもそもここに物理限界なんてものは無い」

「それは……そうだけど」

那夜(なよ)はなまじ物理法則を知っているからそうイメージして当てはめてしまう。だから常温、常圧下で熱い氷なんて存在しないと思い込んでしまう。そんなものは忘れろ。そして思い出すんだ。魔素は魔素。水素も酸素も無ければ一酸化二水素……つまり水すら無い。なのにこの世界はまるで物理法則に縛られているかのような作用をする……」


 そう言うと父さんは黙ってしまった。


「父さん?」

「なんでもない。まずはこの魔法陣を発動させられるようにするんだ」


 なにか隠している?

 私には教えられないことなのかしら。

 いつか教えてもらえるようになる?


「分かったわ」

「父さんはいつもどおり魔法陣を描いてくるから。ポチ、那夜(なよ)のことを頼んだぞ」

「「「わんっ」」」


 魔素は魔素……ね。

 魔素の在り方。つまりこの場合は暖かい氷という在り方を魔素にさせればいい。

 分かってはいるけれど、そんな非常識な在り方なんて分からないわ。

 それが分からない限り、この魔法陣は発動しないのかも知れない。

次回、量産機です

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