第33話 誰を選ぶの?
「……あら? 男の人の声が聞こえたと思ったんだけど」
あれ、ポチは何処? まったく、逃げ足だけは速いんだから。
「五月蠅くしてごめんなさい。久しぶりのお風呂だったからはしゃいでしまいました」
「そうなの? ここは他の人も住んでるんだから、あまり大きな声を出したらダメよ」
「はい。以後気をつけます」
「ゆっくり浸かってから上がってきなさい」
「はい。ありがとうございます」
なんにしても、これでゆっくり出来るわね。
はぁー、ちょっと脱力。温かいな……
「「「……行ったか?」」」
「まだ居たの!」と、声を抑えて怒鳴りつけてやった。
首の裏に一瞬で隠れていたのね。
「「「どうだ。古の都は楽しいか?」」」
耳元でそう囁くと、肩から湯船の縁へ飛び移った。
「え? あー、まだ楽しむに至ってはいないわ。でも凄く楽しめそう」
「「「それはよかった。こっちもまだ時間が掛かりそうだ。ゆっくり楽しんでいなさい」」」
そういう父さんもまた大きくなって犬らしからぬ格好でお風呂を満喫し始めた。
しょうがない人ね。
「ええ。ありがとう」
「「「んー、那夜のためなら父さん頑張る!」」」
父さんってこんなキャラだったかしら。
握れもしない肉球を掲げてドヤ顔するのはやめなさい。
「頑張ったら直ぐ終わってしまうでしょ。ノンビリサボりながらにして」
「「「っはは。サボるとイーブリン様に怒られるからなー」」」
「なに、娘より千年ババアの方がいいってわけ?」
「「「またお前は……どっちなんて選べるわけないだろ」」」
「じぁあ母さんとは?」
「「「その質問は卑怯じゃないかな!」」」
「即答できないのね」
「「「う……」」」
母さんが不憫だわ。
こんな男を信じて待っているんだから。
「上がるわよ。さっさと隠れなさい」
「「「がうっ!」」」
どうやら父さんは引っ込んだらしい。とはいってもまだ視覚を共有しているかも知れない。まだ迂闊には出られない。
ポチは湯船から出るとブルブルッと水滴を飛ばした。
さっき身体を流したときはしなかったのに……父さんが支配していたから? 父さんの身体を洗っていたってこと?! そう考えると身震いしてしまいそうになる。
水滴を飛ばし終えると、私の肩にピョンと飛び乗り、首の後ろへ隠れた。
やっと出られるわ。
脱衣所に戻ってバスタオルで髪を拭く。あーサッパリした。身体を適当に拭いて、籠に入れておいた下着を洗って……? 下着がない。ローブもない。もしかしてさって寮母さんが来たときに持って行かれたの?
はぁ……元々洗濯はお願いしていたし、下着は諦めましょう。
これで買ってきた服のサイズが合わなかったら最悪ね。
紙袋を開けて買ってきた服を取り出す。タグとかは……付いていないみたいね。
まずは上着を着てみる……んー、胸元にゆとりが足りないわね。それでも締め付けられるほどキツくないから我慢しましょう。ただ……ラインがはっきり見えてしまうのが嫌だ。
ズボンは……うん、問題なさそうね。
問題はこの色くらいかしら。本当に部屋着でよかった。
……朝までには洗濯終わっているわよね。
「お風呂、ありがとうございました」
脱衣所を出ると、寮母さんと男が居た。
「お、やっと出てきたか」
「そういうことを言うもんじゃありません。女の子は身だしなみに気を遣うモノなのよ」
ごめんなさい。そんな立派な理由じゃありません。
「ふーん。那夜ちゃん、部屋に戻ろうか」
「うんっ。寮母さん、おやすみなさい」
「おやすみなさい。あまり夜更かしはしないでね」
「はい」
そして私たちは管理人室を出て男の部屋へ戻っていった。
「那夜ちゃん……か。ふふっ、まだお兄ちゃんに甘えたい盛りなのかしら。でも五十三君に聞いてもなにも教えてくれなかったのよね。しどろもどろになって適当に答えるし。本当に妹なのか、ちょっと疑ってしまうわ。でも書類に不備は無かったし、問題ないでしょう。さ、ぼちぼち洗濯を始めますか。男どもの服を洗濯機に放り込んだら私たちのを洗いましょう」
次回、財務長官の憂鬱




