第32話 ポチであってポチではない
お風呂は勿論別々。昨日今日会ったばかりの男と一緒に入るほど、私は安い女じゃないの。
寮母さんの部屋にはお風呂が設置されていて、そこを利用させてもらえるらしい。
「石鹸とシャンプーは好きに使っていいわ」
「ありがとうございます」
ここでまで幼児プレイしなくてもいいでしょう。なにか言われたらあの男の趣味とでも言っておけばいいわ。
「汚れ物は籠に入れておいて。洗濯しておくわ」
「はい」
脱衣所で服を脱ぐ。
そういえば下着の替えが無いわね。洗って使い回しましょう。
ローブは……任せておけばいいか。
お風呂は……ちゃんと湯船があるわ。まずは身体を洗いましょう。
「「「がうっ」」」
ああ、ポチも居たわね。ずぅっと首の後ろに隠れていたから忘れていたわ。
「貴方も洗ってほしいの?」
「「「がう!」」」
「石鹸の匂い、大丈夫なの?」
「「「がーう」」」
フブキは臭いが付くから石鹸が嫌いだったのに、ポチは気にしないのね。ふふっ、気持ちよさそう。
「流すわよ」
「「「がう!」」」
身体が大きいと洗いごたえがあるけど、時間が掛かっちゃうのよね。その点子犬サイズのポチは洗いやすい。そもそもあの大きなポチはここに入りきらないから無理よね。
でもモナカなら嬉々として大きい方を選ぶわ。必ずね。
……はぁ、なに言っているのかしら。もう居ない人をウジウジと……バカみたい。
身体を流したお湯で一緒に流れていかないかしら。お湯は皮膚の上を流れるばかりで、記憶は流れていってはくれない。
頭を洗って一緒に記憶も洗えないかしら。幾ら洗っても、記憶は綺麗にならない。
お湯で流したら一緒に流れていかないかしら。お湯は泡を流すばかりで記憶は流れていってはくれない。
髪からポタポタと水滴が落ちていく。でも記憶は落ちていってはくれない。
…………はぁ。私のバカ。
立ち上がって湯船へ入る。
お湯に浸かって身体がふやけるように記憶もふやけてくれないかしら。
体育座りをして肩までタップリと沈ませる。このまま沈んでしまえたら会えるのかな。
顔を半分ほど沈ませ、泡をブクブクと吐き出してみる。泡を出し切れば……
「「「彼が忘れられないのか?」」」
「そうね。とても有益な検体だったんだもの。忘れられるわけ無いわ」
「「「っはっはっはっは。検体か」」」
「ええ、良い検体……父さん?!」
なんで父さんがここに居るの?!
キョロキョロと辺りを見回しても私とポチ以外誰も居ない。
遠見の魔法かしら。
「娘のお風呂を覗くなんて、最低!」
「「「ぐあっ! の、覗いてなんかいないぞ。聞いていただけだ」」」
「聞いていたって……え、ポチ?」
湯船に背中を預けて前足を縁に乗せてくつろいでいるポチがいた。
随分と人間臭い入り方ね。
そういえば父さんの声が重なって聞こえている。
「「「ポチは父さんの眷属だからな。五感を共有することなんで造作もないことだ」」」
「五感……ってことは、視覚も含まれるのよね」
くつろいでいたポチが一斉に顔を逸らし始めた。
やっぱり含まれているのね。
「黙ってないで答えたらどうなのよ、この変態」
「「く、首を絞めるな……く、苦しい……」」
当初の予定どおり実行してやろうかしら。
「3つあるんだから2つくらい無くなっても死なないわよね」
「「2つ?! 分かった、悪かった。視覚は共有しない!」」
「やっぱり覗いていたんじゃないの!!」
「「しまった! 誘導尋問とは卑怯だぞ」」
何度娘の裸を見れば気が済むのよ!
しかも既に見られてしまったエイルの身体でも無ければ、死亡当時30代になっていた那夜の身体でも無い。
うら若き女子高生の裸よ!
幾ら親でも許せないわっ。
「斬り落とすわよ」
「「ひっ、魔力を練るのをやめなさい! ポチに罪は無いんだ」」
「連帯責任よ」
「「お願いだからやめてっ!」」
「ふんっ!」
そうね。ポチに罪は無いんだし、可哀想だからやめてあげましょう。
「「「げほっ、ぶふぉっ、はぁー、はぁー、はぁー、死ぬかと思った」」」
「首1つで大袈裟な」
そもそも残り2つの首で呼吸は出来るでしょうに。
「「「大袈裟じゃないっ!」」」
「いいからさっさと要件を言いなさいっ」
「「「……要件?」」」
「まさか用も無いのに出てきたとか言わないでしょうね」
「「「親子で風呂に入る為だ」」」
「やっぱり殺す!」
「「だから首を絞めるなーっ!」」
「五月蠅いわよ!」
ガラッと扉を開けて寮母さんが覗き込んできた。
マズい!
次回、下着の行方




