第28話 対策済み
正面玄関の自動ドアから中に入る。
「五十三さん、女性は立入禁止ですよ」
入ると直ぐ横の窓から女性の声が聞こえてきた。管理人みたいだ。男や女より年上ね。40代後半ってところかしら。私ぐらいの身長で太っているというよりは筋肉質といった感じの体格をしている。
「寮母さん、家族は届け出をすれば泊まってもよかったと思いますが」
「そうですね。私の記憶が確かなら、届け出は出ていなかったと思いますが」
「えーと……今からでもいいですか?」
「はぁ……さっさと提出して下さい」
「はい! ちょっと待ってください。今作りますから」
「用意すらしてないんですね……まったく」
「っはは。すみません」
「ほら、玄関に立たれると邪魔ですよ。脇に避けなさい」
「はいっ!」
男はまたポータルウインドウを……じゃないわね。さっき言っていた届け出の書類みたい。
男が空欄に視線を送ると文字が入力されていく。へぇ、キーボードを叩かなくても入力できるのね。でもその辺もわざわざウインドウを出さずに脳内処理できればもっと楽なんじゃないの?
「あっ……」
ん? どうかしたのかしら。
「〝なよ〟ってどう書くんだ?」
ああ、そういうこと。
「自分で書くー」
「えっ? あはは、無理だよ」
やってみなきゃ分からないでしょ。
さっきこの男がやっていたように魔力を変質させて……こんな感じかしら。
で、入力欄を意識して文字を入力……でいいのよね。
男の名字は……〝五十三〟……変わった名字ね。振り仮名は……これで〝よみ〟って読むんだ。
これを私の欄に写して……よし、なんとかできた。
次は名前……〝那夜〟っと。振り仮名は〝なよ〟……出来た!
「……出来てる」
「えへへ、偉い?」
「あ、ああ。偉いぞー」
あー、また撫でる! 髪がー……ん? なんか戸惑いながら撫でていない?
「どうかしたの?」
「いや……ポータルの使い方を忘れていたくらいなのに、よく書き込みが出来たな……と」
「お兄さんのやり方を真似ただけだよ」
「そうじゃない。そうじゃ……そういうことじゃないんだ……」
なんなの? もしかして、やらかしたのかしら。
とりあえずこのままニコニコし続けて誤魔化しましょう。
「どうしました? まだ書けませんか?」
「あ、はい。今提出します」
男が左手を寮母に差し出すと、寮母は書類を掴んで受け取った。
へぇ。この辺は結界都市と変わらないのね。
「えーと? …………五十三那夜さんね」
「あ、ああ……」
「続柄は……妹? 貴方一人っ子じゃなかったっけ」
「あれ? そうだったっけ……覚えてないなーあははははは」
もっとマシなこと言えないの!
後妻の連れ子とか養子とか色々あるでしょ。
「〝あははは〟じゃないわよ。那夜さん、ここに手を乗せて」
「うんっ!」
「あっ、待っ――」
また生体認証かしら。偽造していないか確認でも取るのかしら。
無駄なことを。その辺は最初に終わらせているのよ。
だから頭を抱える必要はないの。シャンとしなさい! 足でも思いっきり踏んづけてやりたいところだわ。
「あら、本当に妹さんなのね」
「…………え?」
そこは堂々としてなさいよ。なんで貴方まで目を丸くしているのよ。バカなの!
「ごめんなさい。私の記憶違いだったみたい」
「あ……そんなことは……あ、はい。妹? です」
「? ふむ、いいでしょう。許可します」
「ありがとう……ございます……」
「不満なの?」
「まさか! ちょっと……驚いただけで……ははっ」
「私だって鬼じゃないわよ。でも次からは早めに出しなさい」
「あ、イヤ……はい、すみませんでした」
というか、この男はなんの対策もなく書類を偽造したの?
私じゃなかったらとっくにバレて掴まっていたわよ。感謝しなさい。
次回、5点




