第2話 エイルの悪夢
人を殺した。何人も……いや何十人、何百人と殺した。
実感は無い。
魔法陣を描いてそれを発動させただけだからだ。
直接人が死ぬところを見ていない。
死体すら見ていない。
でも一目瞭然だった。
村一つが……取り囲んでいた木々が何一つ残らず消滅した。
反省も後悔もしていない。
父さんを母さんの元に帰すためなら、私はなんだってする。
もうあんな思いはしたくないから。
今度こそ間に合わせてみせる。
そう心に決めたはずなのに……
「いやぁぁぁっ! はぁ、はぁ、はぁ、はぁ」
寝ると夢見が悪くなった。
どんな夢かは思い出せない。
必ず嫌な汗をかいている。
だから思い出すまでもなく、想像できてしまう。
一さんが……真琴さんが……副総裁が……ニジェールさんが……あそこで暮らしていた人達が私を……
そんな夜があの日からずっと続いている。
起きると必ず父さんが手を握ってくれている。
でもなにも言わない。なにも聞かない。
ただ息が落ち着くまで優しく頭を撫でてくれた。
寝るのが怖い。
寝たくない。
でも寝ないと身体がもたない。
ただでさえ魔素が薄いところだ。
失った魔素を取り戻すためにも休息は必要。
寝ないわけにはいかない。
その度に悪夢にうなされている。
当然の報いと受け入れているけど、さすがにキツい。
「父さんは初めてのとき、どうだったの?」
「どうだったかな。そんな昔のことは忘れた」
「そ」
「そんなことより、昼頃には次の目的地に着く。今回は休んでおくか?」
「…………いえ、私がやるわ。慣れないといけないもの」
「慣れる……ね。安心しろ。次は人間が居ないらしい。ついでだから魔術の練習でもしてみたらどうだ」
「魔術の?」
そうしたら、少しは気が紛れるかしら。
朝食を作って2人と2匹で食べる。
食糧や調理具は父さんが次元収納に入れている。
久しぶりに使った携帯調理器具は魔法杖みたいに魔力が無いと使えないなんてことはない。
魔力では無く科学で動くからだ。
包丁は研げば斬れる。
水はタンクのコックを捻れば出る。そして空になれば出ない。
カセットコンロはつまみを回せばガスが出て火花を飛ばして火が付く。
火花は乾電池を使うから電力なんて持っていなくても問題ない。
お皿は空を飛ばないから運ばないといけないけどね。
「んー、やっぱり那夜の作った飯は美味いな。お前たちもそう思うだろ」
「わんっ!」
「にゃあ!」
……ケルベロスと白虎のご飯はただのドッグフードとキャットフードなんですけど。
でも1食で1袋をペロリと平らげるのよね。それを朝晩の2回。
確か1袋5キロぐらいはあるはず……
身体が大きいし、昼は走りっぱなしだもの。
そのくらいは食べて当たり前なのかも知れないわね。
「今日はタマの番だったな。ポチ、那夜を頼んだぞ」
「「「わん! …………ふぅ」」」
三つ首同時にため息を吐くな!
しかも私だけに聞こえるようにして。
あぁあ、フブキは今頃なにをしているのかしら。
ポチの背中に飛び乗る。
なんとか飛び乗れるくらいには身体操作ができるようになったけれど、まだまだ難しいものだ。
ポチの毛はタマより短く、掴めるほど長くない。
だから背中に乗っているだけでもかなり難しい。
私の腕力では簡単に振り落とされるから、魔法で身体をしっかり押さえていなければならない。
「修行の一環だ」とか言われたけど、魔法の素人にはかなりキツい。
それでも1日魔法でしがみ付いていれば慣れるもの。
気を抜かなければなんとかなるようになった。
「寝てても落ちないようになれ」
無茶を言う。
でも背中に飛び乗れるようになったんだ。
寝ていても落ちないようになれるでしょう。
半日ほどしがみ付いていると、タマが歩みを止めた。
「那夜! 修行を始めるぞ」
どうやらここが次の目的地らしい。
「はいっ!」
次回、未読無視し続けた結果