第193話 なにをしたのか
「鈴様、私がやりましょう」
父さん?!
「ポチか」
「鈴様?!」
「ほう、よいのか?」
「う……」
さすがに大罪の娘は父さんの名前を知っているみたいね。でも、どうして父さんは頑なに名前を隠すのでしょう。
「娘がやりゃぬのでありぇば――」
「やればいいんでしょ!」
「……ふむ。最初かりゃそう言えばよいのだ。手間を掛けさせりゅな」
「鈴、そういうことを言うな。那夜さんにも都合があるんだ」
「うにゅ……はぁ。娘」
「〝娘〟じゃなくて、〝那夜さん〟だぞ」
「パパ!」
「鈴、目上の人には相応の態度を取りなさい」
「鈴の方が目上だよ」
「今は違うだろ。鈴は賢いから分かるよな」
「うゅ…………分かった。那夜さん、ごめんなさい。そりぇと、ありがとうございます」
大罪の娘が頭を下げた?!
しかもモナカさんの言うことを受け入れたというのですか。
「那夜さん、娘が失礼な態度を取って申し訳なかった。許してもらえないだろうか」
モナカさんまで……これで許さなかったら私の心が狭いみたいではないですか。
「別に、気にしていません。子供の言うことに一々腹を立てたりしませんので」
……いつまで頭を下げているつもりですか。
私は腹を立てていないって言ったではないですか。
ああ、もう!
「許します! だから頭を上げて下さい」
「ありがとうございます。鈴、よかったな」
「うんっ!」
一体、どっちが本当の姿なの?
(那夜まで大罪の娘を受け入れるのよ?)
受け入れません。
(許したのよ)
それはあくまで態度の話です。大罪の娘がしたことに対してではありません。
(大罪の娘はなにをしたのよ?)
え? ですから大罪を――
(具体的のよ、なにをしたのよ)
具体的……レイモンドさんを殺しました。
(殺してないのよ)
嘘です。
エイルも見たではありませんか。大罪の娘がレイモンドさんの核を潰したところを。
(でも生かしておくのよ、言ったのよ)
それを信じているんですか?
(他には無いのよ?)
…………沢山の人を殺しました。
(それは那夜の父さんがしたことなのよ)
やらせていたのは大罪の娘ですっ。
(うちたちも殺したのよ)
数が違いますっ。
(1人殺すのよ、100万人殺すのよ、同じことなのよ)
全然違いますっ。
(殺したという事実のよ、違いはないのよ)
罪の重さが違います。。
(モナカのよ、同じことを言ったのよ。忘れたのよ?)
それは……
(それのよ、大罪の娘の方が軽いのよ)
そ、そんなわけありません。
(真実を知らないだけなのよ)
私が知らないことを、エイルが知っているわけ無いではありませんか。
(そうのよ。那夜も知っているのよ。知らない振りのよ、してるだけなのよ)
そんなこと!
「那夜さん? どうかしましたか」
「いえ。さっさと行って、ササッと修理をしてしまいましょう」
「……はい」
貴方、本当にエイルなの?
(当たり前なのよ。それは那夜が一番よく理解しているのよ)
大罪の娘の方が罪が軽い? それを私も知っていて知らない振りをしている?
そんなわけないではありませんか。親子揃って大罪を犯したんですから。
ではその大罪の内容は?
それは歴史書に綴られている。
父さんも同じ大罪を犯した。
そして私も……
なら、罪の重さは同じ?
一体私はなにを知っていて、それを知らない振りをしているというの。
第6部、終了しました