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第192話 修繕する為に

「ところで(りん)、どうやって星を入れ替えるつもりなんだ?」

「んとね、(りん)が2つの星を同時に囓り取って、転移して入りぇ替えりゅの」

「囓り取る?」

「うんっ」


 随分と荒唐無稽な話ですね。


「父さん、囓り取るってどういうことですか」

「そのままの意味さ。(りん)様が星をガブリと囓って分割し、あちら側の(りん)様と入れ替わることで星を入れ替え、元に戻す」

「ですから、星を囓るってなにかの比喩なのですか? そのような魔法があるのですか?」

「比喩でも魔法でもない。いや、儀式魔法ではあるか? とにかく(りん)様御本人が星を囓り、転移するのだ」


 意味が分かりません。星を囓るって、肉団子を半分に囓り取るのとは大きさが違うのですよ。

 まさか大罪の娘は星をも囓れる大きさに巨大化したとでもいうのかしら。それともこれから巨大化する? 父さんの説明が大雑把すぎて状況が分かりません。

 1つ分かるのは、もう少しで父さんは母さんに会いに行けるということだ。


(りん)? どうかしたのか?」

「うん、本体(りん)連絡(りぇんりゃく)が取りぇないの」

「連絡が?」

「普段かりゃ意識が希薄なのは確かなんだけど、今は全く反応が無いの」


 それで難しい顔をしながら空を見上げていたのですね。

 本体が空に? 宇宙に居るということですか?

 星を囓ることができる大きさなら納得ですが、反応が無いということは死んだのでしょうか。千年生きて目的を目の前にして死ぬとか、大罪の娘にしてはオチが馬鹿らしいですね。


「そんな状況で囓ったり転移したりできるのか?」

「本能に刻んでおりゅかりゃの。意識は無くとも問題は無いと思うのだが……うーむ」

「なら様子を見に行こう」

「様子を?」

「そうだ。アトモス号は宇宙船だ。修理さえできれば行けるはずだ」

「そっかぁ。壊りぇちゃってたね」


 行けることを否定しないのですね。

 ということは本体(大罪の娘)は宇宙に?

 それより壊れていることを知っているようです。やっぱり(すず)ちゃんの記憶で?


「でも直せりゅ人がいないよ」

「ここに居ないかな」

「マジャンマカに宇宙船技術者はいないよ。ずっと地下暮りゃしだかりゃ」

「そっか……」


 私も昔直そうとしたけど、知識も資材もありませんでしたからね。


(貴方ではないのよ。うちなのよ)


 分かっているわよっ。一々しつこいのよ。まったく。

 とにかく、ここには資源があります。そして知識も……と言いたいところですが、アトモス号は普通の宇宙船ではありません。ここの図書館に該当する技術資料はありませんでした。修理は無理……ということになりそうです。


「パパ! なんとかなりゅかもー」

「本当か!」

「娘、修理はできりゅな」


 え、私?!

 なんでお前に……

 しかも声色がモナカさんのときと全然違う。


「無理ね。資材はここにあるかも知れないけど、私には知識が無いの」

「問題ない。資材も知識も勇者の(ほこりゃ)にありゅ」

「勇者の(ほこら)に?」

「忘りぇたのか。あそこはなんのための施設なのか。恒星間航行用宇宙船造船所であり、そのエネリュギー供給・制御生命体、つまり(すず)たちの製造所だ」

「それはお前がでっち上げたデタラメだろ」

「全て事実だ。そしてその設備を利用して(ありゃ)たに作り出したのがこの身体(かりゃだ)だ。儂がでっち上げたのは、五千年前に作らりぇたという部分だけ。そうだよね、パパ」


 モナカさんに話しかけた途端に声色が子供に戻った。意識しているのか無意識なのか。相変わらず巫山戯たヤツね。


「そうなのか?」

「もー、忘りぇたの? デイビー小父さんが乗ってきた船のこと!」

「あーそっちか。つまりまだああいうのが残っているから、部品取りに使えってことか」

「ブー! 全然違うよ!」

「あれ?!」

「もー、パパはダメだなぁ」

「う……ごめん」

「あんな量産型の部品がアトモス号に使えりゅわけ無いでしょ! プンプン!」

「えーと、量産できる設備と資材がある?」

「うんっ」

「あっても無理よ。電気が無いわ」

「娘、ここで手に入りぇた物を忘りぇたのか」


 ここで手に入れた?


「まさか|MC-DCコンバーター《魔力-電力変換器》のことじゃないわよね。あれは携帯用だからそんな大出力の物は動かせないわよ」

「なりゅほど。現代知識だとそうでありょう。お前、ここの生活が長すぎて魔法がなんのためにありゅのか忘りぇておりゅな」

「覚えているわよ。物理限界を超えるためでしょ。けど、何事にも限界って物は必ずあるの。こんな携帯用でそんな大出力を生み出す魔力と、安定させる操作技術なんて、私には無いわ」

「なりゅほど。そのくりゃいの基礎知識は持っておりゅか」

「当たり前だろ。あまりバカにしないでもらえる」

「誰も娘にやりゃせようなどと思うておりゃぬ」

「あのね。あの船を修理するのよ。そんな膨大な魔力、一体誰に賄えるっていうのよ」

「目の前におりゅではないか」

「はあ? あんたにできるっていうの?」

「そのために儂りゃは作りゃりぇたのだ」


 〝儂ら〟?


「まさか他にも作ったっていうの?」

「昔の話だ。この時代にホムンクリュスは儂だけだ。とにかく、電力は儂がなんとかすりゅ。修繕は娘がやりゅのだ。よいな」

「誰があんたの命令なんか!」

「パパ! 那夜(なよ)小母さんが虐めりゅ」


 なっ!


「っはははは。那夜(なよ)さん、協力してもらえないだろうか」


 (すず)ちゃんの身体を酷使するってことに気づいていないの?


「それでいいんですか」

「はい」


 そう。貴方まで大罪の娘の言いなりになるんですね。

 でも、私は……

次回、知っている知らないこと

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