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第191話 物質転送の闇

「父さん、彼らは毒素を浄化できるのですか」

「ん? 少し違うな」

「違う?」

「ああ。体内に取り込まれた毒素や魔素を排除しているに過ぎない」

「それは浄化とは違うのですか」

「毒素や魔素を取り除くだけで、浄化はしない。取り除いてある程度溜まったら結界の外に捨てているだけだ」


 思っていた物と違った。

 でも、そうやって常日頃から毒素対策をしておけば、魔人化や魔獣化が防げる。


「技術提供してもらえないかしら」

「止めておけ。装置は元素だし、魔素も排除する。使い物にならないぞ」

「そこは私たち用に改良すれば宜しいかと。そうすれば、もう魔物化に怯えることが無くなると思います」

「……那夜(なよ)は転送装置の魂の在処問題を知っているか」

「魂の在処問題? 確か6千年くらい前にあった世界中で起こった大暴動で、世界人口が半減したなんて研究結果もありましたね。大罪の親子ですら避けて通ったほどの悪罪とも。それで合っていますか」

「合ってるよ。それ以前のものは転送元と転送先の空間を繋げて通る空間跳躍方式だった。しかしそのためには莫大なエネルギーが必要で、その上不安定。空間が歪んで通過中のものが破損なんて日常茶飯事。安全性と確実性が皆無で利用するのは非現実的だった。その問題を一気に解決したのが、物質転送方式だ」

「それと浄化となんの関係があるんですか」

「そう焦るな。エネルギー問題はある程度解決したし、危険性も車の死亡事故発生率並みになったが、それでも国や大企業といったレベルでなければ使えないくらいの代物だ。それを一般人がたまの贅沢でなら使えるレベルにまで引き下げたのが、似非(えせ)物質転送方式だ」

「似非?」

「なんだ。魂の在処問題は知っていて、その元凶の似非物質転送方式は知らないのか?」

「はい」

「……まぁいい。とにかく、その似非物質転送方式を利用したのがここのポータルであり、浄化システムだ」

「ポータルが浄化装置なんですか?」

「そうだ」

「どういうことですか?」

「…………、転送元で分解し、転送先で再構築する。その際に不純物質を取り除く……ということだ。だから基本的にここの住民は病気にかからない。軽微な怪我ならばポータルを移動するだけで元に戻る」


 なるほど。分解した際に不純物を取り除いて再構築……? 〝分解〟して〝再構築〟。似非物質転送方式って……


「その顔は思い出したようだな」

「転写移動方式ですね」

「後の歴史書ではそう書かれていたな」

「対象物を転送元で読み取りと同時に分解、転送先で再構築する」


 つまり、オリジナルは分解される。


「そうだ。本物は実際に物質を〝転送〟するが、偽物はスキャナーで物質を読み取り、3Dプリンターで造形する。そして不要となったオリジナルを廃棄することで〝複写〟ではなく、〝転送〟したように見せかける。それが似非物質転送方式の正体だ」


 ちょっと待って。


「コスト面と手軽さで優位に立った似非物質転送装置は各地に設置され、量産効果でコストは更に安くなり、世界中に設置され、人々の生活に無くてはならないものになってしまった。その嘘は内部告発で仕組みが明るみになるまで約76年間続いた。企業側は〝転送前と転送後に原子レベルでの差異は一切無い〟と弁明した。しかし〝それは同一人物と言えるのか?〟と議論になった」


 もしそれが本当だとしたら……


「そこに〝魂は同じものが入っているのか?〟という問題が投げ掛けられた。同じならば過去の偉人に新しい肉体を与えて復活できると一部の人間が期待に満ちあふれた。ところが企業側は〝科学的に魂の存在は証明されていない。元から無い物はどちらにも存在しない〟と発表したことで、世界規模で暴動が起きてしまった。大雑把に説明したが、これが魂の在処問題だ」


 それがこの都市に使われているポータルの正体だというのなら……


「父さんたちの世界では〝大罪の親子ですら手を出さなかった技術〟として伝わっているように禁忌であり、消された技術だ。それを知ってか知らずか復活させ、浄化と移動に利用している」

「…………私、ポータル使ってしまったわ。私、コピーなの? 本当の私は……本物の私は……あ、あああああ」

那夜(なよ)、大丈夫だ」

「なにが大丈夫だっていうのよ。父さんは知っていたんでしょ。なんで教えてくれなかったの?」

「安心しろ。那夜(なよ)はポータルを使ってない」

「使ったわよ! ポチと一緒に。そうよ、ポチも使ってしまったのよ」

那夜(なよ)たちは似非物質転送装置なんて使ってない。父さんが次元転送してポータルを使ったように見せかけただけだ」

「……次元……転送?」

「地下から地上に出たときに使っただろ」

「……本……当?」

「本当だ。ほら、感覚が同じだっただろ」

「……うん」

「だから安心しろ。那夜(なよ)はちゃんとオリジナルだ。そんなこと父さんがやらせるわけないだろ。そもそも魔素の身体の那夜(なよ)がポータルなんて使ったら、完全に消滅してしまう」

「……そうなの?」

「そうだ。だから安心するんだ」

「……うん。分かった」


 私は私なのよね。私がオリジナルでいいのよね。私が……私…………!


「それではあの2人は?」

「あの2人に限った話ではない。ここの住民全員がそうだ。オリジナルなど存在しない。全てコピーのコピーのそのまたコピーだ。赤ん坊ですらな。そして食料も、衣服も、機械類も、全て似非物質転送方式の応用だ。あの私久(わたひさ)の秘密もそうだ。常に身体をスキャンし、不具合が出たら新しく再生される」

「じゃあ、他の住民たちも私久(わたひさ)みたいに?」

「いいや。やろうと思えばできるだろうが、あれだけが少し特別なのさ」


 特別……確かにそんな感じはしていたけど。


「確か3兄妹と言ってただろ。実際には元々1人だったんだ。それが3人にブレた。性別もブレた。それだけだ」

「修正はされなかったの?」

「赤ん坊のときにブレたからな。三つ子が生まれたようなものだ。それに最初の千年ほどで浄化自体は終わってる。ブレなど些細なことだ」

「浄化は終わっているの?」

「全ての魔素と毒素は結界で弾かれているからな。新たに入ってくることは無い」

「でも私は普通に通れたわよ」

「今は身体が元素化しているからだ。偽物だが、結界くらい騙せるだけの品質がある。さすがは――」

()りぇ(ごと)はその辺にしておけ。下準備はこりぇで終わりだ。後は星の半身を入りぇ替えりゅだけだ。儂の準備もまもなく終わりゅ」

「おお! 長きにわたる(りん)様の計画も、いよいよ成就されるのですね」

「まだ(よりょこ)ぶのは早い」


 大罪の娘の顔に喜びが見えません。寧ろ険しく感じます。

 モナカに抱っこされながら空を睨み付けている。空になにかあるのでしょうか。

次回、直せば行ける?

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