第190話 眼下の光景
では、私もタマに乗りましょう。半年前と違って、父さんの力を借りなくても乗れるようになりましたからね。
フワリと浮き上がり、タマの背中に簡単に乗った。
「痛い!」
「父さん? なにをしているのですか」
「鈴様が行かれるのに、父さんが行かないわけないだろ」
「だからといって、いきなり後ろから抱きつくことを許した覚えはありません」
「抱きついてなかったよね! なんで殴ったのかな!」
「殴っていません。たまたま伸ばした拳が顎に当たっただけです」
「那夜ー」
「あんまり騒がしくするようでしたら、また殴りますよ」
「やっぱり殴っ痛い!」
「五月蠅いですよ。静かにして下さい」
「殴らなく痛いって!」
「殴った方も痛いのですから、静かにしなさい」
「……だったら殴らなきゃいいじゃないか……」
「なにか言いましたか?」
「いいえなにも!」
「っはは。仲が良いですね。さすが親子だ」
「だろ!」
「勘弁して下さい」
「那ー夜ー」
全く。
あっ、アニカさんが火鳥さんに乗っているわ。まさか付いてくるつもりでしょうか。ナームコさんも天馬の鉄人形に乗っています。マズいですね。。
「2人はここに残っていて下さい」
「えっ。どうしてですか」
「魔法陣の中に入られると、魔素の身体のアニカさんは危険です。ナームコさんも、少なからず毒素に侵されていることでしょう。どうなるか分かりません」
「それは那夜さんも同じではないのですか」
「私は父さんが対策してくれたから問題ありません」
「那夜、今回は2人とも問題ない。よく見るんだ。もう魔法陣は消えて無くなっているだろ」
それは私も見て知っている。
「でも残滓は?」
「発動させたのは鈴様だぞ。その心配も無い」
「……そう」
私や父さんが発動させたときは魔法陣が残っていたし、残滓も沢山残っていて私は内側に入ることができなかった。魔法陣を構築したのは父さんなのに、発動者が変わるだけでここまで変わるものなの? 千年の研鑽の結果だとでもいうの?
結局、全員で見に行くことになった。ポチを先頭に穴の縁に向かって歩く。
近づくにつれ、穴から明かりが見えてきた。明かりは徐々に増えていき、縁に辿り着く頃にはかなりの明かりが灯っていた。でも明かりがあるのは手前だけ。奥の方は暗闇に包まれている。あちらはゲートの外側なのでしょう。
「ほう」
「明るいね」
「そうだな。鈴、みんな生きているのか?」
「っふふふふ。そのようだな。降りて確認すりゅぞ。ポチ!」
「「「がうっ!」」」
大罪の娘の合図でポチが穴に飛び込んだ。後を追うようにタマが続き、次いで火鳥さん、天馬と続いた。
自由落下というにはあまりにもゆっくりと降りていく。そして爪音を立てること無く、結界に着地した。結界も生きているようね。
都市が一望できるくらいには高さがある。
足下は居住区かしら。集合住宅が殆どで、一軒家は……離れたところに固まっているわね。
遠いところに破壊された施設が見えるわ。あそこが技術開発局なのでしょう。
となると、例の寮はあの辺…………さすがに人が見えるような距離ではない。足下ですら人が居るのは確認できるけど、顔までは見えない。
人が居る! 生きて動いている人間が居る! 大罪の娘が言っていたことは、嘘では無かった?
とにかく、生きている人を見つけられて、罪を重ねずに済んだとホッとした。
「っふっふっふっふ。素晴りゃしい。さすが常日頃から浄化を行っていりゅだけのことはありゅ。一切侵さりぇていないようだ。彼りゃなりゃば、共に地球に帰りゅ資格がありゅ。なんと喜ばしいことか!」
「彼らも祖先の地に帰れることを光栄に思うことでしょう」
「うむ」
常日頃から浄化? 特別なにかをしているようには感じませんでした。週一とかそのくらいでしょうか。それを常日頃といえるかは微妙ですけれど。
でもその技術があるのなら、技術提供してもらえるのなら、毒素に耐える日々が終わる?
次回、考えたことはありますか