第183話 本名
「俺たちの結論は、鈴に協力することで決まりました」
「本気ですか」
「はい」
「そう……本当に、バカなんだから……」
「え? なんですか?」
「なんでもありません。ありがとうございます」
「いいえ。エイルのためです。那夜さんのためではありません」
「……そうですか」
「それで、どうすればいいんですか?」
いつの間にか鈴は寝ていた。俺の腕の中でグッスリ寝ている。泣き疲れたのかな。体力は見た目どおりということか。
「鈴様がお目覚めになるまで待ちましょう」
「分かりました」
「それと、魔法陣の外側へ移動しよう。アトモス号だったかな。乗船させてもらえるだろうか」
「タイム、船員登録できるか?」
「乗せるの?」
「乗せないわけにはいかないだろ」
「仕方ないなぁ。オペレーター、お願い」
〝了解〟
オペレーター? また新しいのが出てきたのか。
……あれ?
「タイム、アトモス号は鈴とルイエで動かしていたんじゃないのか?」
「んと、ルイエならエイルの……那夜さんのところに行ったからアトモス号には居ないよ」
「那夜さんの? ルイエ、そうなのか?」
那夜さんに向かってそう尋ねると、那夜さんが左手を前に出した。
すると手首辺りから掌サイズのちょっと幼いエイル似の女の子が浮かび上がった。
「あ……はい。勝手に抜け出して済みませんでした」
あの女の子がルイエか。ははっ、エイルの妹っぽい。
「いいよ。多分タイムも同じことをするだろうし、ルイエを止められるわけないからな」
「もう、なに言ってるの!」
「っはは」
タイムはふくれっ面になりながらも、何処か嬉しそうだ。
「ルイエ、よかったな」
「……はい」
ん? ちょっとうつむき加減で、笑顔も微妙に寂しそうだな。
やっぱり本人が〝私は那夜よ〟って言っているから素直に喜べないのかも知れない。
〝済みません。登録に関して2・3質問を宜しいでしょうか〟
「ああ、構わないよ。なんだい?」
〝登録名は本名で宜しいでしょうか?〟
「え? 分かっちゃった?」
「はい」
「うーん。じゃあ〝那夜の父さん〟に変更しといて」
「了解」
いいのかそれ。というか、本名分かったのか……
『なあオペレーター』
『お答えできません』
『おい、俺はまだなにも言っていないぞ』
『業務上知り得た情報は、たとえマスターといえども開示できかねます』
チッ、先回りされてしまった。
〝それから那夜様、宜しいですか〟
「はい、なんでしょう」
〝登録名称の変更を致しますか?〟
名称変更! やっぱりエイルなんだな。
ん? 父さんをちょっと見詰めたかと思ったら、ため息を吐いたぞ。
「中州那夜でお願いします」
〝了解〟
中州っていうのか。それが前世の名前……だよな。
「五十三じゃないじゃん!」
タイムがなにか言っているな。五十三?
〝マスター、鈴様は如何致しますか〟
「良部鈴に変えてくれ」
〝了解〟
「マスター!」
「モナカ!」
「今は鈴じゃないんだ。またグズられても面倒だろ」
「なら、モナカも本名にしたら」
「俺は……本名を知らないんだからいいだろ。それに、タイムが変更したらどんな名前だろうと〝マスター〟になっちまうし」
〝申し訳ございません〟
「あ、いや! オペレーターを責めたわけじゃないから。ごめん」
〝いいえ、事実ですから〟
はぁー、失敗失敗。でもこれで登録が終わったな。
「では中州さん、乗って下さい」
「いやいや。父さんのことは今までどおり、父さんと呼んでほしいなー」
「と、父さん……ですか?」
「お前に娘はやらーん!」
「は?」
「父さん?!」
「っはっはっは。やっぱり一度は言ってみたいじゃないか。うん、モナカ君なら問題ない。娘を、那夜を幸せにしてやってくれ」
「父さん!」
「っはははは、はぁ」
疲れる。
「ポチ、タマ、ハウス!」
「「「がう?!」」」
「にゃ?!」
え、あれって白虎……虎だよな。
タマ? 猫かよ。
「いや、お前たち乗れないだろ」
「「「がう……」」」
「にゃあ……」
あ、消えた。
え、ポチ? 何処に行ったんだ?
え、あれ?
「よし、では乗せてもらおうか」
「あ……え?」
「はぁ……モナカさん、安心して下さい。ちゃんとポチも一緒に行きますから」
「本当に?」
「本当です。そうよね、父さん」
「ああ。何処に居ても直ぐ呼び出せるからな。そういう意味ではいつも一緒だ」
「そうですか。ほっ。あ、そうだ。オペレーター、タラップを降ろしてくれ」
〝了解〟
次回、おまいう