第182話 伸るか反るか
「マスター、惑わされないで下さい。見た目は鈴ちゃんでも、中身はイーブリンなんですよ」
「分かっているよ。分かっているけど……」
「モナカ、子供を躾けるのも親の仕事よ」
「それは心を鬼にして戦えということか?」
「必要なことでしょ」
「みんなもそのつもりなのか?」
「ボクは戦いたくはないけど、止めさせたいと思う」
「わたくしは兄様に従うのでございます」
うん、予想どおりの答えだな。でも、俺だけウダウダ考えていても仕方がない。腹を決めるかー。
「鈴、やってしまったことは仕方がない。今更どうこう言うつもりはない。でもな、もう止めにしなさい」
「パパ?」
「確かに星を元の姿に戻すのはパパの願いだ」
……でいいんだよな。
「でも、大勢の人を犠牲にするのはよくないぞ」
「モナカ君は私たちと敵対する……というのかな」
「いえ、そんなつもりは……」
「パパは鈴のやりゅことが悪いことだって言うの? パパのためにやってきたんだよ。喜んでくりぇないの?」
「気持ちは嬉しいよ。でもな、それでも人を犠牲にするのはよくないぞ」
「パパだって同じことしようとしてたでしょ! どうしたら守人を救えりゅかを考えてたじゃない」
守人を救う?!
あれ? 確か父さんは守人は敵だって言っていなかったか。
その敵を救うことを考えていた?
「方法は1つ。星を元の姿に戻すこと。それを実現すりゅために魔法を研究したんでしょ。なのに世界は……そんなパパを……うう…………」
「鈴……」
「パパ? ありぇ? パパが居りゅ……なんで? パパは殺さりぇたはずじゃ……」
殺された?!
誰に……って、守人にだよな。
救おうとしている人たちに殺されたんだとしたら、悲しいよな。だから敵なのか。
「む、いかんな。また不安定になってきている。モナカ君、なんとかするんだ」
「なんとかって……」
雑だなぁ。
『マスター、放っておこうよ』
『そうよ。力を貸す必要ないわ』
そうは言うけどな……はぁ。
「鈴、パパは生きているぞ」
「マスター!」
「モナカ!」
「ひっ」
「ママ、そう大きな声を出すな。鈴が怖がっているじゃないか。おーよしよし。怖くないぞー」
「モナカっ」
「俺は那夜さんの味方だ。那夜さんを信じる。ただそれだけだ」
「だからって……」
「私の話を信じるなら、今すぐ千年ババアを置いて帰って下さい」
まぁ、そう言うよな。でもそれじゃ見捨てるだけだ。それに……
「ここで帰ったらエイルは帰ってこないんだろ。それに那夜さんはなんだかんだ言っても鈴の味方なんですよね」
「っ、それは……」
「なら、俺も鈴の味方です。だって、俺は鈴のパパなんですから」
「マスター……」
「モナカ……はぁ」
「貴方はバカなんですか」
「それはエイルがよく知っています。聞いていませんか」
「……聞いているわ」
「それはよかった」
「ここに住んでいる何万という人間を殺すことに加担するというのですか」
「死なないんですよね」
「千年ババアの言うことを信じるのですか」
なら、もっと信用が置けるヤツの言うことならいいんだよな。
「ナームコ、どうなんだ?」
「わたくしには――」
「見た範囲だけでいいぞ」
「……結界の中において、私久という男を除いて、魔素も毒素も感知できなかったのでございます」
「私久……俺を捕まえたヤツか」
「左様でございます。ですが、エイル様やわたくしたちが関わった方々がどうかまでは分かりかねるのでございます」
「俺たちが関わった人たち……か」
「兄様やタイム様と関わった方々は問題ないのでございます。一番の問題は、デイビー様と関わった方々なのでございます」
なんでそれが一番の問題になるんだ? ゲートでちょこっと話しただけだろ。捕まった後になにかあったのか?
関わった人たちというと、エイルの方は分からないが、俺たちは警備員とあの建物の数人か。
私久が影響を受けたのは俺の所為? だとすれば、因果応報で済ませてしまいそうになる。
『モナカ、多分私たちが関わった人たちは全滅に近いと思うわ』
『全滅? おいおい、穏やかじゃないな』
『私久さんがやったのよ』
『私久が?』
『ええ。後はエイルさんが関わった人だけど』
『多分大丈夫だと思うよ』
『どうしてそう思うんだ?』
『んとね、デイビーさんの腕が崩れたのを覚えてる?』
『あー、入り口のところでやった実験か』
『そうそれ。で、タイムが止まったからデイビーさんの保護膜も無くなって全身がああなったの』
『なに?! ……そういえば姿が見えないな。まさか!』
『ううん。スライム状になったけど生きてるよ』
『スライム状?!』
『今はアトモス号の中で待機してるよ。で、ここからが本題。エイルさんはスライムになってなかったんだよ。代わりにあの姿になってるけど。多分そのお陰でスライム状にならなかったんだよ』
『なるほど』
そう考えれば姿が変わったことも説明が付くのか。魔法で? ま、それは後で本人に聞くとするか。
『だから周りに影響を与えてないんじゃないかな』
『分かった』
なら遠慮せず今回に限っては協力できそうだな。
次回、バラしちゃやぁよ