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第180話 本当に覚えておかなければいけない光景

 鈴ちゃんの……大罪の娘のお世話?


「もう父さんには限界なんだ。なあ頼まれてくれないかな。イーブリン様のお守り」

「ひぃーん」


 まだ泣いていたんですか?

 あれは演技だと思っていたのだけど、違ったのでしょうか。


「え、えーと……(すず)のお守りですか?」

「申し訳ないが、せめて(りん)様とお呼びして頂けないだろうか」

(りん)……ですか?」

「頼む! いや、お願いします。事が終わったらこの身体は(すず)ちゃんにあげるから」

「どういうことですか? やっぱり(すず)の身体をイーブリンが乗っ取っているってことですか」

「事が終わればこの身体は要らなくなるという話だ。モナカ君たちが必要としないのであれば、廃棄するだけだ」

「廃棄!」

「イーブリン様も仰っていたが、この身体はホムンクルス、つまり人造人間だ。そして(すず)ちゃんはいわば慣らし運転のドライバーだ」

「慣らし運転?」

「慣らし運転が終わったら、本来使う者に明け渡すのは当たり前だろう」

「それがイーブリンだと」

「そうだ。だが時間が無かった。そのためにこのような不具合が起こっている」

「なんの時間ですか?」

「こんなことなら時間が掛かっても完全フォーマットしておけばよかった」

「なんの時間ですか?」

「悪い話じゃ無いと思うんだ」


 答えないのですね。

 確かここが最後の浄化地点でした。なのに時間が無い。そしてそれは話せない。

 大罪の娘(本体)の寿命が近いとかでしょうか。


「事が終われば(すず)ちゃんの身体が戻ってくる。エイルちゃんも家に帰れる。な?」


 モナカさん? なにを考え込んでいるのですか。断る以外の選択肢なんてありませんよ。


「本当ですか?」


 まさか父さんの提案を受け入れるというのですか。


「ああ。嘘は()かない」


 考え込む必要なんてありません。その子は既に(すず)ちゃんではないのですから。

 それについ先程嘘を()いたばかりの父さんの言葉を信じるというのですか。


(りん)、おいで」

「マスター?!」

「モナカ!」


 モナカさん?!


「う、ぐす……パ……パ?」

「ああ、パパだ。おいで」

「信じるのですか?」

「パパ!」

「おーよしよし」

「イーブリン様が泣き止まれた!」


 いくら(すず)ちゃんの記憶が混ざっているからとはいえ、その反応はおかしいわ。

 記憶の整合性を確認・修正しないつもりですか?

 そのくらいでしたら、大罪の娘なら簡単にできるはずです。


「ほーら、ママだぞ」

「ちょっ、モナカ?!」


 時子さんまで巻き込むつもりですか!


「ママ!」

「ほら」

「あ……うん。(りん)、元気?」

「うんっ!」


 本当に(すず)さんではないの? あれで大罪の娘だというんですか?

 こうなるととてもそんな風には見えません。


「父さん、私、分からなくなってきたわ」

「それだけ(すず)ちゃんの記憶が色濃く残っていたということだ」

「千年ババアなら簡単に修正できるのですよね。何故しないのか理解できません」

「システムの奥底までこびりついてしまったからな。不可能だろう」

「それこそ初期化して再インストールすればいいだけだと思います」

「その時間が惜しいのだ」

「千年ババアの寿命が尽きるからですか?」

「いいや。寿命が尽きるのはイーブリン様ではない」


 大罪の娘ではない? でもその言い方だと別の誰かの寿命が尽きるということでしょうか。


「誰の寿命が尽きるのですか?」

「ふむ。それはな………………」

「えっ?! 嘘ですよね」

「だとよかったんだがな。もう限界が近い。だから急ぐ必要があるんだ」

「具体的には後どれくらいですか?」

「持って半年。早ければ明日にもという状況だ。使えば使うほど寿命が短くなるのはなんでも同じだろ」

「なんとかならないんですか」

「誤魔化し誤魔化しなんとかしてきたみたいだが、もう限界だ。あの姿をよく覚えておきなさい。後暫くすれば見られなくなるのだから」


 あの姿。モナカさんが(すず)ちゃんを抱っこしているこの風景が見られなくなる?


「時子! 手」

「え? あ、うん」


 時子さんがモナカさんの手を握った。見慣れた光景だけど、今タイムさんは少し焦った感じで時子さんに手を繋ぐように促したような気がするわ。

 そういえばモナカさんが起きてから時子さんと手を繋いでいなかったわね。大した時間が経っていなかったけれど、もうバッテリーが切れかかったのかしら。随分とバッテリーが弱ったみたいね。

 時間が無い……か。どっちにしても、本当に見られなくなるのかも知れないわ。


「ところで、那夜(なよ)はそんな喋り方だったか?」

「突然ですね。はい、初めからこうでしたよ。娘の話し方も忘れてしまったのですか?」

「いや、もっとこう親しみやすかったと思うんだが……」

「ああ、そういうことですか。今世の癖が抜けていなかっただけです。それに前世のニオーネ語ならこちらの方が話しやすいですから」

「そ、そうか。ならいいんだが……」

「はい。ですので、お気になさらず」


 モナカさんのバッテリーか。新品と交換できればいいのですが。

次回、協力しなくていい

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