第179話 エイルと那夜
「だからエイル、俺たちと一緒に帰ろう」
「……出来ないわ」
「どうして!」
「ここで帰ったら、一さんたちが無駄死にになるわ。ただ殺しただけで終わってしまうわ。そうしないためにも、私は帰ることなんてできないの」
(帰るのはうちなのよ。貴方の帰るべき場所のよ、前世の家なのよ)
分かっているわよ。
(分かってないのよ)
少し黙ってて!
「エイル? どうかした――」
「私は那夜よ! いい加減にしてっ」
「…………分かった」
……え?
あれ?
私……
今……
なにを……
なにが分かったって?
「では那夜さん、一さんたちを無駄死にさせないためにはどうしたらいいですか?」
「マスター?!」
え?
那夜……さん?
モナカ?
……えっ。
「那夜さん? どうかしましたか?」
「……え?」
モナカは誰を呼んでいるの?
私は――
(那夜なのよ)
あ……
そう。
そうね。
そう……だったわ。
モナカが呼んでいるのは……私か。
「いえ。なんでもありません。無駄死にさせないためにも、私はやり続けなければなりません」
「浄化をってことですか?」
「はい。この下にある魔科学都市マジャンマカも同様に浄化いたします」
「この下……ですか」
「はい」
「……手伝えることはありますか?」
「マスター?!」
「モナカ、なに言っているか分かっているの?」
「なんだよ。お前らは……那夜さんを手伝ってあげないのか?」
「マスターこそなに言ってるの。あの人は――」
「那夜さんだ。これから……マジャン……なんとかって都市を皆殺しにするのは那夜さんだ」
(そうのよ。うちが殺すわけじゃないのよ)
ええ。殺すのは私です。貴方は誰も殺してはいません。
「そんな屁理屈が通用するわけないでしょ!」
「屁理屈も理屈だ!」
「マスター……分かったよぉ」
「時子も、みんなもそういうことだ。いいな」
「分かったわ」
「うん」
「存じたのでございます」
「でもいいの?」
「なにがだ?」
「マジャンマカの人たちを皆殺しにすることに手を貸すってことなんだよ」
「わ……分かっている」
「散々避けてきた人殺しをするっていうことなんだよ」
「…………分かっている」
「分かってないよっ!」
「分かっているって言っているだろっ」
「エイル――」
「〝那夜さん〟だ」
「う……那夜さんはそれでいいの? マスターに人殺しをさせるつもり?」
「させるつもりはありません」
「那夜さん?!」
「そもそも魔力を持たない貴方では私たちに協力すること自体不可能です」
「あ……それは……」
「だからタイムさん、安心して下さい」
「あ…………はい」
「お気持ちだけ頂きます。ありがとうございます」
「私は? 魔法は使えるわよ」
「時子、余計なこと言わないの!」
「モナカが出来ないなら、お姉ちゃんが無理なら、私がやるしかないでしょ」
「ボクだっています!」
「わたくしもご助力させて頂きとうございます」
「貴方たち…………」
「那夜、モナカ君に出来ることがあるぞ」
「父さん?」
「えっ、本当ですか?」
「ああ、むしろモナカ君にしか出来ない重要なことだ」
そんなこと、あるはずありません。モナカさんは魔力が無いんですから。
なのにモナカさんにしか出来ない重要なことがある? 一体なんだというのでしょう。
(分からないのよ?)
エイルは分かるのですか?
(分かるのよ)
それはなんですか?
(それはのよ)
「モナカ君」
「はい!」
(鈴ちゃんのお世話なのよ)
「イーブリン様のお守りを頼めるかな」
……え?
「……はい?」
「うえーん」
次回、誰のこと?