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第178話 細かくないわよっ

「言葉どおりよ。村ごと、地下都市ごと、森も、なにもかも、全てを、葬り去ったのよ。この手で、私の描いた魔法陣で、1人残らず、1本残らず、浄化したのよ」

「浄化?」

「そうよ。毒素や魔素を全て消し去り、元素だけの綺麗な状態にしたの。だから毒素に侵された、魔素の混じった、物や、動物、人間は、元素を残して、全て消滅したわ」

「あれはエイル様の仕業でございましたか」

「ナームコ、どういうことだ」

「兄様、アトモス号で訪れた場所で巨大な穴が開いていたことがあったのを覚えておいででございますか」

「巨大な穴? ああ、あったな」


 えっ、あの跡地を見られていたの?


「あの穴は毒素や魔素を取り除いた跡地なのでございます」

「はあ?!」

「あの穴の底には、元素の大地があるのでございます」

「そんなこと聞いてないぞ」

「今初めて申し上げたのでございます」

「なんで言わなかった!」

「そ、それは…………スズ様に、口止めされていたからでございます」

「鈴に?!」

「左様でございます。いえ、おそらくはスズ様ではなく、イーブリン様だと存じるのでございます」

「イーブリン〝様〟ね」

「あ、いえ、これはその……」

「分かっている。で? 鈴がナームコに口止めした理由はなんだ? 今になってバラしたのはなんでだ」

「口止めの理由は分からないのでございます。今になって話したのは、スズ様ではなくイーブリン様だったと発覚したからでございます」

「鈴は鈴だ。イーブリンなんかじゃない」

「兄様……」

「つまり、あの大穴がエイルの仕業なら、今言ったことも本当のことだって言いたいんだな」

「左様でございます」

「浄化したっていうなら、殺していないんだよな」

「バカね。毒素に依存している生き物が、魔素に依存している生き物が、それらが無くなって生きていけると思うの」

「そんなこと、分からないだろっ」

「モナカ、あのことを忘れたの?」

「あのこと?」

「ほら、私が魔人を解毒したのを忘れたの?」


 魔人を解毒?! 時子は魔人を解毒することが出来るの?


「あ、ああ。あれか……」

「あれってつまり毒素を浄化したってことと同じよね。その結果あの人がどうなったか忘れたの?」


 あの人?


「そう……だったな。あれがもし生きている人間で起こったとしたら、生きていられるわけないよな」

「私もそう思うわ」

「時子は、魔人を解毒できるの?」

「ごめんなさい。私の解毒は生きているものには効かないの。それに効いたとしても、殺すことになると思うわ。多分エイルさんがしたことと同じように。ごめんなさい。私ではデニスさんを助けられなかったの」

「あ……べっ、別にデニスさんのことだなんて、一言も言っていないわよ」


 今更なにを聞いているのかしら。バカみたい……


「エイル、本当に(はじめ)さんたち地上民(オバグラ)の人たちや、ニジェールさんたち地下民(アングラ)の人たちを殺したのか」

「ええ」

「そうか……」

「だからもう私のことは忘れて。エイルなんてもう居ないのよ」

「真琴さんは魔人に殺されたよ」

「……え?」


 真琴さんが魔人に? それって父さん……デニスさんと一緒に結界外調査に行った仲間ってことよね。


「それに俺たちも地上民(オバグラ)の人たちを沢山殺した」

「…………え?」


 今……〝殺した〟って、言った?


「モナカ君! 地上民(オバグラ)の人たちを殺したのは――」

「俺たちだ! 異論は認めない」

「モナカ君……」

「ど、どういうこと? モナカたちが地上民(オバグラ)の人たちを殺す理由なんて無いでしょ」

「……あった」

「はあ?! う、嘘()くんじゃないわよっ。モナカに人が殺せるわけないでしょっ」

「モナカ君は嘘を吐いてないよ」

「なんで父さんがそんなこと言えるのよっ」

「モナカ君たちが地上民(オバグラ)の人たちを殺すところを見てたからな」

「は? あの後ずっと私と一緒に居たでしょ。そんな暇無かったでしょ」

「そうだな。だが()(よう)はいくらでもある。あの場を見ていたのが父さんである必要は無いんだ」

「なによ、それ。また千年ババアに教えてもらったとかなの?」

「まぁ……それでも差し支えない」


 それでもって……こういうところははぐらかすわね。

 でも父さんである必要が無い。鈴ちゃんが……大罪の娘が見ていたってことなのよね。


「モナカ……嘘……だよね」

「……本当だ」

地上民(オバグラ)だけで数えるなら、那夜(なよ)よりモナカ君たちの方が殺してるぞ」

「嘘だっ!」

「嘘ではない。事実だ」

「なら、どんな理由があったっていうのよっ!」

「理由……か」

「そうよっ」

「俺が話せばエイルも話してくれるんだな」

「えっ」

「殺した理由だよ。まさか俺にだけ聞いて自分はだんまりなんてこと、しないよな」

「私の……理由……は…………父さんを……母さんに会わせるためよ」


 なんて言って、納得なんてしてくれないよね。


「俺たちの理由は、地上民(オバグラ)の人たちが俺たちに対して敵意を持っていたからだ」


 えっ、納得したっていうの? 深く聞いてこないの? モナカたちは私の自分勝手な理由と違うのに、納得しちゃうの? 納得して自分たちの理由を話しちゃうの?

 敵意……確かに地上民(オバグラ)の人たちはずっと私たちを警戒していたわ。


(違うのよ。警戒されていたのはうちたちなのよ。貴方は違うのよ)


 う、五月蠅いっ。


「分かったか。エイルが人を殺したからって、俺たちはお前を責められる立場じゃない」

「理由が違いすぎるわっ」


 私は敵意を向けられていなくても、殺したのよ。大勢の人たちを殺したのよ。そしてここの人たちも……


「〝殺した〟という事実に変わりはない。理由なんて些細な問題だ」

「些細じゃないよっ」

「些細だよ」


 なんで真っ直ぐ私を見つめてそんなことが言えるのよ。全然些細じゃない。そんなこと、誰が聞いたって分かることよ。


「エイルがいつも言っているだろ?」

「……なにをよ」

「細かいことを気にする女は男にモテないぞ」

「細かくないわよっ」


 本当にバカなんだから……もう。バカッ。

 ああ、イヤね。歳を取ると涙腺が弱くなって。

次回、モナカにしか出来ないこと

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