第176話 召喚されし者、巻き込まれし者
「どうやら、否定はしなかったみたいだね」
「用があるのはその3人なんですよね。なら巻き込まれた……」
巻き込まれた?
「ううっ」
どうしたのかしら。口を噤んだわね。でもなにか言いたそうにしている。
「なんで言ったらダメなのよっ!」
また天に向かって文句を言っているわ。やっぱりそこに〝天の声〟が、〝管理者〟が居るのね。
「だって巻き込まれたのは……」
巻き込まれたのは?
「うーっ!」
なるほど。〝口さえ開けない〟って、こういうことね。
アニカさんに召喚された時子のことかしら。それって言えないようなこと?
「ふーん。それは言えないんだね。なら、代わりに父さんが言ってあげようか?」
「知っているんですか?!」
「勿論だとも」
父さんは一体何処まで知っているというの? 情報源はあいつだろうけど、ならあいつはどうやって知り得たというの……
「その人の名前はね」
誰!
「結構ですっ!」
え?
「いいのかい?」
「貴方が本当のことを言うとは限りません。嘘を言われてもなにを言われても、タイムはそれを否定も肯定もできませんから」
「なるほど。賢明な判断だね」
「褒められても嬉しくありませんっ」
「ええー……」
たった今嘘を吐いた相手は信じられないのも当たり前か。
どうして父さんはつまらない嘘を吐いたのかしら。
それはともかく。
「でも1つだけ分かったことがあるわ」
「なにが分かったの?」
「貴方も全てを知っているってことよ。そうなんでしょ?」
「それは…………」
「そうなのか?」
「マスター!」
「モナカ! 大丈夫なの?」
いきなり現れないでほしいわ。確かポチをブラッシングしていたんじゃなかったの?
「え? なにが?」
なにがじゃないわよ。
「なにがって……お姉ちゃん、どうなっているの?」
「マスターはポチさんをブラッシングしたことによって精神的な不安が取り除かれて元気になったわ」
「マスター……」
「モナカ……」
「モナカ君……」
「兄様……わたくしもブラッシングしてほしいのでございます」
ど、何処までもモナカはモナカね。
呆れるくらいモナカだわ。
うわぁ……しかもポチの毛並みがツヤッツヤになっているじゃない。
この短時間で全身のブラッシングをしたの?!
だとしても、ただブラッシングしただけでこうもツヤッツヤになるものかしら。
それと比べてタマは……はぁ。可哀想になってくるわ。
「なんの話だ?」
「フブキさんがヤキモチ焼かなければいいなって話よ」
「なに?! ごめんよ! 今直ぐブラッシング――」
「しなくても大丈夫だから!」
「本当に? 本当に本当か?」
この状況ですら大切なのはそっちなのね。分かっていることだけど、懐かしく感じてしまうわ。
「本当よ。ナースを信じて」
「……分かった。信じるよ。信じるけど、それとこれとは別だ。タイム、どうなんだ?」
「鈴ちゃんのことは知らなかったの、本当だよ」
「他のことは知っていたってことか」
「…………その質問には答えられないの」
「禁止事項ってヤツか」
「禁止事項が〝他のこと〟にも含まれているから」
「そっか……なら言わなくていい。言おうとしなくていい。集められたってことは転生してきたヤツってことだよな。となると、俺とエイルとアニカの3人で決まりだ」
やっぱりモナカも同じ考えなのね。
「で、時子が巻き込まれた者。そうなんですよね」
それも言うのね。
ああ、ほら。アニカさんが俯いてしまったわ。
「タイムちゃんに口止めされてるからな。父さんも黙秘します」
「律儀ですね」
「言っただろ。父さんたちはモナカ君たちの敵ではない」
「でも味方でもない。違いますか?」
「いいや、そのとおりだ。今はまだ敵ではない、といったところかな。場合によっては敵になる。そう思ってもらって構わない」
「それはエイルも……ってことですよね」
「いや、エイルちゃんは君たちの仲間だ。でも、那夜は……どうかな」
「エイル?」
「わ、私は……」
次回、エイルではなくマスター