第175話 同じような存在
「エイルさん」
「時子? なんの用」
「ふふっ、否定しないんですね」
「五月蠅いっ、用が無いならさっさと帰りなさい」
「エイルさんも連れて、ね」
「私は帰らないわよ」
「っふふ」
「なんなのよ、気持ち悪いわね」
「ううん、なんでもない。ね、鈴のこと、どう思う?」
「鈴ちゃん?」
「やっぱり私には鈴がイーブリンだなんて思えないの」
「そうね。あの様子を見る限りは。でも間違いなくあいつは鈴ちゃんじゃなくて大罪の娘よ」
「大罪の娘?」
「親が大罪を犯したの。その娘だから大罪の娘」
「親が大罪を犯したからってその娘まで大罪呼ばわりはないんじゃない?」
「娘も同じ大罪を犯しているのよ。タイム、貴方なら分かるでしょ。あれが鈴ちゃんじゃなくて大罪の娘だって。あのキューブが鈴ちゃんだって」
「お姉ちゃん?」
「エイルの言うとおりよ」
「ならなんで〝ナーム叔母さん〟とか〝タイム伯母さん〟なんて言うのよ。モナカのことだって〝パパ〟って呼んでいるわ」
「それはクイックフォーマットだったからだろう」
「うえーん」
「ああっ、よしよし」
「父さん?!」
大罪の娘を抱っこしてあやしている。
……見る影もないわね。完全にただの子供だわ。
「ポチさん?」
「違う! 父さんは那夜の父さん! ポチはケルベロスの名前!」
「うわーん」
「あーごめんごめん。怒鳴ったら怖いよねー」
「五月蠅いわね。細かいことを気にする男は女にモテないわよ」
「細か! ……くない……」
なに大罪の娘に気なんか遣っているのよ。
「あの、どういうことですか?」
「ああ。クイックフォーマットっていうのは、管理領域だけ初期化したってことよ」
「管理領域?」
「あー、目次だけ消して中身はそのままってこと! 目次が無いとなにが何処にあるか分からなくなるけど、読もうと思えば読めるでしょ」
「う、うん。それはどういうことなの?」
「つまり鈴ちゃんとしての記憶は消されることなくしっかり残っているけど、関連付けがされていない状態だったのよ。それがなんらかの原因で復活したか、単純に記憶を読んだんじゃないかしら」
「えーと。記憶が戻ったってこと?」
「違うけど、違いは無いわ」
「ええ? 違うの? 違わないの?」
「どっちでもいいわよ」
「いいの?!」
「いいの!」
「なかなかいい予想だ。たった一言でそこまで読めたのはさすが我が娘ってところか」
「なによ。間違っているならハッキリ言いなさいよ」
「いや、大筋は合ってる。後は些細な問題だ。そして一番の問題はそれが正常な記憶として存在するということだ」
正常な記憶として存在している? それで記憶の混濁とは違う感じになっているのね。
ただそうなると……
「1つ、気になることがあるわ」
「なんだ?」
「千年ババアも鈴ちゃんと同じA.I.なの?」
「良い質問だ。確かにA.I.ではあるが、存在としてはそこのお嬢さんとほぼ同じだ」
そこの? タイムのこと? 同じってどういうことかしら。
「それはつまり時子が居るってことですか?」
「え、私?」
時子さん?
「っはは。自分で言っちゃっていいの?」
「問題ありません。マズければ口を開くことすら出来ませんので」
「へぇ。なるほどね。タイムちゃんの言うとおり、居られるよ」
「そうですか……」
「私が居るってどういう意味?」
「えっと……双子の姉妹が居るってことよ」
「そうなの?」
「っはっは。なるほど。そういうことなんだ」
どういうことよ。
「違うの?」
「そうだな。ここに居るイーブリン様は双子の妹……と思ってもらって構わない。で、いいかな?」
「お気遣い、ありがとうございます」
「いいって。父さんも話をややこしくしたくないからね。一応断っておくけど、ここに居られるのは妹御だけど、立場的にはタイムちゃんと同じだからね」
父さんは時子とタイムの関係性も知っているってこと?
やっぱり大罪の娘に教えられたのかな。
「それこそタイムに話してもいいことなんですか?」
「勿論だとも。イーブリン様も含めて父さんたちは君たちの敵ではないからね」
「そうなんですか?」
「ああ。父さんたちの敵は、守人だからね」
「守人?」
「おや? 那夜から聞いてないのかい?」
「話していないわ」
「どうして話してないんだ?」
「彼らには関係の無いことよ」
「無関係では無いぞ。那夜を含めて君たち3人は守人と戦うためにこの世界に集められたのだから」
タイムが急になにも無い空を見上げたわ。そしてジッと見つめている。
もしかして管理者がそこに居るの?
「天の声は〝違う〟って言ってますけど?」
「っはは。なんだ聞かれちゃったのか。残念。でもそいつが3人をこの世界に集めたのは本当さ」
私を含めて3人……
確か私とアニカさんは死んで転生してきたのよね。で、モナカは死んで新しい身体を貰って転移してきた。この3人か。
タイムはモナカのサポートA.I.だから1人として数えない。時子さんはアニカさんが召喚したから違うはず。ナームコさんは毒素調査のために、この世界へ転移してきた調査団の1人。そして唯一の生き残り。デイビーさんは中央省の人間で、〝集められた〟というには弱い。
やっぱり私・モナカ・アニカさんの3人でいいみたい。
でも、どうして父さんはあいつの存在を知っているの? 私と違って転生なんてしていないのに……
次回、3人は誰?