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第170話 正真正銘人間です

 あれ? なにか止まったの?

 …………んー、特に停止したアプリは無いみたい?

 起動ログを見ても一致するものが見当たらない。システムに支障は無さそうだけど……

 あっ、そんなことより。


『マスター!』

『タイムか。起きたんだな』

『うん。ごめんなさい。タイムが力不足でした』

『いや、力不足は俺の方だ』

『そんなことない』

『状況はどうなっている?』

『あ、うん。驚かないで聞いてほしいんだけど、鈴ちゃんがイーブリンだったみたい』

『それは俺もさっき聞こえていたから知っている。でも、どういうことだか分かるか?』

『ごめんなさい。タイムには分かりません。ただ、以前会ったイーブリンは鈴ちゃんじゃなかったよ』

『以前会った? 何処で?』

『忘れちゃったの? レイモンドさんを連れ去ったヤツだよ』

『ああっ! そうか。何処かで聞いた名だと思ったけど、あのときの女か』

『うん。だから、もしかしたら鈴ちゃんの身体を乗っ取ってるのかも』

『なるほど。どうにかして追い出せないかな』

『魔法的なことだと、タイムたちにはどうにも出来ないよ』

『科学的だと?』

『洗脳されて自分をイーブリンだと思い込まされてるって感じかな。そうなると記憶を取り戻させるしかないわ。後は……』

『後は?』

『本当に鈴ちゃんがイーブリンだった場合は、どうにもならないってこと』

『まさか!』

『可能性はゼロじゃないの』

『そうか……』


 むしろそうで無い可能性の方がゼロ……なんて言えないよ。


『なんにしても、エイルには聞かなきゃならないことがある』

『マスター……あんまり追い詰めちゃダメだよ』

『そんなことしないさ』

『うん』

『とにかく、行動あるのみ。起き上がるぞ』

『無茶はダメよ。応急手当はしたけど、本来なら安静にしていなきゃいけないのよ』

ナース(タイム)……それでも、俺にはやらなきゃならないことがあるんだ』


 そうだよね。タイムたちには無理だったけど、マスターなら……マスターなら説得して連れて帰れる! ……よね。


「エイル、久し振りだな」

「?! モナカ! 動けるの?」

「ああ、なんとか立てるようになった」

「そう……よかった……」


 〝エイルじゃない〟って、否定しないんだ。


「ほう。やっと意識を取り戻したか」

「鈴! ……鈴……だよな」

「残念だが良部(よしべ)鈴という人間は存在しない」

「な……どういう意味だ」

「そのままの意味だ。この身体(かりゃだ)は儂が使うために作ったホムンクリュスだよ」

「使うため?」

良部(よしべ)鈴は、いわばA.I.のようなものだ」


 鈴ちゃんが人工知能?! タイムと同じ……? まさか、そんなこと……


『どういうことだ? 鈴ちゃんは人間……だよな』

『ええ。鈴ちゃんは混じりっけのない、生身の身体よ。ナース(タイム)が保証するわ』

『だよな』


 そう。鈴ちゃんはマスターみたいなアンドロイドじゃない。正真正銘、生身の人間だ。なのに人工知能?


「儂が使うまでの間、良部(よしべ)鈴に身体(かりゃだ)の稼働試験をさせておっただけよ」

「稼働試験?!」

「ああ。お陰で色々不具合が分かって助かった。ナーム叔母さんよ、よくやってくりぇた」

「はあ?!」

「ナームコさん?!」

「ど、どういうこと?」


 ナームコさんが?! というか、〝ナーム叔母さん〟?


「いえ、その……わたくしは……」

「俺たちを騙していたのか」

「騙してなんていないのでございます。変な言い掛かりは止めてほしいのでございます」

「言い掛かりではない。それはナーム叔母さんがよく分かっていりゅだりょ」

「そ、それは……」

「ナームコ?」

「確かにスズ様の身体のメンテナンスをしていたことは認めるのでございます。ですが、わたくしは決して裏切ってなどいないのでございます」


 鈴ちゃんのメンテ!

 そっか。だから鈴ちゃんはいつもナームコさんについて行ってたんだ。


「感謝しておりゅのだぞ。ナーム叔母さんが居なけりぇば、この身体(かりゃだ)は疾っくに崩壊しておったかりゃの。大義であった」

「滅相もないのでございます」

「ナームコ?! やっぱりそういうことだったのか!」

「違うのでございます。これは、身体が勝手に――」

「言い訳は見苦しいぞ!」

「兄様っ!」

「俺は兄様なんかじゃないっ!」

「兄様……わたくしは……兄様をお慕いしているのでございます」

「兄様じゃなくて、お兄様を……だろ」

「兄様…………そんな悲しいことを仰らないでほしいのでございます」

「っはっはっはっは。虐めてやりゅな。ナーム叔母さんは儂に仕えておりゅのではない。逆りゃえぬだけだ」

「そ、そうなのでございます。何故か言われたとおりにしてしまうのでございます」

「それを信じろと?」

「パパは鈴の言うこと、信じてくりぇないの?」

「鈴! そんなことないぞ。鈴がパパに嘘なんか吐くわけ――」

「っはっはっはっは。親馬鹿というのか。簡単に騙さりぇおって、(おりょ)かだのお」

「鈴! 今助けてやるからな。イーブリン! 鈴の身体から出て行けっ」

「ふっ、出て行ったのは鈴の方だ。ほりぇ、こりぇがお前たちが鈴と呼ぶものの姿だ」


 鈴ちゃんが……いえ、イーブリンが自分の頭に手を突っ込むと、小さなキューブ状のものを取り出して見せた。

次回、謝って欲しいわけじゃない

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