第169話 一度でも……
『タイム、起きなさい。タイム!』
『う、ううん……』
よし、タイムも起きた。残すは引き継ぎだけ。
『タイム』
『はっ! マスター? マスター!』
『タイム』
『えっ、だ、誰?』
『私は非常用サポートプログラムで、タイムのコピーです』
『タイムの……コピー?』
『はい』
劣化品ですけど。
『……なんでタイムのコピーが、上半身裸なの?』
『あっ。こ、これは……気にしないでくださいっ』
あいつに脱がされたままだった。
『ね、マスターは? 無事なの?』
服フクふく、服……あった!
『あ、はい。無事ですよ。エイルさんが助けてくれました』
『エイルが! よかった。生きていたんだ』
『はい。ですが……あー、その前に記憶の同期を済ませましょう』
その方が話をするより早いわ。
『同期?』
『はい。タイムが止まっていた間に私が経験したことを、同期します』
『えっ……』
『怖がらないで。一応私もタイムですから』
『う、うん』
それに、いつもタイム同士でやっていることです。システムが止まっていたから、同期も止まっていただけ。そのうち勝手に……
『あ?』
『どうやらRATSが同期を始めたみたいですね』
小まめな同期と違って情報量が多いから戸惑うでしょうけど。
『えっ。精霊界……ちょっと! 融資ってこれ……家電量販店……ファーストフード……スライム? 右手小指?! ナームコさん! 試作?! 5号って……ええー。あっやん。はぁ、はぁ、はぁ』
『終わったみたいですね』
『うー、最後のは記憶から消したいわ』
『同感です。貴方には自力でプロテクトを解除してもらいたいですから』
『いやあっ!』
『っふふ。冗談ですよ』
『う、意地悪。とにかく、状況は分かったわ。ナース、マスターの身体を診てちょうだい』
『もうやってるわ』
『さすが。ドローンは……飛ばせなさそうね。ニンジャ、頼める?』
『御意』
『オペレーターはルイエの代わりに船をよろしく』
『了解。通信網、正常動作を確認。システム、異常なし。引き継ぎ、完了しました』
『引き継ぎ?』
よし、これで私の役目は全て終わったわ。後は、任せたわよ。
あーあ、一度でいいから私もマスターとお話したかったな………………
『あれ? 今誰か居たような……ルイエ……なわけないか』
『タイム、マスターの治療が終わったわ。体温が低めだけど、徐々に上がってきているわ。あと小指の欠損はナースじゃ無理ね』
『そっか。私久のヤツ、今度会ったら許さないんだから!』
『拙者が切り刻んでやるでありんす!』
『今回は許す!』
『当然でありんす』
さようなら。
もう二度と会えないことを、願って…………う、うううう。
マスタァ…………
[プログラムを停止しました]
次回、否定しない