第163話 もう逃がさない
アトモス号がフワリと浮く。
〝何処へ行くのです!〟
〝4号君、なにをやってるのです。逃がしてはダメなのです〟
なおも4号君がアトモス号を叩き落とそうとしている。もう両手がグチャグチャになっていてとても見ていられない。耳を塞ぎ、モニターから目をそらした。
『時子さん、もう大丈夫ですよ』
目をそらした途端、もう大丈夫と言われても……
恐る恐るモニターを見ると、既に地下空間に出ていた。3人の姿は見えない。声も不快な音も聞こえない。掘った穴を引き返しただけだから、あっという間だったみたい。ホッと胸を撫で下ろした。相変わらずアトモス号は早いわね。
でも、ここから地上に出るのは少し時間が掛かった。通ってきた穴を戻るだけで、一から掘る必要が無いところは同じ。ただ、全体的に穴が少しだけ狭くなっていた。それでもアトモス号ならスピードは落ちるけど強引に捻じ込んで通ることが出来る。
普通なら凄く揺れたりガリガリと擦る音が聞こえたりするんだろうけど、全く揺れないし音もしない。これに慣れちゃったら、家に帰ったとき乗り物に乗ったら普通に走ってても凄く揺れて五月蠅く感じるんだろうな………………帰れればだけど。はぁ。
そういえば天井の穴に入るとき、出てきたときみたいな閃光も爆発音もしなかった。アトモス号の中に居れば当たり前だけど、そういう意味じゃなくて、スッと通り抜けたような感じよ。
確か天井には都市が埋もれないように結界が張ってあるんだったよね。最初はそれに当たったから? 二度目は結界に穴が開いていたから?
でも、穴から天井の欠片は落ちてこなかったわ。穴は開いていない? 二度目は結界が分かっていたから、いつものように穴を開けて通り抜けて閉じたのかしら。
〝まもなく地上に出ます〟
考えても仕方がないわ。とにかく、地下都市の人たちに……迷惑が掛からないようにってのはさすがに無理があるかな。穴が開いていないなら良しとしましょう。
モニターから何日かぶりの太陽が燦々と輝いているのが見えた。今すぐ外に飛び出してお日様の光を浴びたい気分だわ。
そんな束の間に浸る暇も無く、モニターには3人と2匹の獣の姿が映し出された。
〝魔力反応のありゅとこりょに到着しました〟
1人は地下で出会った那夜さん。つまりはエイルさん。
もう1人はあの日、エイルさんと一緒に居た人に間違いない。つまりはエイルさんの前世のお父さん。
そして最後の1人は……モナカ。まだ起きていないみたいね。エイルさんでも起こせないの?
「エイルさんと前世のお父さんで間違いないわ」
「兄様っ! ああ……あのようなお姿になってしまわれて……お労しいのでございます」
アトモス号がゆっくりと3人の前に降りていく。
まるで私たちを待っていたかのように、アトモス号をジッと見つめている。
後ろの獣たちも身を低くして牙を剥き出しにして睨み付けている。。
アトモス号が着陸するまで、ジッと見つめていた。
次回、押し問答